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王都編
クラシックショコラと騎士団
しおりを挟むディオンを扱き使うべく、厨房にお邪魔したわけだがーーーー
想像を遥かに超える広さに驚きです。
ホテルやレストランの規模だろ。
バイト先のカフェより全然デカい。3倍はあるんじゃないか。
「ディオン様、話は伺ってます。
2番手のマイヤーをつけますので、何かありましたら、この者に」
「マイヤーです。何なりとお申し付け下さい」
「2番手を借りてもいいのか、料理長」
「その分、他の者達が働くので問題ありません。なに、いい機会ですよ。ハッハッハ」
他のスタッフ、全員顔が引き攣ってるけど大丈夫なのか?
2番手って事は、副料理長だよな。申し訳ありません。皆さん。直ぐ作って、直ぐハケますんで。
「お忙しい時間にすみません。
どうしても、夕食に間に合わせたくて……」
「ああ! 貴方がディオン様の!
これはどうも。料理長のジェフです」
「ルーカスです。美味しいご飯、ありがとうございます」
「~っっ! リクエストがあれば、いつでも言って下さい。たくさん作りますから」
わぁ~、気さくな人だなぁっ。
板前さんみたいに、厳しい人だったらどうしようと思ってたけど、杞憂だった。
とてもアットホームな雰囲気で素敵だ。
「では私は戻ります。
マイヤー、任せたぞ」
「ーーでは、お二人は此方へ」
ツルッツルに磨かれたシンクに調理台。
毎日綺麗に掃除しなきゃ、こうはならないよなー。
その上に並べられているのは、見るからに一級品の卵、小麦粉、砂糖、生クリーム。
ココアも強請っとけば良かった。あんのかな。
「メイドから予めお聞きした食材は、用意しておきました。
私は何をお手伝いすれば宜しいですか」
「ありがとうございます!
焼きに入るまでの作業は自分でやるので大丈夫です。
道具とかを教えてもらってもいいですか?」
ここで、衝撃の事実が判明した。
生クリームを根気よく泡立てて、ホイップするのかと思いきや、まさかの魔法を使って3秒らしい。
ハンドミキサーの存在すら霞むわ。
文明の力が大敗したぞ。
「あの、魔法使わずにディオンにやってもらいたいので、内緒にしてもらえますか」
「えっ、そんな事して宜しいんですか」
「はい。罰なんで」
「……はあ。ディオン様がお怒りになられないのであれば、まあ」
小声でマイヤーさんにお願いしていると、ディオンに首根っこを掴まれ、引き寄せられた。
暴力反対。
「何をコソコソ話してる。
早く始めるぞ」
「あい」
板チョコを湯煎で溶かし、ボウルに卵黄と砂糖を加え、よく混ぜる。
「ディオン、この卵白をふわっふわになるまで泡立てて」
「泡立つのか、これが」
「え、知らないの。
とにかく宜しく。きめ細かくね」
半信半疑な様子で、ゆったりしたスピードで攪拌するディオン。
ふっ。それじゃいつまで経っても無理だな。
「本当にこれで合ってるのか?」
「合ってるよ。手首のスナップを利かせてテンポよく混ぜるんだ。
最初は前後に擦る様に。白く泡立ってきたら、一気に空気を含む様に回すんだ」
「ふ~ん。こんな感じか?
……ああ、本当だ。泡立ってきたぞ」
コツ掴むの早くね。たぶん俺がハンドミキサーなしでやったら、倍はかかる。
もう終わりそうじゃん。え、ナンナノ。
「最後に気泡が均一になる様に、大きい気泡を潰すイメージで、ぐるぐる混ぜて。速度は落として」
「分かった」
この男には、苦でも何でもなかった。けっ。
あ、バター忘れた。
「マイヤーさん、バターありますか」
「ええ。製菓用の塩が入ってないものでいいですか」
「ありがとうございます」
無塩バターと少量の生クリームを加え、しっかり乳化させる。
ここで失敗すると、口当たりが悪くなるから気を付けてっ……と。
そして、粉を振るわなくてもダマにならない、画期的な製菓用の小麦粉(たぶん薄力粉)を数回に分けて混ぜ合わせる。
「ディオン、泡立てたやつちょうだい」
「ん」
「おお、すごい。
良い感じにツノが立ってる」
1回目は、よ~く混ぜて。
2~3回目はサックリと。あとは予熱したオーブンでーー何分だ?
仕方ない。はりつくか。
「いやぁ、素晴らしい手際ですね!
