9 / 13
モブ王子、興味を持つ。
1
しおりを挟む「アベルト殿下~、殿下ぁー、どちらにいらっしゃいますかー!」
あれ、アイリーンの声じゃないな。
今日の授業は終わったし、おやつには早い。何だろう。
「ここだよ~」
木陰から手を大きく振って応える。
パッと振り向いて駆けて来るのは、最近兄様付きになったメイドだ。
兄様が呼んでるのかな?
「そちらにいらっしゃいましたか、殿下!」
「うん。お昼寝にちょうど良い感じだったから」
「お、お昼寝でございますか。危険ですっ。
次からは、必ずお供を付けて下さいぃ」
あ~、そっか。新しい人だから知らないんだ。
「大丈夫だよー」
「ええっ?」
「レオ、出て来て良いよ」
『ガウッ』
「ひぃっ!! 殿下っ、お逃げ下さ、こち、こちらへっ!」
僕の呼びかけに応じて姿を現したのは、聖霊獣のレオン。
見た目は白銀のライオンだから、迫力がすごい。
なんかね、光り輝いてるんだ。毛並みが。
「ごめんね。怖がらせちゃって。
レオは、お父様の……ん~、守護聖霊? みたいなもので、僕を護ってくれてるんだ」
「へ、陛下の聖霊獣様……」
『如何にも。我がトリステアの聖霊、レオンだ』
すごいドヤってしてる。レオは目立つのが好きだからな。
褒めてあげてくれ、新人さん。
「え、しゃべっ」
『うむ。我だからな』
「レオは話せるよ。契約者以外にも意思を伝えられる聖霊は居るからね」
「す、ごいです」
『当然だ、人間。我と言葉を交わせた事、光栄に思うが良い』
「は、はいっ!」
あ。嬉しそう。
「そんなわけで、僕は自由に動き回れるんだよ」
「なるほど。出過ぎた事を申しました」
「ううん。ありがとう。ところで、僕に何の用?」
最初、お父様がレオに「僕を護れ」って言った時、レオも周りの人達も大反対したらしい。
だけどレオは僕を見て、すぐに考えを変えたんだって。
あまりに僕が弱そうで、危ないと直感したんだと。失礼しちゃうよね。赤ん坊は誰だって弱いのに。
この話は、僕が4歳の時にお母様が教えてくれた。
「今思えば、面白かったわ。
レオン様ったらね?
陛下を護るのが使命だって怒ってらっしゃったのに、クラリスさんに抱かれた貴方を見て、目の色を変えたの。
『うむ。赤子は王よりも危ういな。よし、我が其奴が強くなるまで護ってやろう』って」
強くなるまでって、いつまでなんだろ。僕より兄様の方が狙われると思うんだけどなー。
だって、王太子に選ばれるのは兄様だから。
「ーーーーと、いうわけで、アベルト殿下に……あの、殿下?」
『ルト、何を呆けておる。愚かにも、この小娘はお前を呼びに来た様だぞ』
「ぼうっとしてた。
もう一回良いかな。誰が呼んでるの」
「はい。その、カリアが直ぐに、殿下をお連れする様にと」
カリア?
珍しいな。彼女は兄様のメイドの中で、1番ベテランな人だから、僕を呼びつけるなんて真似、しないと思うんだけど。
『フン。何と不敬な奴だ。使用人の分際で、ルトを呼ぶとは。出向くのが道理であろう』
「申し訳ありません!
ですが、緊急事態でして」
緊急事態って大変じゃないか。
「何があったの。案内しながら、説明して」
「かしこまりました。
実はーーーー」
慌てて向かえば、なかなかな光景が広がっていた。
えー、どうしよう。
「カリア様! アベルト殿下をお連れしましたっ」
「ああ殿下、良かった!
