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2章 新生活スタート
42 使徒の記憶
しおりを挟む「ただいま~」
「カンザキ、遅かったな。」
マーナが今日は玄関先で待っていた。
どうしたんだろう…
「マーナ、ご飯の時に色々聞きたいことがあるんだが…」
「む?なんだ?」
「マーナとグリフと…魔王のこと。」
「ほう、魔王か…久しくその呼称は聞いていなかったな。」
「そっか…まず、ご飯の用意をするよ。話はそれからにしよう。」
マーナは機嫌良さげに尻尾を一振りし、
ニヤニヤと笑っている。
「お前の望みとあらば、だ。」
「…ありがとう」
これは後で何かしら請求されかねないな…。
俺とマーナは夕食を食べながら、使徒について話し始めた。
「さて、カンザキは何が知りたい?」
「使徒ってマーナ達のことなんだよな?なんでこの学院にいる?」
「まあ、大した理由はないが…創世の使徒である我らが傷付かないよう、堅牢な檻にいてくれと。
…要するに、厄介払いだ。」
「厄介…?」
「今後は魔獣や魔人の世界に様変わりする。老輩は出る幕がないと言ったところだ。」
「なんだそれ…勝手過ぎるだろ」
「若気の至りということにしておいてやってるんだ。」
マーナはそういうと尻尾をゆるりと動かす。
「マーナ達はここに来てから何年ぐらいになるの?」
「マジナス学院は今年で創設より200年になる。」
「え、まさか創設の時からここにいるのか?!」
「そういうことだ。あまりに長くいるから、学院の守護者、なんて不名誉な渾名までつけられた。」
不機嫌そうに言うと、食べ終えた食器を横に避け始める。
次は大物の肉を食らうらしい。
というか、200年も同じところにいたらそりゃ退屈にもなるよな…!
「となると、グリフもか…」
「そうだ。彼奴はそれもあってか、最近寝てばかりいるな。」
「確かに…」
創世の使徒を閉じ込めて、国を発展させて…そのままマーナ達が死を迎えるまで放置しておくつもりなのか?
俺の中で、マジナ共和国への評価がドン底まで落ちる。
いつか、マーナやグリフを連れて学院を出てみようか。
こうして過ごしてみて思ったけれど、
俺の記憶は、ここでは戻らない可能性もある。
「…あ、あと魔王についても聞きたかったんだが。」
「ああ、彼奴の話か。対して面白い話ではないぞ。」
「別に面白話を求めているわけでは…」
「違うぞカンザキ。胸糞が悪いと言う意味合いだ。」
ハッッ、社畜の最終奥義、空気読みが発動しなかった…っ!
「どこまで知っているかは知らんが、彼奴は魔力を捻出しすぎたが故に我を失った。
我らも抑えに回って、今の帝国の土に埋められている。」
「え、マーナ達も魔王封印に協力したのか?」
予想外だ。
どちらかと言うと、マーナ達は魔王に加担するかと思ってた…同じ使徒だからね。
俺の考えは的外れだったのか、マーナはフンと鼻を鳴らす。
「我を失えば邪悪と同義。我らはそうなった者に容赦はせん。」
「そういうものかあ…」
「それに、魔王を封じたはいいが、魔王信仰の拠点である帝国に眠らされているわけだ。
結局のところ、いつ復活してもおかしくないぞ。」
「そっか、帝国は魔人による統治を目指しているんだったな。
それなら魔王は必須の存在なのか…」
「そういうことだ。彼奴も自我を失っていなければ善人なんだが、封印されてどうなったかを確かめる術もない。」
「魔王ね…直感では、良い人だと思うんだけど。」
「それは共和国の連中の前で言うなよ。処罰の対象だ。」
「うげ、共和国こわ…」
やっぱり共和国はあまりいけすかない感じがするな…
「マーナ。」
「むぐ…なんだ。」
マーナは肉の塊を頬張りながら俺をチラリと見る。
「マーナは自由になりたいか?」
「…は?」
噛みちぎろうとしていた肉をポロリと口から落とし、何を言われているか理解できないと言った顔をしている。
「ここじゃないどこかに行きたいか、ってこと」
「…それは、学園から出ると言う意味か?」
「ああ。」
マーナはゆっくりと目線を彷徨わせ、逡巡する。
「いや、私は…」
「俺、半年くらいで学院を出ようと思う。」
「は?」
「セシルさんには申し訳ないんだけど…数日間過ごしてみて分かった。
ここでは俺の記憶が蘇ることはない。」
ガタッ!!
血相を変えたマーナは音を立てて立ち上がった。
マーナは毛や尻尾を逆立てながら威嚇する様な勢いで俺に訴えかける。
「どうやって生きていくんだ!外は魔獣だらけ、魔人だってそう良い奴らばかりではない!!
それに……」
急に勢いを無くした語気と呼応する様に、尻尾がたらりと下がり、耳が萎む。
「…私を置いていくのか。」
心臓がギュッと鳴った気がした。
今すぐにでも耳や身体を撫で回したいが、マーナの勘違いを訂正せねば。
「マーナ。」
俺は席を立ち、マーナに近づくと震える手を握りしめた。
ピクッ、と反応する手の指一本一本に自分の指を絡ませて握り込んだ。
「だから、その時は一緒にここを出よう。」
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