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王都編
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マジで何なんだ、この人。
人格変わりすぎだろ。本当に団長で合ってるんだよな。ディオンの上司なんだよな!?
「いつ頃お会い出来そうですか」
「え、えっと。たったぶん、直ぐにでも。話を聞いたら、向こうから来てくれると思う」
「そうですか。では、宜しくお願いします」
「う、うん。あの…」
「もちろん、書類は終わらせて下さいね」
「うゔ、わ、分かったよぉ」
どっちが偉いんだ。立場も年齢も逆転してないか。
さっきのアレは何だったんだろ。
瞳の色が変わった、よな。たぶん。
口調も吃らなくなったし、態度もこう…上に立つ人っていうか、威厳?みたいなのがあった。
「ユキ、大丈夫か」
「《恐かったです、ルゥ様ぁ~!
抱っこを要求します》」
抱っこ。抱っこだと。凛々しいはずのオオカミが「抱っこして」って。
破壊力抜群だな、おい。
今すぐモフってやるからな~!
「よしよし、おいで」
大型犬サイズだから、さすがに重い。
腰がやられそうだ。だが、この可愛いおねだりを叶えてやらねば、飼い主じゃないっ。
抱き上げてやれば、ユキは頭を俺の肩の上において、鼻を鳴らした。
あー、癒しだ。
おっ。俺がユキの毛並みを堪能している間に、話は終わった様だ。
「ルーカス」
「終わった?」
「ああ」
挨拶はした方が良いよな。
チラッと団長さんを見る。が、勢いよく視線を逸らされてしまった。
やっぱダメなんだ……。
「失礼します」
「ひょっ。あ、うん。ま、またね」
「失礼します、団長。また後ほど」
「わ、分かった」
「またね」って言ってもらえた。嫌われてはないのかな。なら、良かった。
「さて。今日はどうする。食堂に行くか?」
「そうだな。あ、でもユキが」
「厨房に入らなければ大丈夫だろう。
団員だって、稽古終わりで汚い奴がうじゃうじゃ居るんだ。気にする事はない」
それは違うような。ま、いいか。
「《厨房とは何ですか》」
「料理する所だよ。お前のメシも作ってやるからな」
「《肉が良いです! ルゥ様》」
「ハハ。分かった、分かった」
ホワイトウルフって肉以外に、何食うんだろう。
玉葱ダメ、とかあんのかな。誰かに聞かねーと。
ーーーー
ーーー
厨房メンバーにユキを紹介すれば、予想に反して大歓迎を受けた。
やっぱりアニマルセラピーなのか。
ちなみに、1番喜んだのは、まさかのエリー様だ。
団員用の肉の良い部位をユキにやろうとして、止められていた。
「ユキぃ、お前人気者だなー」
「《当然です。ホワイトウルフをテイムしたい人間は、山ほど居るはずですからね。
成長すれば、ルゥ様より大きくなりますよ》」
「マジでか。なあ、俺を乗せて走れたりする?」
「《今は無理ですが、1年もすれば余裕です》」
「すげー」
「《フフン》」
素直に驚くと、ユキは誇らしげに尻尾をブンブン振った。ウチの子、最高。
ーーーーーーーー
ーーーーー
ーーー
団長と2度目に会ったのは、1週間後だった。
「俺、大丈夫かな。ディオン」
「大丈夫だ。オレがいる。嫌な質問には答えなくていいからな」
「おう」
俺は今、田舎者の憧れ、王立アカデミーに居る。
名前の通り、王国が主体となって創設された学術機関だ。
その歴史は古く、確か今年で創立300周年じゃなかったか?
ディオンが心当たりがあると言っていた、魔物のスペシャリストはココに居るらしい。
つか、団長。アカデミーの教授と知り合いとは、アンタやっぱり偉かったんだな。
王立アカデミーの教授と言えば、各分野の最も優れた知識、経験を持つ人物だと言っても過言ではない。
それほど素晴らしい人達なんだ。
そして今日会うのは、この部屋の持ち主で、魔物学の天才アダム卿。
彼は侯爵家の出身でありながら、学問一筋。また、魔物を調べる為に冒険者になった変わり者としても知られている。……らしい。
これは全て、今朝パパさんに聞いた。メアリーママからは「気難しいという噂だから、機嫌を損ねない様にね」と、アドバイスをもらった。
まず、どうしたら機嫌を損ねなくて済むのか、それを教えて欲しかったです。
嗚呼、ユキ。呑気に欠伸なんかするな。お前と俺だけじゃなくて、モンフォール家にも迷惑をかけるかも知れないんだぞ。
頼む。大人しくしてくれ。いや、いつも大人しいけれども。慎重には慎重を重ねないと。
ヤベー、トイレ行きたい。
「待たせたな」
来たー!!
「あ、ああ。アダム卿、今日はありがとうございます」
団長、ディオンに倣い、バッと立ち上がって頭を下げる。
ていうか、団長。教授の前でも吃り症なんか。
「楽にしなさい。メルベン伯爵、君は騎士団長だろう。もっとしっかりせんか」
「はっはいぃ。すみませんっ」
「はあ、全く君はいつもいつも。
で、彼がモンフォール家の子供かね」
オーラがすげえっ。この人が居るだけで、背筋がピンと伸びるっつうか、心臓が口から出そう。
ダサいイメージしかなかったポーラー・タイを見事に着こなしているご老体。
ハリー・◯ッターのダン◯ルドア先生みたいな人を想像してたけど、とんでもない。
見た目の恐さだけならス◯イプ先生だ。60歳くらいの。
「ディオン・モンフォールです。
本日はお時間を頂き、誠にありがとうございます」
「うむ。私に会おうとする貴族の中には、伯爵家の君よりもっと上の者も多い。
その中で、私は君達の為に時間を割いたんだ。
有意義な時間にしてくれるのであろう?」
こえーよ! 教授パねえ!
メアリーママ。機嫌を損ねずに帰るのは無理かも知れません。どうか怒らず、迎え入れて下さい。
「恐縮です」
「はうっ。ぼ、僕帰っていいかなぁ」
待て、団長! アンタだけ逃げるのはズルいだろ。
「メルベン伯爵。君が彼等を私に紹介したのだろう。最後まできちんと責任を持たんか」
「ひえっ。は、はい。申し訳ありませんん~」
どういう繋がりなんだ。ますます団長が分からねー。
どう考えても親しくは見えないんだが。
「それで? いつになったら、その子供とホワイトウルフを紹介してくれるんだね」
俺の番きちゃったー!
ユキ、起きろ。シャキッとしろ。よくこの状況でダラケられるな、お前。
そんな大物な所も魅力的だぞ、バカヤロウ。
「ルーカスと言います。本日は彼とホワイトウルフのユキについてお伺いしたい事があって参りました」
「うむ。テイムせずに言語を理解出来る件についてだな。メルベン伯爵から、話は聞いておる。
……ところで、ルーカスとやら。君は喋れんのかね」
固まっていた俺に代わり、ディオンが応えてくれたんだけど、お気に召さなかったらしい。
まあ、ですよね。ごめんなさい。許して下さい。
「喋れますっ。えと、ルーカスです。こっちはユキです。宜しくお願い致します!」
「うむ、それはさっき聞いた」
俺の大馬鹿者ーーーっ!
そりゃそうですよ。全部ディオンが言ってくれましたもん。
「すみません。この通り田舎者で。何か失礼をしてしまうんではないかと、不安になってしまいまして」
「む? 君はモンフォール家の遠縁か、何かではないのかね」
「はい。アルソン村の出身です。今はモンフォール邸でお世話になってます」
もしかして平民NGでしたか。なら、速やかに帰りますので!
「そうだったか。いや、構わん。私が勝手に勘違いしただけだ。
しかし、ただの平民を本邸に住まわすとは。“誠実のモンフォール”の名に恥じぬ行いだな」
「ハッ」
いや、ディオンさん。初耳です。何ですか、それ。
そんな軍人みたいな返事してないで、説明して。
というか、この後どうすれば良いですか。
「《ルゥ様?》」
「こら、今は静かにしててくれ」
「良いぞ。私にも、そのホワイトウルフを紹介してくれ。多少の騒ぎは構わん。防御壁も部屋に張ってある。暴れても気にせんぞ」
「ええっ」
しまった。思わず素で反応してしまった。
「ほれ、紹介せんか」
「《この高圧的な人間は誰ですか?》」
ぎゃー! 頼む、少し黙ってろ。
何故だ。教授は俺に何を求めているんだ。
期待した目で見ないで下さい。
あっ。たった3分で習得した「お手、おかわり、その他もろもろ」の芸を披露する時が来たんじゃないか?
そうと決まれば、よし。
「ユキ、お手」
「《はい》」
「おかわり」
「《はい》」
「伏せ」
「《ルゥ様? 練習ですか?》」
「スピン」
「《???》」
「ハイタッチ」
「《はーい》」
さすが、俺のユキ。満足して教授を見ると「何してるんだ、コイツ」という顔で見られていた。
あれ、間違えました?
応援ありがとうございます!
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