モブ王子、悪役令嬢に転生した少女をフォローする

豆もち。

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モブ王子、悪役令嬢に出会う。

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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「お嬢様、お荷物はこれだけで宜しいのですか?」
「ええ。2泊4日の予定だから。直ぐ帰って来るわ」
「まあ、せっかくの王都ですのに。それに奥様も久しぶりの王都を楽しみにしていらっしゃいましたし」
「お母様には悪いけど、お父様が拗ねちゃったのよ。
だから、遊ばずに帰るわ」
「旦那様ったら。それなら仕方ありませんね。
どうか、お気をつけて」
「ありがとう」







 王妃様のお茶会に出席する為、お母様と一緒に王都へ向かう事になった。
 お父様は、お仕事があるから留守番。最後までごねていたけど、仕方ないわ。
招待されたのは、お母様だし。


「奥様、ソフィア様。もうすぐ海が見えるはずです。カーテンをお開けしましょうか」
「海なんて、久しぶりだわ。ねえ、ソフィア。
ばあや、開けてちょうだい」
「かしこまりました」


 綺麗だわ。太陽が反射して、水面が光ってる。
 ふふ。お母様もばあやも楽しそう。
 
「どうしたの、ソフィア。急に笑って」
「いえ、ただ、こうして海が見られるのも、叔父様とミーネ様のおかげだなと思って」
「そうね。招待状を見た時は、ショックだったけど。
本当に良かったわ」


 結局、2週間でドレスを受けてくれるお店は見つけられなかった。
 領民のお針子にも頼んだけど、荷が重すぎるし間に合わないって、断られてしまった時は絶望した。
 だけど、同じく招待されたミーネ様に作ったドレスの1着を、叔父様が譲ってくれたのだ。
 最後まで、ローズピンク色とピスタチオグリーン色のドレスで迷ったらしく、同じデザインで2着作ったんだとか。
 同じお茶会に、同じデザインのドレスなんて、よくミーネ様も叔父様も許してくれたものだわ。
一応、小物を足したり、引いたりして、誤魔化したのだけど……。
 とにかくミーネ様には、絶対にご迷惑がかからない様に気を付けないと!


「でも不思議だわ。お義兄様には、我が家より3週間も前に招待状が送られてきたと言うじゃない。
他の家もよ。マック様が連絡した方々は、同じ頃に……」
「私めも、疑問に思います。わざとハイヤー家だけ遅らせたのではないかと」
「お母様っ、ばあや。滅多な事は言わないで下さい。主催者は王妃様です。王族の方が、ハイヤー家にその様な事っーーあり得ません!」


 本当は、私も初めてお父様に聞いた時に考えてしまった。
でも、王妃様がそんな分かりやすい嫌がらせをするわけないわ。それに、される様な覚えもないもの。
 きっと配送中に紛れてしまって、遅れたんだわ。
……もしくは、お父様の失脚を狙う者の仕業か。




ーーヒヒィン


「「きゃっ」」
「奥様っ、ソフィア様!」


 何っ? 馬が石か何かに躓いたのかしら。


「いったい何事です」
「それがーーーー」


 慌てて、ばあやが御者に説明を求めるけど、御者の人も分かっていない様ね。
 襲撃ではなさそうだけど。


「奥様。どうやら盗賊が出たらしく、検問が」
「まあ、物騒だわ。けれど、何故検問を?
盗賊なのでしょう? 護衛をすると申し出るなら分かるわ。
まさか、紋付きの馬車の中まで検める気なの?」


 お母様が怒っているのが分かる。
ばあやも事態がいまいち飲み込めていないみたい。


ーーコンコン


 微妙な雰囲気の中、馬車の窓をコツンとノックされた。


「何です。この馬車が誰の馬車かお分かりになっているのですか?」


 盗賊騒ぎの検問を行う憲兵が、貴族の馬車を止めるなんて無礼が過ぎる。
その場で不敬罪で腕を切り落とされるかも知れないのに。
 にも関わらず、憲兵が行動を起こすという事は、普通じゃない。
 まさか、盗賊が貴族の馬車を襲って、強奪した?


