臨時バイト先は、“よろずや あやかし”?!

はちのす

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対価

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 やっぱり、タダでとはいかないか。俺は束の間の喜びで、いつのまにか握りしめていた拳を解いた。

 妖怪の求める条件なんて、到底クリアできる気がしていない。どうせ注文が殺到するレストランのように、結局の所美味しく料理されてしまうような条件しか出されないのは明白だ。
 そんな失礼にも当たることを考えていると、店主は艶っぽい滑らかな黒髪から覗く目を鋭く歪ませた。

「心外だな。願いを叶える対価に、正当な報酬を要求しようとしているだけだ」

(あ、そうだった。心読めちゃうんだった……)

「今後は発言は勿論、思考にまで配慮することだな」

 店主はどこからか白い紙と筆を取り出すと、サラサラと文字を書き付ける。その文字は達筆過ぎて、読ませようという気がないように思える。その文字に既視感を感じ、記憶をたどってみると、あの怪しげなチラシに行き着いた。アレはこの店主が書いたもので間違いはないだろう。

 「条件はここ“よろずや あやかし”で最低4つの依頼を熟すこと。この条件を呑むならば、この書面に真名を書け。それを以って依頼を正式に受け付けよう」

「……え、依頼?」

「最近は何かと依頼が多い。元来妖怪と人間は密接な関係にあったが故に、お前にも対応出来る依頼も入ってくる」

 俺が提示された条件を未だ理解できず戸惑っていると、猫又の肉球が足の上にポンと乗せられる。
 条件反射で猫又の顔を見ると、猫の癖に妙に人間味のある表情をしていた。例えるなら、やれやれ、といった感じだ。

「普通ならば、対価を支払わねば依頼を受けてくれないのだが、人間のお前にはそれは困難だからな。店主なりの譲歩であろう……しかし、此奴が人間を雇い入れるとは、明日は本当に槍でも降るかもしれない」

 この論調はいわゆる通販番組で見る、“今ならお買い得”戦法だ。ちょっと心は揺らぐが、折角妖怪と縁を切るためにここに来たのに、逆に関わりを深くするような話は受けることは容易には受けられない。

(でも、この試練を乗り越えられれば、俺の将来は安定が約束されるはず)

 俺は葛藤しながらも、2年耐え忍んだ様々な苦行が頭を過ぎる。何を思い返してもやっぱり“空気蹴りの柳”と1年間呼ばれ続けた苦痛は忘れ難い。
 そういえばバイトもつい昨日クビになったんだ。時間は正直腐る程ある。数十秒の葛藤の末、書類を受け取りサインをした。俺は、まだ先の長い自分の未来を守るため、数日先の自分に負荷をかけることを選択したのだった。

「はい、これでいいですか? 」

「ああ。その依頼、“よろずや あやかし”が承った」

 縁側で優雅に俺の思案顔を眺めていた店主は、縁側から立ち上がり、俺から書類を受け取った。書類を握りこむと、どこからか黄色い炎が湧き出て、書類を燃やし尽くした。その瞬間、手の甲に異常な熱を感じ、急いで目視確認をすると……

「なんだこの異様な紋……? 」

手の甲になにかの紋が刺青のように浮かび上がっていた。

「契約の紋……どこにも逃げようのない、あやかしからの債権だ」

「さ、債権ですか……」

 耳にするだけでも卒倒しそうな響きだが、俺はこの“よろずや あやかし”で、なんとかこの力を返還する道を見付けられたんだ。もう迷っている暇はない。

「店主さん、これからよろしくお願いします! 」

「こりゃ面白いものが見られそうだぞ」

「コラ、見世物じゃないからな!」

猫又が呑気に毛繕いを始めた所を横目に見つつ、俺は店主からよろずやについての説明を受けることとなった。

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