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第8話
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次の日午後
僕は朋美さんが出勤してくるであろう時間帯に、二人きりになれそうな場所で朋美さんを待ち伏せした。店内従業員通用口の外だ。ここで朋美さんにハッキリと気持ちを聞こう。ちゃんと気持ちを聞かなければ、ずっとモヤモヤして仕事も手に付かなくなる。もしフラれたとしても、それはそれで前に進む覚悟は出来た。そして待つこと5分…朋美さんの姿が見えた!しかし…別のパートさん、坂本知子さかもとともこさんも一緒に並んで歩いている…これでは流石に朋美さんに話しかけることは出来ない。僕はきびすを返して店の中へ入ろうとした。そのとき、坂本さんが
「あら、北村君!おはよう!」
そう声をかけてきた。僕は気まずいながら振り返り
「おはようございます。もう昼過ぎてますけど…」
そう言って通用口のドアを開けて、二人が入るまでドアノブを持って待った。
「あら、ありがとう!レディファーストね」
坂本さんがそう笑顔で言いながら通って行く。そしてその後ろを朋美さんが…僕に目を合わさず軽く会釈して通って行った。その朋美さんのぎこちなさに僕は確信した。やっぱり朋美さんは僕を恋愛対象としては見ていない!きっと僕の気持ちには気づいていて、それで僕の口から聞き出したかっただけなんだ…僕はなんて恥ずかしいことをしてしまったんだ…朋美さんの家に押し掛けて、勝手な想いで親切心押し付けて…僕は自分自身の愚かさに虚しくなって二人の後ろをトボトボと歩く。坂本さんが
「北村君は優しいよねぇ~」
朋美さんにそう話しかけていたが、朋美さんは「そうねぇ」と、ひとこと言っただけだった。僕は複雑な想いで朋美さんの後ろ姿を見つめる。昨日の朋美さんとのやり取りが嘘のようによそよそしく感じられるこの状況に、ますます僕は自信を失っていった。朋美さん…やっぱり…僕は…僕の期待は…儚い幻だったんでしょうか?仕事に戻っても僕は沈んだ気持ちを切り替えられずにいた。僕は商品の品出しや加工をしながら、チラチラと朋美さんの姿を目で追う。変わりなく綺麗で可愛い朋美さんだが、どこか昨日までとは違う、どこか遠い存在のように思えて淋しくなる…あんなカミングアウトするんじゃなかった。あの時あの言葉を発しなければ今頃こんな切ない想いはしなかっただろうに…そんな恨めしい気持ちで朋美さんを見つめる。朋美さんも僕の視線が気になるのか、何度か僕の様子をうかがうようにチラッ、チラッと僕の方を見る。この日、ずっとお互いぎこちない空気が流れ、お互い何となく言葉を交わすことも出来ずに朋美さんが帰り支度を始めるのを僕は複雑な想いで見ていた。朋美さん…淋しいよ…このまま帰っちゃうの?何も言わずに帰っちゃうの?何か言葉をかけたい…一言でも何か言葉を…そう思いながらも、なかなかかける言葉も見付からずに朋美さんが着替え終わって僕を置き去りにしようとしている。切ない…淋しい…フラれたと思ってもやっぱり淋しいよ…朋美さん…置いていかないで…せめて何か一言でもいいから下さい!そう心の中で叫んでいた。そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、朋美さんは軽く振り返り、周りの皆が気づかないように僕に小さく手を振って行ってしまった。いつもとは違う二人を、周りの人達はどう感じたんだろうか?普段ならもっと積極的に朋美さんから僕に話しかけていたはずだ。それが、いきなり僕に塩対応になった朋美さんを皆は全く気付かなかっただろうか?特に気にする様子も無かったように見えた。僕が過剰に気にしすぎているだけだったんだろうか?いや、明らかにぎこちなかったはずだ。こんな事がこれから毎日続くと思うと、この先が地獄のような時間になりそうだと思った。そしてこの日の片付けまで全て終わり、夜の7時を回って僕はタイムカードを押して足取り重く車へと向かった。従業員通用口のドアを開けて車のロックをリモコンで外しドアに手をかけた時、急に後ろから声をかけてきた女性…それは正しく僕がずっと欲していた憧れの朋美さんの声だ!僕は驚きながら振り返った!
