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27 大事な話
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「お世話になりました」
僕は何度目かの検査入院を終え、退院の日を迎えた。ちょうど手の空いた看護師さんや、入院中に仲良くなった子たちが、玄関まで見送りに来てくれた。
「病院だから、またねってあんま言っちゃいけないんだろうけど……またね!」
「今度は、病院の外で会う約束をすればいいんだよ。それならまたねって言える!」
「それいいね! 真白が言ってたうさぎカフェに一緒に行こうよ」
「そうだね。うさぎカフェ案内するよ」
「やったー!」
子どもたちは、口々にワクワクするような話をするから、僕も「また今度ね」と、未来のある話をする。
子ども病院に入院するような子は、専門病院にかからないといけない子や、治りの悪い病気などの子が多い。せめて、こういう時の会話くらいは、希望のある話をしたいんだ。
「そろそろ行こうか」
僕の隣で荷物を持ってくれている昴さんが、時計を見てそろそろと促す。
病院に来れない両親に代わって、昴さんが退院手続きをしてくれた。そして家まで送り届けてくれると言う。
「じゃあね」
「またねー!」
僕は停めてある昴さんの車に乗り込み、走り出した車の窓を開けて手を振った。
◇
午前中に退院した僕は、昴さんに送ってもらい帰宅した。
家に誰もいないので昴さんは心配していたけど、「昴さんは仕事に行ってください」と僕が言うと、後ろ髪を引かれるように、何度も振り返りながら僕の家を出て行った。
昴さんを見送った後、お母さんが作り置きしてくれたお昼ご飯を食べた。
久しぶりに食べたお母さんの手料理は、じんわりと心に沁みる。と同時に、ゲーム内でのあの不思議で美味しい料理のことも思い出していた。
とてもリアルな体験ができるとはいえ、あくまでもゲーム、所詮作り物……なのに。僕の中でこんなに大きな存在になっていたんだって、今ならわかる。
現実世界と同じくらい、リベラリアの住人との交流が楽しくて嬉しくて、気づけば僕の心の拠り所になっていたんだ。
「みんなに、会いたいな……」
僕はなにもやる気が起きなくて、食事の片付けもしないまま、ベッドに横たわった。
目をつぶると、浮かんでくるのはみんなの笑顔だ。
「真白?」
体を揺さぶられる感覚で目を覚ますと、ベッドの横には昴さんが立っていた。
「あれ? 昴さん……?」
「連絡入れても返事はないし、家に来てチャイム押しても反応ないし、悪いけど勝手に上がらせてもらったよ」
「僕、いつの間にか寝ちゃったみたいです」
目を擦りながら体を起こし、時計を見るともう17時を指していた。
「疲れているところ、ごめんな。大事な話だから、聞いてほしい」
「あ、じゃあここじゃなくて……」
大事な話なのに、こんなところじゃと思って僕は言ったけど、昴さんは静かに首を横に振った。
「ここで大丈夫だよ」
「あ、はい」
昴さんは、ふうっと大きく息を吐くと、僕をまっすぐ見た。
「真白に、隠していたことがあるんだ」
「隠していたこと……?」
昴さんの口から出た言葉は、僕の想像していなかった言葉だった。
僕はてっきり、これからのゲームについてとか、そういうことだと思っていたんだ。
「驚かせてしまうかもしれないけど、聞いてほしい」
昴さんは、ためらいつつ、言葉を選んでいるように思う。そんなに、隠していてはいけなかったことなのだろうか。
「俺は真白のために、リアルVRゲームを作ると約束しただろう? それがやっと完成に近づいた。病院の協力を得て、準備が整い、やっと真白に体験させられることになったよね?」
「うん」
昴さんの言葉に僕はうなずいた。
どうしてゲーム開発に至ったのかということを、昴さんは前に話してくれた。
きっかけはたしかに『僕』なんだけど、それだけじゃなかった。
リベラリアは、入院中の子どもたちや体の不自由な人たちにも、リアルVRゲームの中で生活を楽しんでほしい……という思いで企画された。
今まで医療目的の簡易的なものはあったけど、RPGタイプは初めての開発だって教えてくれた。
「やっとリベラリアを真白に体験させてやれることになって、今度はゲーム内で誰が真白を守るんだ? って思った。けど俺がこのまま昴として一緒にゲームにログインしても、真白にとってはあくまでも『近所の優しいお兄さん』でしかない。……だから俺は考えた。別人になってゲーム内で会えば、もっと自然に接してくれるんじゃないかって」
「別人に……なって……?」
「そう、別人になって、シロに会いに行った」
そこまで言うと、昴さんは一呼吸置くように息をのんだ。
次の言葉を待つ僕の心臓の音も、静けさの中で大きく聞こえる。
少しの沈黙の後、昴さんはゆっくりと口を開いた。
「ずっと黙っていてごめん。……俺は、ラパンなんだ――」
昴さんが意を決して話してくれた内容に、僕は驚いて声も出なかった。
ずっとゲームの中で僕を支えてくれていた人が、昴さんだった……?
