残業リーマンの異世界休暇

はちのす

文字の大きさ
37 / 68
2章 新生活スタート

34 魔獣学

しおりを挟む


(エメル部長、少ししか喋れなかったけど、変わり者の匂いがプンプンしたな…)


大変失礼にあたるが、あの様子なら交友関係についても条件クリアできそうだ。



そんなこんな考えているうちに、セシルさんの待つ校長室に到着した。

扉を開けてみると、彼の麗人は机に向かって何かを書きつけていた。


瞳のサファイアは光を受けて輝き、銀糸の髪もサラサラと揺れ動く。

見つめていると視線に気がついたのか、慌てた様にこちらに顔を向け、微笑んだ。


…今日もセシルさんは完璧美形オーラを放っている。
イケメンは敵、なんていう僻みさえも出てこない。


「…ああ、ごめんね。集中し過ぎていたみたいだ。」


セシルさんは慌てた様に立ち上がり、席を勧めてくれる。


「こちらこそすみません。お忙しい時に時間を割いていただいて…」


「もう、そんな堅苦しいのは良いんだよ。さ、時間も惜しいし早速始めようか。」


「あ、はい。よろしくお願いします。」



*****


テーブルを挟み向かい合ったセシルさんは、何処から出したのか、如何にも『歴史的な価値があります』と言いたげな古めかしい本を取り出した。

表紙には様々な種類の獣が描かれ、題字には金の箔が押されている。

よく見てみると、古い書物だからなのか超訳は発揮されず文字は読めない。

広辞苑に並ぶ厚さの図鑑と言った風貌だ。



「私が教えるのは魔獣学。こちらの世界には、魔力を身に宿す生き物が沢山いるんだ。」


そう言いながら図鑑のページを捲ると、マーナみたいな大型の狼と、グリフの様な人の倍程もあるグリフォンが描かれていた。

というか毛の色までそっくりじゃん…。

セシルさんは敬う様な触り方でページをなぞると、こう言った。



「これがマーナガルム様と、グリフォン様だよ。」


「へぇ、そうなんでs……え、なんて?」


「あ、声が小さかったかな。ごめんね。
これが、マーナガルム様と、グリフォン様だよ。」


「あ、はい、そうですか…」


(ステイステイステイ)


え、図鑑に載ってんのあの二人?!というか二匹!
もしや、こっちの世界でも伝説的な扱いなのかな?!

(規格外の世界だからこれが普通なのかと思ってたけど、やっぱりレジェンド的な存在だったんだ…)


これはいよいよ不味いぞ。

もしこの二匹と仲良さげに話している所を見られようものなら、あれよという間に噂になってしまうに決まっている。

そんな事になろうもんなら俺が異世界人だとバレるのに然程時間は掛かるまい。



「(ジ・エンド、俺。)」



「おーい…カンザキくん、大丈夫?

心配いらないよ。マーナガルム様が人型を取っているところは、先生達でもそう何人も見ていない。」



「あ、そうなんですね…なら安心です。
(じゃあ何故俺には秒で警戒を解いたんだよおお!)」


ぜんっっっっっっぜん納得も安心も出来ないが、何とか暴れたい衝動を嚥下する。

このせいで奇異な目で見られて異世界人だってバレたら…


(セシルさんに多大な迷惑をかけつつ追放される…)


考えうる最悪のパターンだ。
なんとしてでも回避しなくては。


一人で決心を固いものにしていると、セシルさんが楽しそうにこちらを向く。


「カンザキくんもまだグリフォン様には会っていないかな?
魔獣部になったんだったら、今後お会いする機会もあるはずだよ。」



あっ、もう会ってます。
むしろ、懐かれました。

なんて、

(言えないよな…)



「は、はは…楽しみにしてます…」



拝啓、30分前の俺へ。
今日もまた心労が一つ増えたよ。



「そうそう、この方々が最初のページに載っているのには意味があってね。
どちらもこちらの世界の創造主たる存在の使徒だったと言われているんだよ。」


「へ、創造主…?」


また大きな話が出てきたな。


「そう、この世界は元々色々な属性の生物がいたんだ。今でこそ数が減ってしまったけどね。」


(ああ、生き残りをかけた全属性の戦争があったって聞いたな。)


「全ての属性をお作りになられた、創造主アルケ様。その使徒がマーナガルム様、グリフォン様…まあ、あとお一人いるんだけど、それは割愛。」


「え、割愛するんですか。」


「そうだね…グリム君に聞いてみるといいよ。彼、色々知ってそうだし。」


「は、はあ…」


(校長が生徒に丸投げってどうなのか…)


「…とまあそんなところかな。あとはこの近辺の魔獣達の話をするよ。」



その後もセシル先生の講義は続いた。

この森に住む魔獣は全世界のうちでもほんの一握りで、外に出ればもっと色んな魔獣に出会えるそうだ。

絶対行きたくないけど。
捕食される未来しか見えないからね。


ここで一つ疑問が湧く。

「魔人と魔獣って何処から枝分かれするんですか?」


「そうだよね、みんな疑問に思うはずだよ。
実は、創造主に仕えていた使徒を生み出した時に、魔獣と魔人を創造したんだ。」

「成程、では割愛された使徒は魔人なんですね。」


「そう言う事。で、そこから数を増やしていったんだよ。」


「へえ……あれ、セシルさん、魔族界隈の生物って何処から生まれてきてるんですか?」


セシルさんに純粋な疑問をぶつけると、セシルさんは大袈裟に肩を震わせ、取り乱した。


「え?!そ、それはっ…!
グ、グリフォン様が運んでくるのかなーーーー!!!?あはは…」


「え、そうなんですか?グリフォン様凄いですね…持たざる者の世界では同種で繁殖出来るんですよ。」


「ウッ…そ、そうなんだ…」


グリフってかなり多忙なんだな…五万といる魔獣、魔人全てを送り届けてるだなんて。


あれ…セシルさん顔真っ赤にしてどうしたんだ?
まさかこの話に反応して恥ずかしがってるわけもなかろう、三桁生きてきてそれは流石に…


セシルさんの目をジッと見つめると、何処となく気まずそうな雰囲気を醸し出す。


(え、まさかのまさか)


「生殖系の話、あまりしないんですか?」


「…!!!」


今度こそ顔から火を噴き出しそうな勢いで、顔面が赤く染まる。


「(もしやグリフが運ぶって話も、元の世界で言うコウノトリの例え話と一緒だったのか…!)…変なこと聞いちゃいましたね。すみません。」


「い、いや、良いんだよ。
持たざる者の世界の人達は、そっそそそういう話を普通にするのかな…?」


いや、ドモリすぎだろ。


「まあ、生命の神秘とでも言えばいいんでしょうか。秘匿することではありませんよ。」


「そ、そうなんだ…」


相変わらず顔を茹蛸の様に赤くしたセシルさんは、ゴホン、と咳払いをした。


「じゃ、じゃあ今日はここまで。次回は他のエリアの魔獣について学ぼうね。」



若干話を逸らされた気がするが、変に微妙な空気になるよりは良いだろう。


片付けを始めたセシルさんの動きが若干ぎこちないけど大丈夫かな…


その後はセシルさんが用意をしてくれたお茶を貰いながら、日が落ちるまで近況を話し合った。



俺は、穏やかな時間を過ごしながら頭の片隅で、


(関わるのはあまり気乗りしないけど…創造主の使徒、気になるし…明日グリム君に聞いてみるか。)


不穏な気配のする人物への接近を企てていた。



しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

処理中です...