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モブ王子、悪役令嬢に出会う。
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しおりを挟む時は遡り、9年前ーーーー
王城で催された建国記念日を祝うパーティーで、ある踊り子の一座が舞台を披露した。
彼女達は特定の住居を持たず、踊りで生計を立てる特殊民族で構成されていた。
中でも一際輝いていたのは、クラリスという若い娘だった。
彼女はキラキラ光る艶やかなバターブロンドを大きく靡かせ、しなやかな動きで人々を魅了した。
洗練された一つ一つの仕草に、彼女がただ歩くだけで男も女も溜息をこぼした。
それは当然、国王とて例外でなく、たちまち虜になってしまった。
数日して、彼女は王の強い希望により側室として王家に迎え入れられた。
すでに王妃と2人の側室がいたが、側近達が危機感をおぼえるほど寵愛し、のめり込んでいった。
クラリスは美貌だけでなく、聡明さも兼ね備えていた。その為、弁える事を知っていた。
後宮ではなく、新たな宮殿や多くの権限、財宝を王は与えようとしたが、周囲の心配をよそに、全て断った。
王妃や側室達、それに連なる多くの貴族達が、彼女を追い出す為に暗躍したが、全て空振りに終わった。
それもそのはず。クラリスは元々、庶民はもちろん、貴族の間でもファンが多かった。
彼女の人気と王の厳重な警備が、鉄壁のガードになっていたからだ。
3ヶ月が過ぎ、王妃達が最も恐れていた知らせが城内を駆け巡った。
「クラリス殿下が、ご懐妊されました」
その知らせを受けた、王妃の生家である公爵家は、戦々恐々した。
国王の血が繋がった子供がうまれるのだ。最も王の寵愛を賜った女から。
王女であれば、まだ良い。ある程度したら他国へ嫁がせてしまえば良いからだ。
しかし、もし王子であれば?
王妃には第1王子が。第1側室には、第2・第4王子が。第2側室には、第3王子が誕生している。
生まれれば、第5王子になり、王位継承順位は末端だ。さらに母であるクラリスは平民で、何の後ろ盾も無い。
にも関わらず、強い不安を抱かずにはいられなかった。
それほどまでに王は、彼女の妊娠を喜び、国中の優秀な医師、乳母を集めた。
側近達の中でも、継承順位がひっくり返るかも知れないと、実しやかに囁かれた。
さらに2ヶ月が過ぎ、国中が関心を寄せる日がやってきた。
赤子の性別を鑑定するのだ。
トリステア王国は魔法の精度が高く、通常生まれるまで分からないとされる性別が、鑑定魔法で判別出来る。
その日は、朝から静まり返っていた。そしてーーーーーー
「おめでとうございます! お子は、王子にございますっ!!」
王は喜び、王妃や側室達は酷く落胆する。
暗殺を恐れた王は、クラリスの住まいを王の寝室にするという異例づくしの対応を取った。
人々は、これから生まれる王子が後継者になるに違いない。そう噂した。
その結果、クラリスに気に入られなければーーと、掌を返し、あの手この手で取り入ろうとする貴族が続出する。
それを良しとしなかったのは、クラリスその人だった。
彼女は初めて王にワガママを言った。
「陛下、私とこの子を祝うパーティーを開いて下さい」
王は喜んだが、今は危険だと先にする様に促す。
けれど彼女は、今しかないのだと押し切り、自国の上級貴族をメインに招待し、開催した。
クラリスは必ず王妃達も参加させてと付け加えた。
これには王も反対したが、彼女は譲らなかった。
王妃達は抗議したが、王命が下され、はらわたが煮えくりかえる思いで出席した。
さぞや憎たらしい顔で、自分を見下し、笑うのだろう。
王妃はそう考えたが、実際はもっと酷い爆弾が投下された。
「皆、今日は急な招待に応じてくれた事、感謝する。
それでは、今日の主役クラリスから、一言もらうとしよう」
「皆様、本日は陛下と私の為にお集まり頂き、ありがとうございます。
私から皆様にお伝えしたい事があって、陛下に無理を言いました。
ーー私は、この子が3歳の誕生日を迎えたら、この国を去ります」
「なっ?! 何を言うクラリス!」
「陛下、陛下は私の踊りを愛し、求婚して下さいました。
私はバルエ民族です。自由を愛し、家を築かず、踊り、旅をするのが我が民族です。
私は一座の下へ帰ります。どうか私の為に我儘をお許し下さい」
「嫌だ、認めぬぞ」
「お願いです、陛下。
この子は置いて行きます。男では一座に入れないから。
なるべく自由にさせてやって下さい。継承権も要らないわ。この子が好きな事をたくさんさせて欲しいの」
「ひとつの場所に留まるのは、死よりも恐ろしい事です。
自由に踊れないのも苦痛です。
私は輝いている私を陛下に好いて欲しい。だから3年後、自由になるの」
あれほど溺愛する王を、彼女がどうやって説得したのか、未だ多くの者が疑問を抱いている。
だが、アベルトの3歳の誕生日を見届け、彼女の願いは叶えられた。
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