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世界の裏
しおりを挟む「ウチに来る依頼は妖怪がらみのものだ。勿論そのビラや俺自身を見ることが出来る存在しか相談に来ないからな。お前みたいなのは異例中の異例だ」
店主はどこか気怠げに、着流しを捲り上げて胡座をかきはじめた。そんな粗野な仕草をしようとも、店主の優美さは失われず、全く不公平な世の中だと思わざるを得ない。
「そもそも、お前はこの世界について理解が十分じゃないだろう。猫又、説明してやれ」
「にゃ?!なんで吾輩が……」
猫又はぶつくさと文句を垂れてはいるが、知識を披露する場を得て嬉しいのだろう。エッヘン、という気取った表情で妖怪の世界について話しはじめる。その様は、まるで下級生に勉強を教える上級生といったところだろうか。
「よし、不勉強な人間に教えてやろう!この世には“彼は誰時、白昼、黄昏時、黒夜”の時間区分がある。お前ら人間は、吾輩たちの力が弱まる白昼に活動しているからな。吾輩たちと干渉し合うことはまずにゃい」
なるほど、妖怪たちは昼に力が弱まってるけど、それ以外の時間であれば他の人間でも視える可能性があるってことか。
……白昼だと力が弱いのなら、夕暮れから夜明けまでにかけては、本とか映画とかでよく見る“百鬼夜行”のように様々な妖怪たちの息吹を目の当たりにするのだろう。
想像しただけでも、身震いするような悪寒が背を走る。
妖怪が闊歩する瞬間が本当にあることを知った俺は、世界の裏っ側に触れてしまったかのような感覚だった。フィクションだと思いたかった。
「だが、お前はその不文律を容易く破ったのだ。吾輩はそんなお前がどうなっていくのか楽しみで楽しみで……おっと、つい本音が」
ゴホン!と態とらしく咳払いで誤魔化す猫又。普通であればツッコミどころ満載の今の発言も、その人間臭い動きで乗り切られようとしていた。数回喉の調子を確認するフリをしてから、その小さな口で歌うように声を張り上げる。
「兎にも角にも、本来であれば交わらなかった二つの世界。お前の言う通り、お互いに干渉し合わないよう、早めに力を取り除いたほうが妥当だとは言える」
「しかし、元々吾輩たちはいわば人間の鏡。人間の恐怖や疑念がなければ妖怪は生まれない、お互いに密接な関係だにゃ!故にそんなに急ぐ事でもなかろう。
これでも吾輩や店主を含む一部の妖怪は、人間界によく足を運んでいたんだぞ。ちょっとした悪戯もしたりしたが、そこらを彷徨く人間の願いを叶えるなんてこともやっていたにゃ」
猫又はイメージ回復に努めたいのか、渾身のエピソードを出してきた。調子がいいなあ、なんて思いながらも、俺は既に猫又の可愛さに絆されそうになっている。
白いモフモフの毛並み、満月のような煌めきを宿す瞳、流線型を描く愛らしい口……そして、ゆるふわな見た目と違って堅い語り口調。
全てが猫派の俺の『好き』を突いてくる。
(あぁ……今すぐモフりたい! )
「聞いておるのか人間!! 」
プンプンと効果音がつきそうな怒り方をする猫又に癒されながらも、俺は頷きを返す。兎に角、複雑な構造で世界が成り立っていることはわかった。それに、結局のところ俺が出来ることといえば、実直に、此処に来る妖怪たちの願いを叶えることしかない。
「妖怪のことはなんとなく分かりました。早速、俺に出来る依頼を回してもらえませんか? 」
俺がそう相談を持ちかけると、店主は少し驚いた表情をした後、口の端を僅かに上げた。
「せっかちな奴だ。そう都合よく何件も来るわけがないだろ……そうだ猫又、試しに此奴に依頼を出してみろ。今回は試用試験も兼ねて、猫又の依頼を達成してくれ」
「そ、それを叶えることができたら、条件達成まで残り3つになりますか?! 」
「ならん。試用試験だからな」
「う…っ! 」
ブラックバイトみたいなことを言いよる……妖怪相手にそんなに上手くは事が運ばないかと肩を落としていると、足にモフリと柔らかい毛が当たる感触がした。
「落ち込むな人間よ!吾輩の依頼は簡単なものにしてやろう」
「え、どんな内容ですか?」
「それは……」
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