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モブ王子、興味を持つ。

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「アベルト殿下~、殿下ぁー、どちらにいらっしゃいますかー!」


 あれ、アイリーンの声じゃないな。
 今日の授業は終わったし、おやつには早い。何だろう。


「ここだよ~」


 木陰から手を大きく振って応える。
パッと振り向いて駆けて来るのは、最近兄様付きになったメイドだ。
 兄様が呼んでるのかな?


「そちらにいらっしゃいましたか、殿下!」
「うん。お昼寝にちょうど良い感じだったから」
「お、お昼寝でございますか。危険ですっ。
次からは、必ずお供を付けて下さいぃ」


 あ~、そっか。新しい人だから知らないんだ。


「大丈夫だよー」
「ええっ?」
「レオ、出て来て良いよ」
『ガウッ』
「ひぃっ!! 殿下っ、お逃げ下さ、こち、こちらへっ!」


 僕の呼びかけに応じて姿を現したのは、聖霊獣のレオン。
見た目は白銀のライオンだから、迫力がすごい。
なんかね、光り輝いてるんだ。毛並みが。


「ごめんね。怖がらせちゃって。
レオは、お父様の……ん~、守護聖霊? みたいなもので、僕を護ってくれてるんだ」
「へ、陛下の聖霊獣様……」
『如何にも。我がトリステアの聖霊、レオンだ』


 すごいドヤってしてる。レオは目立つのが好きだからな。
 褒めてあげてくれ、新人さん。


「え、しゃべっ」
『うむ。我だからな』
「レオは話せるよ。契約者以外にも意思を伝えられる聖霊は居るからね」
「す、ごいです」
『当然だ、人間。我と言葉を交わせた事、光栄に思うが良い』
「は、はいっ!」


 あ。嬉しそう。


「そんなわけで、僕は自由に動き回れるんだよ」
「なるほど。出過ぎた事を申しました」
「ううん。ありがとう。ところで、僕に何の用?」


 最初、お父様がレオに「僕を護れ」って言った時、レオも周りの人達も大反対したらしい。
だけどレオは僕を見て、すぐに考えを変えたんだって。
 あまりに僕が弱そうで、危ないと直感したんだと。失礼しちゃうよね。赤ん坊は誰だって弱いのに。
 この話は、僕が4歳の時にお母様が教えてくれた。
「今思えば、面白かったわ。
レオン様ったらね?
陛下を護るのが使命だって怒ってらっしゃったのに、クラリスさんに抱かれた貴方を見て、目の色を変えたの。
『うむ。赤子は王よりも危ういな。よし、我が其奴が強くなるまで護ってやろう』って」
 強くなるまでって、いつまでなんだろ。僕より兄様の方が狙われると思うんだけどなー。
だって、王太子に選ばれるのは兄様だから。


「ーーーーと、いうわけで、アベルト殿下に……あの、殿下?」
『ルト、何を呆けておる。愚かにも、この小娘はお前を呼びに来た様だぞ』
「ぼうっとしてた。
もう一回良いかな。誰が呼んでるの」
「はい。その、カリアが直ぐに、殿下をお連れする様にと」


 カリア? 
 珍しいな。彼女は兄様のメイドの中で、1番ベテランな人だから、僕を呼びつけるなんて真似、しないと思うんだけど。


『フン。何と不敬な奴だ。使用人の分際で、ルトを呼ぶとは。出向くのが道理であろう』
「申し訳ありません!
ですが、緊急事態でして」


 緊急事態って大変じゃないか。


「何があったの。案内しながら、説明して」
「かしこまりました。
実はーーーー」


 


 慌てて向かえば、なかなかな光景が広がっていた。
 えー、どうしよう。


「カリア様! アベルト殿下をお連れしましたっ」
「ああ殿下、良かった!
お呼び立てして申し訳ございません。
ですが、私共にはどうする事も出来ずっ」


 わー、やめてよ。カリアも、他の皆んなも、僕を見て「助かった」みたいな顔しないで。
むしろ、助かってないから。
手遅れじゃない、あの女性ひと


「えーっと、兄様~、何があったか知らないけど、落ち着いて」


 何で兄様は、メイドを水の中に閉じ込めてるんだろ。
 すんごい、苦しそう。泡吹きそうだよ、その人。そしたら死んじゃうよ。一旦、解放してあげて。
 皆んな、怯えてるから。


「どうしたんだい、アベルト。まだおやつの時間じゃないだろう?
大丈夫。殺さないよ。死なない程度に調節してるから」


 真顔の兄様が恐い。
 何やらかしたんだ、彼女は。
スッとカリアを見れば、視線を逸らされた。


「兄様が魔法のコントロール得意なのは知ってるよ。だけど、危ないからさ。とりあえず、解いてあげてよ」
「駄目だ」
「むぅっ。早く解いて! 下ろして!
でないと、おやつ一緒に食べないよっ!」


 絵面最悪だから、やめてよ。夢に出てきちゃうだろ。


「駄目だ。おやつは一緒に食べよう」
「ーーっぎゃっぁ。ゲホッ、ゲホゲホ」


 水の球が爆けると同時に、ドシンと音がして、メイドが床に落ちる。
 うん、生きてるね。良かった。


「カリア。僕は兄様とお話するから、後の事よろしく」
「承知しました。ありがとう存じます」
「うん。じゃ、兄様連れてくね。
レオが居るから、他の人もついて来なくて大丈夫だよ~」
「「「(ありがとうございます。殿下てんしっ)」」」


 居合わせた人達に無言で頭を下げられながら、僕は兄様と中庭のガゼボに向かった。








「で。どうしたの、兄様」
「ああ、あのメイドが不愉快な事をほざいてな」


 兄様、キレてる。イライラしてテーブルをカツカツ鳴らしてるし。


「何か嫌な事言われたの?」
「まあな」
「えー。僕には言えないわけ?」
「……別に。気分が悪くなるから、言わないだけだ。
さて、今日のお菓子は何だろうね。私の分もあげよう」


 もうっ、それで誤魔化せると思わないでよ。
 僕、走って行ったんだからね。


「夕食のデザートも」
「フッ。あまり食べ過ぎると、太るぞ」
「くれないの?」
「もちろん、あげよう」
「じゃあ、聞かないでおいてあげる」
「ありがとう」


 少し落ち着いたのか、兄様は穏やかな顔をして、僕の頭を優しく撫でた。
 くそうっ。兄様の撫で撫でスキルは恐ろしい。
 仕方ないから、おやつが運ばれるまで撫でてもらおう。
これは、兄様が上手すぎるんであって、僕が甘えん坊なわけじゃないから!


「アベルトの髪は、柔らかいな」
「へへ」
『ルトよ。それでは、いつ迄立っても兄離れ出来ぬぞ』
「レオン、うるさいよ。アベルトに変な事を吹き込まないでくれ」
『うむ。弟離れの方が問題だ』
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