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2章 新生活スタート
59 首輪
しおりを挟むバンッ!
「今、なんと言った…?」
神崎、窮地に立たされております。
案の定、というか…バール先生に事情を話した瞬間、研究室のドアに壁ドンされてしまった。
かなり逆上しているようで、俺が困り顔をしても知った事かと睨んでくる。
「交わした取引はどうする!錬金術や私の知識は…まさか、私が不要になった…のか?」
それなのに、段々と声色は弱々しくなり、震えて消え入りそうになっている。
何も言わずその様子を見ていると、遂には、赤く輝く瞳からは透明な雫が伝っていく。
「いやいや、違いますって…ほら、泣かないでください」
指で優しく拭うと、バールさんはその指を嫌がる様に身を捩らせる。
「…やめろ!」
「なんでですか」
「優しくするな!私を捨てる癖に…!」
(この取り乱し方は、初めてだな)
じゃあ正常な状態はなんなのだと聞かれると難しいが、少なくともいつもの余裕が何処かへ吹っ飛んでいた。
そっと肩に触れようとすると、また身体をビクつかせ離れてゆく。
俺を囲っていた腕も、怯えた様に引いていった。
「…っ、やめてくれ。私を捨てたんなら、さっさと何処へでも行け」
イヤイヤと首を振って、研究室の奥へと逃げようとするバールさんの腕を掴んで引き寄せた。
「いつ私…俺が貴方を捨てましたか?
魔法を使えば、どこに居ても転移だって出来る。そうすれば、触れようと思えば触れられるでしょう?
俺を排除しようとしているのは、貴方ではないんですか」
「……この首輪が君の目に届く所になければ、リードの先に繋いでおけないだろう?それならば捨てられたと同じだ」
バールさんは、震える指で自身を縛り付けるための首輪を撫でる。
不確かなものが嫌いなんだ、きっと。
関係性が目に見える形になっていないと安心出来ないんだろう。
だから首輪だの取引だのを持ち掛けてくる。
「形のある束縛だけで、人の関係性が成り立っているわけではありません」
「……」
そこで、ようやくバールさんは俺と目を合わせた。
瞳に溢れんばかりの涙を溜めて、俺をじっと見据える。
(何を求めているかなんて、分からないけど…)
こちらを凝視するバールさんの腰をゆっくりと引き寄せる。
自然と抱きつく形になり、肩口にバールさんの髪が触れた。
手を背に回し、幼子を宥める様に優しく叩く。
「バールさん」
「……」
「俺がどこに居ようと、バールさんとの関係性は変わりませんよ。まぁ、外で"蹴ってくれ"と請われても困りますけど」
「そんなもの、信じられるか」
「じゃあ、どうしたら信じてくれます?」
そう聞くと、バールさんは突然懐から光る紙を取り出し、それを俺に差し出してくる。
「…しろ」
ボソッと何かを発言したのは分かったが、如何せん小声すぎて聞き取れない。
「え?聞こえないです。もう一度」
「ッ、この契約書に、サインしろ!私を貰い受けるという内容だ」
「…ん?」
「形が無いものは信じない。これは私の信念の問題だ。…だから、誓ってくれ」
(えっと、つまり…?主従契約、的なやつか)
「いやそれはちょっと…」
「何故!」
「これを承諾したら、バールさんの自由がなくなっちゃいます」
「そんなものは元より求めていない。さあ、早くサインしろ」
(決意固っ!)
「分かりましたよ…俺が死んだり失踪したら無効で。それは加えてくださいね」
「…分かった」
俺が渋りながらも記名をすると、バールさんはその紙を大事そうに懐へ仕舞い込む。
そしてそのまま、荷物を纏め始めた。
「え?何してるんですか」
「ついて行く。決まっているだろう、私の身元は君に属するんだから」
「えええ…?!」
その後、俺がいくら説得をしようと、固く決意したバールさんを止めることはできなかった。
(セシルさん…ごめんなさい、もう1人ついて来ちゃいます…)
******************
本日完結予定でしたが、1日伸びます。
申し訳ございません。
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