菓子職人だったのですか?」
興奮した様子で、マイヤーさんが褒めてくれた。料理人に褒められると、素直に嬉しい。お世辞でも何でも大歓迎。
前野さん。貴方のスパルタ指導が今、活かされましたっ。「鬼の前野」とか呼んで、すみませんでした。
「いえ、職人ではないです。
お手伝いをした事があるだけです」
「へぇ、大したものだ。
ぜひ食べてみたいものです」
「いいですよ。
むしろアドバイスして欲しいです」
「デザートは専門外ですが、私で宜しければ」
「やった、ありがとうございます!」
嬉しい申し出の一方で、もう少しキッチリ計量して作れば良かったと後悔した。
1~2g単位では、覚えてないからなー。
アドバイスもらっても、配合が上手く修正出来ないかもしれない。
「これで終了か?」
「盛り付けでシャンティだっけ?
それ使うから、泡立てたらおしまい」
「なるほど。それはオレがやるわけだな」
よくご存知で。お願いします。
「氷水にあてながら、一気に攪拌してくれ」
「ん、分かった」
オーブンからチョコレートのいい香りが溢れてる。腹減ってきたな。
あ。俺達、昼メシ食ってねーじゃん!
そりゃ腹も空くよ。
俺よりガタイも身長もグンとデカいくせに、ディオンは平気なのか?
この香りに何とも思わないのかっ。
澄ました顔しちゃってさ。
あれ、ガン見しすぎた?
良い笑顔で俺のこと見てくるけど。
「あ、なに。もう出来たの」
「ああ。これでいいか」
「……バッチリだよ。ありがとう」
プロでも、もうちょっと時間がかかるだろうに。
レシピ教えたら、俺より上手く作れるって、絶対。
マイヤーさん。俺じゃなくて、彼を褒めてあげて下さい。
俺は、今さっき貴方に褒められて上がったテンションが、コイツによってだだ下がりです。
ーーぐぅぅっ
「ルーカス、クリーム舐めるか?」
「……舐める」
恥ずかしい。食材切ったり、鍋を火にかけたり。夕食作りで忙しい厨房は、声を張らないと聞こえない程には、うるさかった。
……それなのに、俺の腹と言ったら。
あー、恥ずかしい。
「ほら」
「ありがと」
計量に使った大きめのスプーンに、クリームがたっぷりのせられている。
有り難く頂戴すると、糖分が染み渡った。
今ならホイップクリームだけを直食いする奴の気持ちが分かる気がする。
ーーぎゅ
何故、ワタシはバックハグされているのでショウ。
「わっ、ディオン。
ちょっと離してよ」
「んー? あ、ここクリームついてる」
え、どこ。
スプーンがデカくて、食いづらかったから。
自分で舐め取ろうとすると、ディオンのカッコいい顔が近付いてきた。
またキスするつもりかっ。
思わずギュッと身構えると、口の隅をぺろってされた。
俺はディオンの子供か何かか。
「おいっ、舐めるなよ!
普通にとってくれれば良いだろっ」
「美味そうだったから」
「いや、自分で作ったんだから味見くらいすれば良かったじゃん」
「今した」
「ちげーよっ! これは味見とは言わない!」
ああ、たくさんのスタッフが俺達を見てる。
絶対ガキだと思われたっ。
マイヤーさん達は、信じられないものを見る目だ。
1人だけ微笑ましそうだけど。そんな目で見ないで、料理長。
「おっ、ずいぶん膨れてるぞ」
「えっ」
言われてオーブンを見ると、良い具合に焼けていた。
そろそろ出さなきゃ。
今回は、試食用とママさん達用に2台焼いた。
ケーキを取り出してもらえば、かなり良い状態で嬉しい。
「美味そうですね」
「はい」
「ルーカス、ケーキがしぼんでる」
「いいの、いいの。
コレで正解だから」
一晩おくと、馴染んで美味しくなるんだけど、お土産の代わりだから仕方ないか。
「では私が冷却します」
「お願いします」
魔法でしっとり冷ましてもらい、完成!
「さっそくぅ~、ん! 美味い!」
「これは美味いな」
「よく出来てますね。
我々でもマネして宜しいですか?
配合量や焼き時間を変えるだけでも、バリエーションが増えそうです」
やっぱりプロだな~。
近い内に、お店の味が食べられそうだ。
オペラとかフォンダンショコラとか。
ヤベ、よだれ出そう。
メアリーママさんにも、喜んでもらえると良いな。
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