【本編完結】あれで付き合ってないの? ~ 幼馴染以上恋人未満 ~

一ノ瀬麻紀

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太陽の話(スピンオフ2)

14 出会い

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 2人で無言のまま、公園に向かって歩く。
 仕事を終えクリニックの外に出た時には、西の空はかすかにオレンジ色に染まっていたのに、今はわずかな明るさだけを残している。
 空は刻々と移り変わり、どんどん藍色が深まっていった。

 公園に到着した頃には空全体が藍色に染まり、街に灯る色とりどりの明かりが、暮れゆく時間の賑わいを伝えていた。

 しっかりと2人きりで話すのは、これが最後かもしれない。それなら、何もわだかまりを残さないように、オレも本音で話そう。……そう思った。

「あそこのベンチで話そうか」

 オレは、公園の隅にある、街灯に照らされたベンチを指差した。
 凛太郎りんたろうが黙ったまま頷いたのを確認して、オレたちはベンチに向かい1人分の間を空けて座った。

「何から話しましょうか……」
「オレは黙って聞いているから、凛太郎が話したいように話せばいいよ」
「……わかりました」

 少し突き放したような言い方になってしまったけど、凛太郎の話を聞かないことには、オレの気持ちの整理もできないし、返事も何もできない。
 だから今はただ、何も言わずに凛太郎の話を聞くことにした。

「僕が太陽たいようさんをちゃんと認識したのは、中学生の時でした。学校での検査でアルファと診断されたから、病院を受診するように言われたんです。その時ちょうどクリニック内に泣いている子がいて、多分オメガだったんだと思います。その子を見て『オメガかよ』って言ってしまったんです。他の人には聞こえなかったようなんですが、太陽さんは聞き逃さなかったんですね。ちょっとこっちにきてって言われて……」
「ああ、あの時の!」

 オレは黙って聞いていると言ったのに、記憶が鮮明に甦り、思わず声を出してしまった。

「はい、太陽さん、覚えてたんですね」
「いや、正直言われるまですっかり忘れていたよ。けど、あの時の生意気……っと、クールな子が、凛太郎だったとはなぁ」
「太陽さん、言い直さなくても大丈夫です。当時の僕は、確かに生意気というか冷めていたんです。自分で言うのも変ですけど、顔も頭も運動神経も良く、家柄も良かった。診断はされていないけど、アルファだろうって言われていました。何をしてもうまくいくし、人生イージーモードだと思ってたんです」
「あー、そういうやつもいるなぁ」

 実際、アルファは人生の勝ち組だと言われている。何においても秀でているから、あらゆる機関のトップにいるのはほとんどがアルファだ。
 しかも凛太郎の家系はアルファが生まれやすいらしく、先祖代々企業の社長だったり政治家だったり医者だったりと、まさに人生の勝ち組の家系だと話を聞いた。
 これも、クリニックスタッフの噂話なんだけど。

「僕たちの周りには男女関係なく、下心のある人間ばかりが集まってきました。特にオメガは、卑劣な手を使う人も多くて。僕はまだ良かったんですが、父や兄たちを見ていたから、僕もいつしかオメガに嫌悪感を持ってしまっていたんだと思います」

 そんな環境で育ったら、人生イージーモードで、熱意を持てない人になっても仕方がないのかもなぁ。
 オレは羨ましいという思い以上に、ちょっと同情さえしてしまった。

「そんな時、太陽さんが『バースで人を判断するな。バースなんて関係ない、その人自身を見るんだ』って、僕に言ったんです。親にも怒られたことがなかった僕は、びっくりしました」
「あー、そんなこと言ったなぁ。オレもまだ働き出したばかりで、若かったからなぁ」

 あの時は、本当に若かったんだと思う。クリニックに来た患者さんを捕まえて説教するなんて、普通は考えられない。春岡先生が穏やかな先生だから、軽く注意されただけで済んだけど。
 今はあの頃みたいな、熱さはない。その代わりに、経験と知識が増え、冷静に対処できるようになったと思う。

「あの時は偉そうに言って悪かったな」
「いえ、そんなことないです! 僕、あの時の太陽さんの言葉で、自分の考えを改めたんです。ずっと、家柄とか容姿とかアルファかもしれないからとか、上辺だけで見られるのが嫌でした。……でも、バースや上辺だけに囚われていたのは、自分だったんだって気付いたんです」
「そっか……。お前の心に響いたのか……」

 オレが、バース専門看護師を目指した理由のひとつに、第二の性を正しく知って生活していくことの大切さを伝えたかったから。
 第二の性は、確かに天に与えられたものだから、違いは出てしまうかもしれない。けど、それでその人自身を決めつけないでほしい。ちゃんとその人の中身をしっかりと見てあげてほしいって思ってるんだ。

 オレがベータだからそんなこと言えるんだろうとも、よく言われた。けど、ベータだからこそ見えるものもある。オレは中立な立場で、バース専門看護師として平等に接してきたんだ。
 その思いが、あの時の凛太郎の心に届いていたなんて、嬉しいよ。

「あの時太陽さんは、医療従事者の大変さと凄さも語ってくれたんです。その話を聞き、親のレールの上をただ言われるがまま歩いてきた自分を、見直す機会になったんです」
「勢いで説教しちゃったけど、無意味じゃなかったんだな」
「そうです。太陽さんはすごいんですよ」

 凛太郎は、クリニックで待ち伏せしていた時の顔とは打って変わって、なぜかとても誇らしげな笑顔を浮かべていた。
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