「申し訳ありません。しかし、上からの指示で全ての者を検める様にと。恐れ入りますが、ドアを開けて頂けないでしょうか」
「まあっ! なんて無礼な! ハイヤー夫人とそのご令嬢が乗っていらっしゃるのですよっ!」
「もっ申し訳ありません! ですが、上からの指示なのですっ。申し訳ありません、申し訳ありません!」


 外の様子が見えないから分からないけど、ずいぶん声が震えているわ。
 本当に指示されているんだわ。


「お母様。早くしないと日が暮れて、先に進めなくなってしまいます」
「……そうね。ばあや、良いわ。見るだけなら、好きにさせなさい」
「奥様、ですが」
「時間がないのよ。それに、ハイヤーの名を出しても下がらないという事は、伯爵クラス以上が指示を出している可能性が高いわ。従いましょう」


 お母様の仰る通りね。爵位持ちなのか、寄子なのかは知らないけど、後々問題になる可能性だってある。
ここで時間を取られるわけにもいかないわ。


主人あるじはお急ぎです。お早く」
「「「ハッ。ご協力、感謝致します」」」





────────
──────
────



「どうなってるの」


 停車させられた馬車の中で、お母様の疲れ切った声が響いた。

 まだ捕まらないのかしら。それにしたって、おかしいわ。
 もうこれで三度目。村や街の門だけじゃない。此処はただの境域でしょう。
まさか、王都までの道のり全てで検問を張っているというの?


「奥様、だいぶ日も陰って参りました。次の街で宿を取られるか、危険ですが走り続けるか。如何なさいましょう」
「……」


 安全を考えれば、次の街で休むべき。
だけど、もし間に合わなかったら? 
明け方から飛ばしても、時間はギリギリになる。息を吐く間もなく、お茶会が始まってしまうわ。
それでも、間に合えば良い。もし、王妃様より入りが遅れたら、私はっ。
……いいえ、お父様の信頼にさえ影を落とすかも知れない。


「お母様……」
「はぁっ。もう1日、余裕を持つべきだったわ。ドレスの直しが、せめて昨日の朝早くに終わっていたらっ」
「奥様っ」
「……ばあや、宿を取りましょう。マック様が護衛を付けて下さろうとしていたのに、何故断ってしまったのかしら。護衛なしの夜道は危険過ぎて……ごめんなさいね、ソフィア。それで良いわね?」


 安全には変えられないもの。不安だけど、お母様の判断は正しいわ。
 遅れても、きっと分かって下さる。検問の話は、王都にだって届いているはずよ。


「ええ、もちろんです」





 幸いな事に、宿を出る頃には全ての検問が解かれていた。
 良かった。ギリギリではあるけど、間に合いそうだわ。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「お嬢様、予定通り検問は全て解除されました。
デマという情報も既に流しております」
「そう。フフッ、これであの生意気な伯爵令嬢も終わりね」
「しかし、このままだと間に合いますが……」
「それで構わないわ。大事なのは、情報を仕入れる時間よ」
「はあ。情報にございますか?」


 昼過ぎに面白い話をお父様達が話していたのを聞いた。
 アドリア王国の第2王子が、ロマーノ帝国の皇女に傷を負わせただとか。
 きっと、明日はその話題で持ち切りだわ。
 伯爵令嬢は、素晴らしい正義感をお持ちだと聞くし?
この話題を振れば、必ず第2王子を責めるわ。
彼がカルロ様のご友人だとも知らないで!
 とにかく、情報が入りにくい場所にさえ足止め出来れば良いの。
 第2王子が怒った理由や、カルロ様との関係を知る時間を与えなければ、勝手に失敗して嫌われるだけ。


「フンっ。田舎の伯爵家如きが、カルロ様の婚約者候補ですって?
カルロ様に相応しいのは、この私だけよ!」


 可哀想なソフィア・ハイヤー。
 でも、分不相応にでしゃばる貴女が悪いのよ。

 ああ、楽しみだわ。明日、貴女はどんな顔をするのかしら。


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