残業リーマンの異世界休暇

はちのす

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2章 新生活スタート

20 剣技クラス

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ギョロロロロ…

おどろおどろしい鳥の鳴き声で起床する。
天気はいいのに、こいつのせいで台無しだよ…
この声を聞くたびに、俺は異世界にいるんだなと実感させられる。


ー まあ、ウジウジしても仕方ないよな。


気を取り直して、朝食を作りにキッチンへ向かう。

実は昨日研究室でお願いして、嬉しい事にセシルさんから食材をいただける事になったんだ。
勿論2人分の食材だ。


(マーナと住んでいることを知った時のセシルさんの表情、最高だったな…)


朝ごはん用という事で、毎日未明に食材が冷蔵庫に格納される事になっている。

本当に、足を向けて寝られないな。
明日からベットの方向変えようかな。



「今日の食材は…」


野菜と卵とパン、牛乳か…

今日の朝ごはんはフレンチトーストだな。


(この鳥の卵っぽいもの、もしやあのギョロロ鳥のやつじゃないよな…)


考えないようにしとこう。




「おはよう、カンザキ」


食事の準備が整ったところで、マーナが起きてきた。

まだ眠いようで、目が半開きだ。



「おはようマーナ。口濯いでから食べなよ。」


「む…」



目を閉じたままかぶりつこうとしていたのを止め、口を濯がせる。

昨日は風呂にも入ったし、そのせいか身体が軽い。

学院は今日から授業が始まる。
新学期か…他人事ではあるけど、ちょっとワクワクするな。

そこでふとマーナは何をするのか気に掛かった。
まさか授業を受けるなんて言わないよな?
明らかに履修範囲の知識以上のものが備わっているし、勉強の必要がまるでない。



「マーナは今日は何するんだ?」


「カンザキと共にいたい」


「いや、校長の助手とかの仕事があったらマーナ暇だろ?なんか考えといて。」


「…別に、したいこともない。」



マーナは拗ねたように尻尾を揺らした。

根が深そうな拗ね方だな…
でも、マーナの言うことも一理ある。

今まで学院内の守護を担当してきたんだ。
既にやりたいことなんてやり尽くしてるはず。

分体を置いているとはいえ、本体が余りにも遠くに出掛けるのも問題がありそうだしな…。

困ったな。


「カンザキは、あの黒小僧のところに行くのか。」


ブフォ!!!


「く、黒小僧?!」


「バールとか言う奴だ。」


黒小僧って!!小僧って!!

バールさんをぞんざいに扱うマーナに驚き、噴き出してしまった。

責任とってクリーン魔法掛けてくれ!着替えるのが面倒だ!



「セシルさんも中々だけど、バールさんの扱いも酷いもんだな。」


「彼奴には似合いだろう。…今日も行くのか?」


「へ?俺、マーナに行くって言ったか?」


「昨日去り際に彼奴が言っていたろう。『明日は…「あー!!ストップストップ!聞こえてたのか!!!」…私の聴覚は鋭いからな。」


あの一連の流れ、聞こえてたのか!あのマゾめ!

口汚く罵りながら、打開策を考える。
…弁明の余地なしなんだけど。



「カンザキは彼奴が良いのか…?」



ホラ、始まっちゃった。

マーナはこれで不貞腐れてたんだな。納得。
でもどうすることもできないので、頭を柔らかく撫でて誤魔化した。



「誰が良いとかじゃなくてさ。身寄りのない俺をまともに相手してくれる人がいるだけでありがたいんだ。」



それを聞くなり、マーナはハッとした表情になる。



「…すまない。察しが悪かった。忘れてくれ。」


「いいよ、ありがとう。」



食器を片付け終わり、出掛ける準備も完璧だ。



「マーナ、今日も一日よろしくな。」


「っ!ああ。」


*****


校長室に入室すると、少し挙動不審なセシルさんがこちらに視線を寄越した。



「あ、ああ。カンザキくんおはよう。マーナガルム様も…」


「おはようございます。」


…やっぱり昨日からなんかおかしいよな。
改めて謝ろう。


「昨日はすみませんでした。」
「昨日はごめんね。」


…あれ?


