残業リーマンの異世界休暇

はちのす

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2章 新生活スタート

61 新天地への旅立ち

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「マーナ、ただいま…あれ?」


皆に挨拶も済ませ、意気揚々と家に帰ったのだが、そこはもぬけの殻。

マーナは何処かへ出掛けているらしかった。

(いつもの森かな?)


マーナの行き先で、心当たりの場所に向かう。

ギョロロロロ…と不気味な鳴き声が微かに聞こえてくる。
この世界に来た当初と比較にならないほど、この森は安全になった。

マーナが危険な魔獣を遠ざけてくれていると言ってたな…有り難さしかない。


「…マーナ?」


体感時間1時間ほどだろうか。
俺の行けそうな範囲を捜索し始めたのだが、ぐるっと見回しても、草の根を分けても…どうしてかマーナは見つからない。


「どこ行ったんだ、マーナの奴…」

「私を探しているのか?」


はぁ、と溜息混じりに愚痴をこぼした瞬間、すぐ横で耳馴染みのある声が聞こえた。

声の方に振り向くと、そこには銀狼の姿をしたマーナが、大きな口を歪ませて鎮座していた。


「…マーナ。探したよ」

「すまない。カンザキが探し回ってくれているのを見て悦に入っていた」

「へぇ、良いご趣味で」


口を歪ませたまま、いけしゃあしゃあとそんな事を抜かす。
……こちとら、必死に森を探し回ったっていうのに。

思わず白い目でマーナを見ると、また嬉しそうに笑い声を上げた。


「私は、大事に想われているのだな」

「当たり前だろ。何を今更…あ、そうだ。セシルさんに冒険の許可を貰ったよ。準備が出来たら此処を発とうか」

「…そうか。カンザキ、忠告しておこう」


(忠告…?)

マーナはこちらへ近寄ると、銀狼の姿のまま、膝を折って俺に顔を寄せた。

向こうの世界には存在し得ない、大きな瞳が、不思議そうな表情をする俺を写す。


「これから先の旅、私1人ではなく様々な者と交流を重ねていくだろう。そして、カンザキの世界は広がる」


「…だとしても、努努私を楽しませる事を忘れるなよ。一度出て仕舞えば、私は何処へでも行けるのだ」


ギラリと光る目は、ともすれば俺を獲物として見ているような鋭さだが、そんな筈がないことは俺が良く知っている。

(つまり、退屈だと思ったら逃げちゃうよ、ってことか)

マーナは大真面目みたいだし、真剣に答えよう。

(…この手で!)


モフッ!


「ッ!おい」

「マーナは俺の手が好きなんだろ、本当に離れられるか?」

「ぁふ…ん」


フワフワ…モフモフ…

いつもの人の姿と違い、銀狼姿だと毛の感触が抜群に良い。

手に馴染み、掌を擽るような毛の感触が癖になりそうだ。


「…ん」

「気持ちいい?」


先程の威勢はどこへやら。
目がとろん…と蕩けてしまっている様子を見ると、先程の発言は俺の気を引こうとした発言にしか思えない。

近所のタロも、俺が他の犬と戯れて帰ってこようものなら、吠えたり、服に噛み付いたりと色々してきたもんだ。


(おーよしよし…)


「わふ…ぅ」

「マーナ、舌出てる」

「む、ん…出ていない」

「今閉まったろ…あ、そうだ。冒険にバール先生とグリムも着いてくることになった」

「グフッ?!」


咽せるように息を吐き出すと、先程まで伏せの体勢だったマーナが、飛び上がるように立ち上がる。


「お、おい!次から次へと…!何故パーティーを増やすんだ!」

「まぁまぁ、色々事情はあるんだ」

「ぐぅ、目を離せばすぐこれだ…ッ!」


マーナは今度こそ熱り立ってログハウスへ戻っていってしまう。

(臍曲げちゃったな、ありゃ)

バールさんと交わした契約の話をしたらどんな反応をするのだろうか。

俺は苦笑を漏らし、尻尾をいつもより力強く振りながら前を歩く背を追いかけた。



*****************



「カンザキ、まず最初の休憩地点に着いたら必ず連絡してくれ。あと、帝国に入る時も…あぁ、あと寝る前に…」

「おいユージン、流石にそれは無理があんだろ」

「心配してくれてありがとう」


俺たちの手には、連絡用として購入した魔具が握られている。

内部に魔力が溜められていて、定期的に補充する形らしい。

(まるで現代のスマートフォンだなぁ)


この魔具は、街で装備を見繕いつつ立ち寄った、イリアさんの店で購入したものだ。


『冒険に出ル?そうカ、それは良かっタ』


と、憎まれ口を叩きながら持たざる者にも使いやすいアクセサリーをいくつか持たせてくれた。

(素直じゃない人だ)


ホクホク気分で学院の門へ向かうと、そこには人型のマーナやグリフ、バール先生が待っていた。


「…カンザキ、確認だが、パーティーメンバーって…あの人らか?」

「嘘だろ、なんで先生までいるんだ」

「あー、あぁ。色々あって…」

「しかも他の2人、かの有名なマーナガルム様とグリフォン様なんだよぉ…ププ」

「…マジかよ」


ザックとユージンは開いた口が塞がらないようだ。

俺はむず痒い気持ちになり、気を紛らわせるために大きめの声を出す。



「あー…多分、この世界で1番のパーティーだよ」



俺の異世界休暇は、まだまだ終わりそうにない。
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