【完結】VRゲームの世界でキミを待つ

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
22 / 59

21 アイテム生成

しおりを挟む
「では、一番簡単な回復薬から作ってみましょうか」

 ルナさんはそう言うと、棚から何か葉っぱと液体の入った小瓶を取り出した。

「これは、薬草です。このままでも小回復できるのですが、生成すると効果がアップします。そしてこっちが精水。山の湧き水のように特定の場所で採取できます。両方とも、普通に道具屋で売っていますが、採取したほうが安価で作ることができます」

 薬草と精水の説明をした後、隣に置いてある、ルナさんの肩までの高さのある大きな釜を指さした。

「そしてこちらが、生成釜。大きいほうが成功率が上がります。携帯用釜もあるのですが、もう少し先の町に行かないと取り扱っていません。釜の性能と、生成する者の能力値などで変わってきますが、それはまた追々ですね」

 僕は、ルナさんの話に聞き入っていた。
 簡単な生成だとしても、成功させてユキとラパンに自慢したいんだ。僕1人でもできたよって。

「ではシロさん、薬草と精水を入れて、念じてみてください。特別な魔法などはいりません」
「はい!」

 僕は元気に返事をし、薬草と精水を生成釜に入れた。そして、回復薬ができますようにと、一生懸命念じる。

 初めはなんの変化もなかった釜から少しずつ光が漏れ、一気にぱぁっと光を放った。光が落ち着くと、『生成成功』とパネルに表示され、緑色の液体の入った小瓶がぽんっと現れた。

「できた!」

 僕は緑色の小瓶を手に取ると、高く掲げた。

「上手に生成できましたね。その調子です。もう1つ、モンスターを寄せ付けない「聖水」を生成してみましょうか」
「はい!」
「聖水は、浄化草と精水で生成しますが、浄化草は薬草より採取が難しいので、初期は道具屋で買うことが一般的ですね。先ほどと同じように、生成釜に入れて念じてください」

 ルナさんから材料を受け取ると、さっきと同じように生成釜に入れ、一生懸命念じた。
 すぐ目の前に、ポンっと水色の液体の入った小瓶が現れた。

「あれ? さっきより完成が早い?」
「初回は生成過程を見られるのですが、それ以降は省略されるようになっています。慣れてくると、もっと早くなりますよ」
「それは何気に便利ですね」

 僕は、キラキラ輝く小瓶をニヤニヤしながら眺めた。少し成長した気がして、早くユキとラパンに見せたいなって思った。

「完成したアイテムは、差し上げますので、お持ち帰りください」
「ありがとうございます!」
「またいらしてくださいね」
「はい、また来ます!」

 僕は元気に挨拶をすると、初心者の部屋の外に出た。そんなに長居をしたつもりはないけど、気づけば空はすっかり茜色になっていた。

「結局、ユキのメンテナンスは終わらなかったし、ラパンにも会えなかったなぁ……」

 誰に言うでもなく、ぼそっと口から出た独り言は、高くて広い茜色の空に吸い込まれていった。

「よし、今日は夕飯を食べないで帰ろうかな」

 いつもなら、ゲーム世界ならではの食事が楽しくて、必ず何か食べてから帰る。かといって、現実世界に戻ったら、普通にお腹が空いているんだけどね。

 僕は今日はもういいかなと思いながら、ログアウトをしようと操作パネルを出した。
 行動履歴が見られるんだけど、今日はとても寂しいものだった。ユキとラパンが一緒の時は、行動内容がぎっしり書き込まれているのに。

「明日は、ユキにもラパンにも会えるよね!」

 僕は願いを込めて『会えますように』と言葉にした後、ログアウトボタンを押そうとした。

 ……え? ……あれ? ない?

 いつもならパネル右下に必ずあるはずの文字が、どこにも見当たらなかった。設定ページや行動履歴も全部探したけど、ない。

何度パネルを閉じても、開いても、やっぱり……ない。

「なんで、ログアウトボタンがないの!?」

 僕は慌てて、案内所へ走った。普段はユキがいるから必要ないと思うけど、もし困ったらそこに行けばいいと教えてもらった。

 僕が初心者だから知らないだけで、対処の仕方はあるはずだ。だから問題ない、すぐログアウトできる。
 そう心の中で叫びながら、ひたすら走る。初心者の部屋から街の入り口までだから距離があるけど、ゲームの中の僕なら走っても大丈夫なんだ。

「あの、すみません! ログアウトボタンが、ないんですけど!」
「ログアウトボタンですか? パネルを開いて、メインパネルの一番下に……」
「そこにないんです! いつものとこに、ないんです!」

 案内所の人は、僕がログアウトボタンの場所を知らないと思って、説明してくれたけど、違う、違うんだ。僕が聞きたい答えはそれじゃない。
 僕は半泣きになりながら訴えた。周りの視線が目が痛いけど、それどころじゃない。

「少々お待ちください」

 案内所の人が何やらパネルを操作するけど、うーんと首をひねる。

「こちらでは障害など報告されていませんので、もうしばらく様子を見ていただくことしか……。また何か進展がございましたら、お知らせに表示されると思いますので」

 どれだけ優秀なAI搭載のNPCでも、やはり人間ではないんだと、痛いほど実感した。

 僕は、約束の時間が過ぎても、ログアウトができない事態に陥ってしまった。
 なすすべもなく、街の中をトボトボと歩いた。
 周りの景色も、行き交う人々も、いつもと何も変わらなかった。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

邪魔はさせない

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 病棟で知り合った2人。生まれ変わって異世界で冒険者になる夢を叶えたい!

【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―

綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。 一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。 もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。 ルガルは生まれながらに選ばれし存在。 国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。 最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。 一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。 遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、 最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。 ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。 ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。 ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。 そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、 巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。 その頂点に立つ社長、一条レイ。 冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

【完結】みにくい勇者の子

バナナ男さん
BL
ある田舎町で農夫をしている平凡なおっさんである< ムギ >は、嫁なし!金なし!の寂しい生活を送っていた。 そんなある日、【 光の勇者様 】と呼ばれる英雄が、村の領主様に突然就任する事が決まり、村人達は総出で歓迎の準備をする事に。 初めて会うはずの光の勇者様。 しかし、何故かムギと目が合った瞬間、突然の暴挙に……?     光の勇者様 ✕ 農夫おっさんのムギです。  攻めはヤンデレ、暴走ロケット、意味不明。 受けは不憫受け(?)だと思いますので、ご注意下さい。ノリよくサクッと終わりますm(__)m 頭空っぽにして読んで頂けると嬉しいです。

王子様と一緒。

紫紺
BL
田中明夫は作家を目指して10年、全く目が出ない男だ。 ある日、書店の前で金髪青い目の青年が突然話しかけてきた。最初は胡散臭く思っていたのだが……。 南の国の第2王子アスラン、その護衛トーゴー、田中が住むアパートの大家や住人の奨励会員などなど。 様々な人間模様と恋模様が織りなすBL多めのラブコメ開幕です!

完結|好きから一番遠いはずだった

七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。 しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。 なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。 …はずだった。

【本編完結済】神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

処理中です...