セシルさんも驚きながらこちらを見ている。


「あ、謝るべきは私だよ。昨日は見苦しいところを見せてしまったね。」


「あ、いえ。私もすみませんでした。」


なんだ。取り越し苦労だったか。

相変わらずセシルさんの動きは違和感が残るが、お互い謝罪したことで雰囲気が良くなった。

緊張した空気はストレスの原因になるからな。



「それで、今日からの事なんだけど、
カンザキくんには授業を受けてもらいたいんだ。」


「え!良いのですか?!私、魔力が無いんですが…」


「それも見込んで、1年の剣技クラス所属になるよ。魔法が使えなくとも、極められる技能だ。

それに、持たざる者の世界でも通用する技術だからね。」


「…っはい。」



そうか、身体が覚えれば、記憶を消されても能力は発揮できるし疑問はもたれないだろう。

言葉の節々で、自分はここに居てはいけない人間だと実感してしまう。



「辛いことを思い出させてしまったね。でも、記憶が戻らない場合はここにいても良いんだよ。

第一、魔法が効かない君が記憶を失うなんて、滅多なことじゃない。」

別の要因の可能性の方が高いんだから。


セシルさんはそう言い、俺に優しい目を向けてきた。

心因性の物と言いたいのだろうか。

まあそっちの方が都合がいいし、利用させてもらおう。

罪悪感に胸が痛むが、生きていく為だ。



「ありがとうございます。
あの、マーナはどうするんですか?」


「マーナガルム様には分体さえ置いてもらえれば自由行動を取っていただいて原則構わないんだけど…流石に授業に出るとなると、パワーバランスがね。」



セシルさんは困ったように笑った。

そりゃそうだ。

セシルさんが前に聖獣と言っていたくらいだ。
生徒と先生が肩を並べるようなものなんだろう。

それに、ずっと分体に仕事を肩代わりさせるわけにもいかないだろう。



「じゃあマーナ、授業中はきちんと守護の仕事をしてくれ。」



マーナはこうなることを予測していたのか、不機嫌そうに尻尾でソファを叩きつけていた。



「…ふん」


「マーナ、住む場所を変えろと言われているわけじゃないんだ。夜には必ず会える。」


「…待ってるからな」



そう言うと用件は済んだとばかりに、早々に退室してしまう。

あいつ、結構気分屋なところあるよな…



「じゃあ、授業について諸注意ね。」


セシルさんからの注意は以下の通りだった。


①魔力を元から所持していないことは公言しない

②なるべく魔法をかけられるような状況は避ける。

③人攫いの事件に巻き込まれ休校扱い、事件の後遺症で魔法が使えない設定になっている。

④困ったらダリアさんかバールさんに頼る。

日頃から気をつけていないと、ボロが出そうだ。
マーナにもこの設定に付き合ってもらおうかな。

でもこれでこの世界を、魔法を知ることができる。
例え自分で使えなかったとしても、原理を理解しておくのは大切だ。



「あ…そういえば、セシルさん。私は魔法が効かないんでしたよね?」


「うん?そうだけど?」


「何故かマーナのクリーン魔法はきちんと掛かったみたいなんです。」


「そうなの?凄い発見だよ。早速今度試してみよう。」



セシルさんは目をキラキラと輝かせながら、次の予定を取り付けてきた。


(まずい、自分から面倒事を増やしてしまった…)


興奮して1人脳内会議を始めたセシルさんを放置し、そっと校長室を後にする。

予鈴は9時と聞いてる。
初日から遅れるわけにはいかないし…


3分ほど歩き、そこでハッとする。



(勢いで出て来ちゃったけど…教室の場所、知らなかった…!)



一人でオロオロし始めた時、
ポンポンと肩を叩かれた。


(え?誰?)


「カンザキ!こんな所でどうしたんだ?」


「ユージン!」


思わずギュッと手を握ってしまった。
相変わらずタイミングバッチリな奴だな…!


「うわ!どうしたんだ?カンザキってそんなキャラだったか?」


「あ、ああ。すまない。実は今日から1年の剣技クラス所属になったんだ。
ユージンも一緒のクラスだったりするのか?」


早口でそう告げると、ユージンは驚きはしたものの、笑顔で手を握り返してくれた。


「本当か?!一緒に授業受けれて嬉しいよ。大丈夫。剣技クラスは各学年、属性につき1つしかないんだ。」


「そうなのか。実を言うと教室の場所が分からなくて…」


「お安い御用だ。連れてってやる。」


(さすがスポーツ系爽やかイケメン!やる事が違う…)


先を歩き出したユージンに続き、
キョロキョロと辺りを見回しながら教室を目指した。



【お知らせ】

タイトルを改題しました。
端的で分かりやすくなったなと思います。

今後とも残業リーマンをよろしくお願いします。

☆ なんとなんと、感想をいただいてしまいました…!!!
天にまで昇る気持ちです。
これからも執筆頑張ります。

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