所詮、狗。

はちのす

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作戦

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干渉と不信は紙一重だ。
そして、放任と信頼も取り違えやすい。

人は社会性が備わった生き物で、それが過剰にも不足にも振れる。
厄介な事に、感情があることで尚更すれ違いが起きる構造になっているのが現実だ。

「まだ拗ねてんのか、白王」

「いや、拗ねている訳ではない。懺悔しているんだ」

「懺悔?」

いつもと変わらないはずなのに、余裕のある車内で白王との距離をどう取ればいいか分からない。

一夜明け、正常に戻っているかと思われた白王の傷心は治っていないようだった。

「そうだ、主人が足手纏いなんて、君も格好がつかないだろう」

「いや、昨日のはそう言うのじゃなくてだな……」

いよいよ申し訳なさがプライドを上回ってきた。

根負けして弁解しようと心に決めた瞬間、間合いが悪く目的地に到着してしまった。
いつもよりも少しだけ荒いブレーキが掛かり、動揺する。

「さて、菖蒲さんにはどう手を打とうか」

「あ、あぁ。そうだな」

「そういえば彼女は、私の顔に執心しているようだな」

「は?何の話……まぁ、それは間違いないだろうな」

いわゆる面食いって奴だろう。

俺はさして容姿に関心が無いので不満もあまり抱かないが、菖蒲咲子の白王と俺への対応の差は誰が見ても明白だった。

例えば目線が全く合わないだとか、身体の向きだとか。そう言う小さい事を積み重ねると自分への関心が非常に薄い事に気が付く。

そもそも、五月兄弟も街中ですれ違えば振り返って眺めたくなるほどの美形だと思う。
顔が良い人間に異常なまでに執着するのは、菖蒲咲子の特徴とも言っていいだろう。

「そこで私からの提案だ。私単独で、彼女の警戒心を解きながら、五月はじめや親族から拒絶されている事を伝えよう。彼女も憎まれる相手が親族と知れば怯むだろう」

「はぁ?なんだそりゃ、昨日の意趣返しのつもりか?」

「いや、ただその方が陥落させやすい。それだけだ。彼女がこの件で手痛い仕打ちを受けて引く事になれば、まずはそれでいい」

「白王、よく考えろ。依頼者の関心がお前に行ったらどうすんだ」

「……私は過去に何度も一人で接触している。問題はないだろう」

「それは五月兄弟の存在があった事が前提だ。それが失われたとなれば、何に対象が変わるか分かったもんじゃないだろ」

変な所で意地を張り出した白王を宥める。

「あー分かったよ。お前を利用する形にはなるが……古くからある取り調べの手法を実践するとしようか」


******

ゆったりとしたソファに腰掛ける依頼者は、今日も華やかなワンピースを身に纏っていた。

自信に溢れた瞳は、手に入れられなかったものは無いと、そう彼女の人生を物語っている。

今日も俺の方には目もくれず、眉目秀麗な白王に話かけ始めた。


「……で、どうです?依頼から2ヶ月になりますが、進捗はあったかしら」

「ええ、大変お待たせしました。あと一つピースが揃えばご依頼は完遂できそうです」

「本当?!あの子の片割れが見つかったのね。なら、なんで連れていらしてないの?」

花が綻ぶような笑顔と共に、明るい声色で喜びを表す。
この瞬間に、もしもツグミが立ち会っていたとしたら……そんな想像が巡ってしまい吐き気が襲い来る。

脚本家の欲望ばかりが反映された、出来の悪いドラマを観ているようだった。

俺はチラリと白王に視線を配り、話の主導権を奪った。

「待ってください、ご依頼は"目撃情報が出ている五月はじめさんを見つけること"、でしたね。そちら以外は契約外ですよ」

「……何を仰ってるの?」

「遺族を探し出して貴方に差し出す事は契約外だと、そう言っているんです」

語気を強めて言えば、表情を一変させた依頼者が、酷く冷めた目で俺を見据える。

「追加で報酬を渡せと、そういうことですか?白王さんに変な入れ知恵をしないで下さい。彼はそんな方じゃないんです」

「いやいや、そんな下卑た人間じゃないです。ただ、人としてそれは出来ないと思っただけですよ」

「……?話が見えません」

「こちらに見覚えは?」

テーブルの上に、ツグミから託された遺品を置く。
それが何であるかを認識した瞬間、菖蒲咲子の顔から余裕の笑みが消え失せた。

「ハジメさんのスマートフォンです。とある方から託されました」

「……それで?それと依頼とがどう関係するんですか?」

まだ猫を被り続けている。
恐らくは、スマートフォンを見つけたところで、ただの探偵の身分で中身を見ることは出来ないと思っているのだろう。

「失礼を承知で、貴方とのメッセージの履歴を見せてもらいました。随分とハジメさんの生活を厳しく律していたみたいですね」

「……そんな訳ないでしょ。出鱈目を言わないで下さい。彼と私はとても上手く日々を過ごしていました」

「それにしては、メッセージの内容は不穏でしたね。位置情報を送れだのと……あぁ、そういえばフランスの物件はとても良いところでしたね」


── 一瞬の静寂が訪れる


賽は投げられた、ここからが正念場だ。
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