「鈴木さん?」
僕は建物の明かりでうっすら見える朋美さんのシルエットにそう声をかけた。朋美さんがゆっくり僕の方へ歩み寄って来て
「和ちゃん…昨日はありがとう…」
朋美さんの言葉には、いつもの元気はなかった。しかし、朋美さんが仕事を終えてから一時間あまりここで僕を待っていてくれたのかと、歓喜のあまり声が上ずる。
「鈴木さん!もしかして…僕を待っていてくれたんですか?」
「うん…その…昨日は何だか中途半端に別れたから…その…ちゃんとお話ししなくちゃと思って…」
朋美さん!そうですよね!やっぱりあんな別れ方したらお互いモヤモヤしてしかたないですよね!自分の中で消化不良おこして凄く切なかったし、朋美さんの気持ちはちゃんと聞かせてもらわなきゃ…
「あの…鈴木さん…車で送って行きます。先ずは車の中でお話ししましょう!」
僕はそう言って朋美さんを助手席に誘導した。朋美さんは軽く頭を下げて助手席に乗り込む。エンジンをかけてゆっくり始動させ、朋美さんのアパートへと向かう。しばらくお互いどう切り出せばいいのかわからず沈黙が続いた。
僕は朋美さんが出勤してくるであろう時間帯に、二人きりになれそうな場所で朋美さんを待ち伏せした。店内従業員通用口の外だ。ここで朋美さんにハッキリと気持ちを聞こう。ちゃんと気持ちを聞かなければ、ずっとモヤモヤして仕事も手に付かなくなる。もしフラれたとしても、それはそれで前に進む覚悟は出来た。そして待つこと5分…朋美さんの姿が見えた!しかし…別のパートさん、坂本知子さかもとともこさんも一緒に並んで歩いている…これでは流石に朋美さんに話しかけることは出来ない。僕はきびすを返して店の中へ入ろうとした。そのとき、坂本さんが
「あら、北村君!おはよう!」
そう声をかけてきた。僕は気まずいながら振り返り
「おはようございます。もう昼過ぎてますけど…」
そう言って通用口のドアを開けて、二人が入るまでドアノブを持って待った。
「あら、ありがとう!レディファーストね」
坂本さんがそう笑顔で言いながら通って行く。そしてその後ろを朋美さんが…僕に目を合わさず軽く会釈して通って行った。その朋美さんのぎこちなさに僕は確信した。やっぱり朋美さんは僕を恋愛対象としては見ていない!きっと僕の気持ちには気づいていて、それで僕の口から聞き出したかっただけなんだ…僕はなんて恥ずかしいことをしてしまったんだ…朋美さんの家に押し掛けて、勝手な想いで親切心押し付けて…僕は自分自身の愚かさに虚しくなって二人の後ろをトボトボと歩く。坂本さんが
「北村君は優しいよねぇ~」
朋美さんにそう話しかけていたが、朋美さんは「そうねぇ」と、ひとこと言っただけだった。僕は複雑な想いで朋美さんの後ろ姿を見つめる。昨日の朋美さんとのやり取りが嘘のようによそよそしく感じられるこの状況に、ますます僕は自信を失っていった。朋美さん…やっぱり…僕は…僕の期待は…儚い幻だったんでしょうか?仕事に戻っても僕は沈んだ気持ちを切り替えられずにいた。僕は商品の品出しや加工をしながら、チラチラと朋美さんの姿を目で追う。変わりなく綺麗で可愛い朋美さんだが、どこか昨日までとは違う、どこか遠い存在のように思えて淋しくなる…あんなカミングアウトするんじゃなかった。あの時あの言葉を発しなければ今頃こんな切ない想いはしなかっただろうに…そんな恨めしい気持ちで朋美さんを見つめる。朋美さんも僕の視線が気になるのか、何度か僕の様子をうかがうようにチラッ、チラッと僕の方を見る。この日、ずっとお互いぎこちない空気が流れ、お互い何となく言葉を交わすことも出来ずに朋美さんが帰り支度を始めるのを僕は複雑な想いで見ていた。朋美さん…淋しいよ…このまま帰っちゃうの?何も言わずに帰っちゃうの?何か言葉をかけたい…一言でも何か言葉を…そう思いながらも、なかなかかける言葉も見付からずに朋美さんが着替え終わって僕を置き去りにしようとしている。切ない…淋しい…フラれたと思ってもやっぱり淋しいよ…朋美さん…置いていかないで…せめて何か一言でもいいから下さい!そう心の中で叫んでいた。そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、朋美さんは軽く振り返り、周りの皆が気づかないように僕に小さく手を振って行ってしまった。いつもとは違う二人を、周りの人達はどう感じたんだろうか?普段ならもっと積極的に朋美さんから僕に話しかけていたはずだ。それが、いきなり僕に塩対応になった朋美さんを皆は全く気付かなかっただろうか?特に気にする様子も無かったように見えた。僕が過剰に気にしすぎているだけだったんだろうか?いや、明らかにぎこちなかったはずだ。こんな事がこれから毎日続くと思うと、この先が地獄のような時間になりそうだと思った。そしてこの日の片付けまで全て終わり、夜の7時を回って僕はタイムカードを押して足取り重く車へと向かった。従業員通用口のドアを開けて車のロックをリモコンで外しドアに手をかけた時、急に後ろから声をかけてきた女性…それは正しく僕がずっと欲していた憧れの朋美さんの声だ!僕は驚きながら振り返った!
「鈴木さん?」
僕は建物の明かりでうっすら見える朋美さんのシルエットにそう声をかけた。朋美さんがゆっくり僕の方へ歩み寄って来て
「和ちゃん…昨日はありがとう…」
朋美さんの言葉には、いつもの元気はなかった。しかし、朋美さんが仕事を終えてから一時間あまりここで僕を待っていてくれたのかと、歓喜のあまり声が上ずる。
「鈴木さん!もしかして…僕を待っていてくれたんですか?」
「うん…その…昨日は何だか中途半端に別れたから…その…ちゃんとお話ししなくちゃと思って…」
朋美さん!そうですよね!やっぱりあんな別れ方したらお互いモヤモヤしてしかたないですよね!自分の中で消化不良おこして凄く切なかったし、朋美さんの気持ちはちゃんと聞かせてもらわなきゃ…
「あの…鈴木さん…車で送って行きます。先ずは車の中でお話ししましょう!」
僕はそう言って朋美さんを助手席に誘導した。朋美さんは軽く頭を下げて助手席に乗り込む。エンジンをかけてゆっくり始動させ、朋美さんのアパートへと向かう。しばらくお互いどう切り出せばいいのかわからず沈黙が続いた。
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