お呼び立てして申し訳ございません。
ですが、私共にはどうする事も出来ずっ」
わー、やめてよ。カリアも、他の皆んなも、僕を見て「助かった」みたいな顔しないで。
むしろ、助かってないから。
手遅れじゃない、あの女性。
「えーっと、兄様~、何があったか知らないけど、落ち着いて」
何で兄様は、メイドを水の中に閉じ込めてるんだろ。
すんごい、苦しそう。泡吹きそうだよ、その人。そしたら死んじゃうよ。一旦、解放してあげて。
皆んな、怯えてるから。
「どうしたんだい、アベルト。まだおやつの時間じゃないだろう?
大丈夫。殺さないよ。死なない程度に調節してるから」
真顔の兄様が恐い。
何やらかしたんだ、彼女は。
スッとカリアを見れば、視線を逸らされた。
「兄様が魔法のコントロール得意なのは知ってるよ。だけど、危ないからさ。とりあえず、解いてあげてよ」
「駄目だ」
「むぅっ。早く解いて! 下ろして!
でないと、おやつ一緒に食べないよっ!」
絵面最悪だから、やめてよ。夢に出てきちゃうだろ。
「駄目だ。おやつは一緒に食べよう」
「ーーっぎゃっぁ。ゲホッ、ゲホゲホ」
水の球が爆けると同時に、ドシンと音がして、メイドが床に落ちる。
うん、生きてるね。良かった。
「カリア。僕は兄様とお話するから、後の事よろしく」
「承知しました。ありがとう存じます」
「うん。じゃ、兄様連れてくね。
レオが居るから、他の人もついて来なくて大丈夫だよ~」
「「「(ありがとうございます。殿下っ)」」」
居合わせた人達に無言で頭を下げられながら、僕は兄様と中庭のガゼボに向かった。
「で。どうしたの、兄様」
「ああ、あのメイドが不愉快な事をほざいてな」
兄様、キレてる。イライラしてテーブルをカツカツ鳴らしてるし。
「何か嫌な事言われたの?」
「まあな」
「えー。僕には言えないわけ?」
「……別に。気分が悪くなるから、言わないだけだ。
さて、今日のお菓子は何だろうね。私の分もあげよう」
もうっ、それで誤魔化せると思わないでよ。
僕、走って行ったんだからね。
「夕食のデザートも」
「フッ。あまり食べ過ぎると、太るぞ」
「くれないの?」
「もちろん、あげよう」
「じゃあ、聞かないでおいてあげる」
「ありがとう」
少し落ち着いたのか、兄様は穏やかな顔をして、僕の頭を優しく撫でた。
くそうっ。兄様の撫で撫でスキルは恐ろしい。
仕方ないから、おやつが運ばれるまで撫でてもらおう。
これは、兄様が上手すぎるんであって、僕が甘えん坊なわけじゃないから!
「アベルトの髪は、柔らかいな」
「へへ」
『ルトよ。それでは、いつ迄立っても兄離れ出来ぬぞ』
「レオン、うるさいよ。アベルトに変な事を吹き込まないでくれ」
『うむ。弟離れの方が問題だ』
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
悪役の烙印を押された令嬢は、危険な騎士に囚われて…
甘寧
恋愛
ある時、目が覚めたら知らない世界で、断罪の真っ最中だった。
牢に入れられた所で、ヒロインを名乗るアイリーンにここは乙女ゲームの世界だと言われ、自分が悪役令嬢のセレーナだと教えられた。
断罪後の悪役令嬢の末路なんてろくなもんじゃない。そんな時、団長であるラウルによって牢から出られる事に…しかし、解放された所で、家なし金なし仕事なしのセレーナ。そんなセレーナに声をかけたのがラウルだった。
ラウルもヒロインに好意を持つ一人。そんな相手にとってセレーナは敵。その証拠にセレーナを見る目はいつも冷たく憎しみが込められていた。…はずなのに?
※7/13 タイトル変更させて頂きました┏○))ペコリ
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる