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2章 新生活スタート
19 ご褒美タイム
しおりを挟む美味しい料理に満足した俺たちは、帰路をゆったりと歩いていた。
昨日と同じ風景だが、一点だけ違う。
マーナの尻尾が垂れ下がり、明らかに元気がないのだ。
「マーナ、なんか元気ないな。」
「別に、いつもと変わらん。」
いや嘘つけ!尻尾は口程にものを言うんだぞ。
「マーナ、言いたく無いんなら良いけど…俺が原因なら遠慮せず指摘してくれよ。」
交流を始めて1日という短い間だが、俺はマーナの素直な尻尾と耳の動きに一定の信頼を置いていた。
だからこそ、何か言いたげなのは分かる。
それが何かは、口にしてくれないと分からないのだ。
「何でもない。気にするな。」
明らかに何でもなくない尻尾の動きになっている。
チラチラとこちらを見て、いかにも聞いて欲しそうな表情をしているのも気にかかる。
あと一押しかな。
「へぇ…そう。ならいいや、撫でてやんない。」
俺は朝校長室で口パクの要求があったことを忘れてはいなかった。
餌で釣るなんて卑怯だって?交渉で渡り歩いた社会人を見縊ってもらっちゃ困るな。
とうに恥も外聞も捨てている。
「っ!撫でて、くれるのか…?」
(は?)
帰ってきた反応は意外なものだった。
今まで垂れ下がっていた尻尾は激しく振られ、耳も忙しなく動いている。
え、なにこれ?
「ずっと他の奴の事を気にしていたから、もう撫でてくれないのかと思っていた。」
「え?何でそういう話になるんだ?」
「私の事は、もうどうでもいいのかと…」
(お、重ぉぉぉいい!!)
予想外の重さだ!!
普通に友好的な関係を築くだけでも重くなっちゃうタイプの人だ!あ、獣か。
これは毎日撫でないと不安になっちゃうパターンだな…
先が思いやられる。
(でも、確かに午後一杯ログハウスに縛り付けてしまったのは俺だからな。)
頑張ったワンちゃんにご褒美をあげる事にしましょうか。
*****
ソファに腰掛けるなり、マーナが体重をかけてきた。
「わ!待て待て。この体勢だとやり辛い。」
体勢を反転させ、お腹を撫でる。
(普通に撫で始めたけど、見た目30代男性なんだよな…とてつもない違和感。)
俺の心情を知ってか知らずか、
マーナは昨日より犬っぽい鳴き声をあげている。
「わふぅ…」
いや、お前狼だろ。
「カンザキ、手の感触が分かりづらい…直接触ってくれ。」
「え"」
とんでもない要求をしてきた。
更に、自らの手で服を捲り上げている。
バキバキに割れた腹筋や腹斜筋が露わになり、目が釘付けになる。
ー どんだけ鍛えればこんなに割れるんだ…?
「おい、早くしろっ…」
ポカンとしていたら、牙を剥かれた。
ひぃ、急に獣感出すのやめてくれよ…
ピトッ
「ァウッ…!」
「あ、冷たかったか?」
俺は万年冷え性なので、手先が冷たいのだ。
マーナの身体は熱く、手との温度差はかなりのものだ。
マーナは聞こえていないのか、ボーッとしながら俺の手を見ていた。
「はぁ…っん、」
温まってきた手でお腹をくるくると撫で付けると、ピクリと身体を揺らす。
この筋骨隆々な男が俺の手で解されていると思うと可笑しくて、脇も撫で付けてみる。
「…っあ!」
ビクリと身体を揺らし、身を縮こませてしまった。
(からかいすぎたな)
不機嫌になる前に、尻尾の辺りも撫でてあげますか。
マーナの腰を掴み、俺に向かって倒れ込ませる。
重量はかなりのもので、踏ん張っていなければ負けてしまいそうだ。
昨日と同じく、腰の下あたりの尻尾の付け根をグリグリと撫で回す。
尻尾が振動に合わせて揺れ、速い呼吸音が聞こえてきた。
「はぁ…はぁ…もっと優しく撫でてくれ…」
あれ、ソフトタッチが好きだったのね。
指先で突くように刺激してから、ゆっくりと掌を這わせた。
かなり気持ちいいようで、腰が揺れ動く。
「んっ…」
前から思ってたんだけど、動物って撫でられてる時こんな声出してるの?
マーナだけ?
虐めたくなるというか、何というか…
強めに付け根の下を押し込んでみると
「…ゎあんっ!」
あ、ちゃんとワンって言ってるわ。
「マーナ、疲れた。もういい?」
「ん、いいぞ…」
マーナの目はいつもギラギラとしているが、撫で終わった後はトロンとなる。
その変化も面白くて、ついつい構ってしまうんだよな。
「じゃ、おやすみ。…マーナどこで寝るの?」
「カンザキのベットだが?」
「狭くなるからやめろ。
確かそっちの書斎っぽい部屋にもう一つベットがあったはず。」
「む、仕方ないな…」
何故か残念そうに尻尾を揺らし書斎に入っていった。
マーナは何故俺のベットで寝たがるんだ…
はっ、もしやこれも犬の習性…?!
いや違う、狼だったわ。
昨日より広く感じるベットに潜り込む。
明日から学院は授業再開か…
俺も通えたらいいんだけどな。
そんなことを考えていたら、いつのまにか目蓋を閉じていた。
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