残業リーマンの異世界休暇

はちのす

文字の大きさ
62 / 68
2章 新生活スタート

58 先生

しおりを挟む

(さてと、まずは誰に報告しようか。)

挨拶も兼ねて、職員室に行こう。
今回の魔法模擬試験の件でも、色んな先生にお世話になりっぱなしだったし。

広く長い廊下をゆったりと進む。
マーナと初めて会った時も思ったが、この学舎の作りは驚くほど技巧に富んでいる。


「マーナは剥製の様にただ鎮座するだけって言ってたな…確かにそれじゃあ退屈すぎて、学院に貢献しようとは思えないかもしれない」


その時に思いを馳せていると、溌剌とした声に呼び止められる。


「おっ、カンザキ!今帰りか?試験はどうだった?」

「あ、ダリア先生。色々協力していただいて、ありがとうございました。お陰様で、上々の出来でした」

「そうか!それは良かったなぁ、境遇は大変だったろうが結果が出るのは楽しいだろう」

「そうですね、大変勉強になりました…ちなみに、魔獣学では優秀者になったんですよ」

「は、優秀者?!俺も取ったことないのに?!」

「ダリアさん、それ言わなくてもいいんですよ…!」

「あぁ、すまんすまん。しっかし凄いな!よくやった!」


わしゃわしゃわしゃーッ!

感情が昂ったダリア先生により、思いっきり髪の毛を掻き回される。

ダリア先生は自分の事のように喜んでくれていることは伝わるのだが…


「あの!皆さんのおかげで…!!うわっ」

「はははっ!今日は良い日だな!」

「…はは、そうですね~」


髪の毛が鳥の巣状態になってしまい、遠い目をしてしまうのは許してほしい。


「来年も試験がんばろうな、次は国史でも優秀者になってくれよ!」

「あ、その事なんですが…」


かくかくしかじか、事の経緯を説明すると、大口を開けて驚いた。


「そ、そうか…だが、確かにこの期間過ごしていて記憶が戻る予兆もないのなら仕方ないな。」

「ここまで良くしていただいたのに、申し訳ないです」

「ああ良いんだよ、お前が思う道を行け。…しっかし、創世の使徒に気に入られて連れ立つなんて、学院が始まって初の事だ。きっと、良い旅になる!」


そう励まされ、ハイル先生にも挨拶をしてこいと送り出された。

(最後まで良い人だったな、ダリア先生。)


「ハイル先生!」

「あぁ、カンザキ君。この度はおめでとう…何かありましたか?髪の毛が散々乱れていますよ」

「あ、すみません!ダリア先生にやられました」


俺は直ぐにダリア先生を売った…いや、嘘偽りなく事実を述べた。


「ダリアさんが…?無意味にこんなことはしないでしょう、どうしたんですか」

「あぁ、それが…」


俺が事情を説明すると、ハイル先生は深く頷いた。


「記憶、戻ると良いですね。貴方の行先に幸多からんことを…あぁ、動かないで。髪、整えて差し上げますので」


ハイル先生の剣術で鍛え上げられた武骨な指が、俺の髪を往来する。

時折、耳にあたる指が擽ったくて、笑みが溢れそうになった。
数十秒すると髪を整え終わったようで、ポンポンと俺の頭を軽く撫で、半歩後ろに下がる。


「はい、終わりです。貴方の髪は素直で艶がありますね」

「え?」

「…いえ、何でもありません」


ハイル先生に髪のことで褒められるなんて。

いつも研ぎ澄まされた水の様な清らかさだから、そんな褒め方をするとは思っていなかった。

(この人、ロボットじゃないんだった。そうだよな…)


「ありがとうございます、ハイル先生の髪も美しいですね…芯の強さと柔軟さを感じます。先生みたいに」

「あ、ありがとうございます」


素直な褒め言葉に、ハイル先生は顔をそっと赤らめて俯いた。

最後になってようやく、こうして他愛もない話が出来たことが喜ばしい。

また、何かのキッカケで会えるだろうか。


「では、バール先生にも挨拶に行ってきますね。ありがとうございました!」

「ええ…また、旅からお戻りになったら私のクラスへ来てください」


心がほわっと温かくなり、足取りも軽くなりそうな物だが、次に訪れる場所を思って気分が重くなる。

…次は、バール先生だ。


「なんて言われるんだろうか…」


この後のことを想像して、軽く身震いをした。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

平凡なぼくが男子校でイケメンたちに囲まれています

七瀬
BL
あらすじ 春の空の下、名門私立蒼嶺(そうれい)学園に入学した柊凛音(ひいらぎ りおん)。全寮制男子校という新しい環境で、彼の無自覚な美しさと天然な魅力が、周囲の男たちを次々と虜にしていく——。 政治家や実業家の子息が通う格式高い学園で、凛音は完璧な兄・蒼真(そうま)への憧れを胸に、新たな青春を歩み始める。しかし、彼の純粋で愛らしい存在は、学園の秩序を静かに揺るがしていく。 **** 初投稿なので優しい目で見守ってくださると助かります‼️ご指摘などございましたら、気軽にコメントよろしくお願いしますm(_ _)m

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

処理中です...