僕は何度目かの検査入院を終え、退院の日を迎えた。ちょうど手の空いた看護師さんや、入院中に仲良くなった子たちが、玄関まで見送りに来てくれた。
「病院だから、またねってあんま言っちゃいけないんだろうけど……またね!」
「今度は、病院の外で会う約束をすればいいんだよ。それならまたねって言える!」
「それいいね! 真白が言ってたうさぎカフェに一緒に行こうよ」
「そうだね。うさぎカフェ案内するよ」
「やったー!」
子どもたちは、口々にワクワクするような話をするから、僕も「また今度ね」と、未来のある話をする。
子ども病院に入院するような子は、専門病院にかからないといけない子や、治りの悪い病気などの子が多い。せめて、こういう時の会話くらいは、希望のある話をしたいんだ。
「そろそろ行こうか」
僕の隣で荷物を持ってくれている昴さんが、時計を見てそろそろと促す。
病院に来れない両親に代わって、昴さんが退院手続きをしてくれた。そして家まで送り届けてくれると言う。
「じゃあね」
「またねー!」
僕は停めてある昴さんの車に乗り込み、走り出した車の窓を開けて手を振った。
◇
午前中に退院した僕は、昴さんに送ってもらい帰宅した。
家に誰もいないので昴さんは心配していたけど、「昴さんは仕事に行ってください」と僕が言うと、後ろ髪を引かれるように、何度も振り返りながら僕の家を出て行った。
昴さんを見送った後、お母さんが作り置きしてくれたお昼ご飯を食べた。
久しぶりに食べたお母さんの手料理は、じんわりと心に沁みる。と同時に、ゲーム内でのあの不思議で美味しい料理のことも思い出していた。
とてもリアルな体験ができるとはいえ、あくまでもゲーム、所詮作り物……なのに。僕の中でこんなに大きな存在になっていたんだって、今ならわかる。
現実世界と同じくらい、リベラリアの住人との交流が楽しくて嬉しくて、気づけば僕の心の拠り所になっていたんだ。
「みんなに、会いたいな……」
僕はなにもやる気が起きなくて、食事の片付けもしないまま、ベッドに横たわった。
目をつぶると、浮かんでくるのはみんなの笑顔だ。
「真白?」
体を揺さぶられる感覚で目を覚ますと、ベッドの横には昴さんが立っていた。
「あれ? 昴さん……?」
「連絡入れても返事はないし、家に来てチャイム押しても反応ないし、悪いけど勝手に上がらせてもらったよ」
「僕、いつの間にか寝ちゃったみたいです」
目を擦りながら体を起こし、時計を見るともう17時を指していた。
「疲れているところ、ごめんな。大事な話だから、聞いてほしい」
「あ、じゃあここじゃなくて……」
大事な話なのに、こんなところじゃと思って僕は言ったけど、昴さんは静かに首を横に振った。
「ここで大丈夫だよ」
「あ、はい」
昴さんは、ふうっと大きく息を吐くと、僕をまっすぐ見た。
「真白に、隠していたことがあるんだ」
「隠していたこと……?」
昴さんの口から出た言葉は、僕の想像していなかった言葉だった。
僕はてっきり、これからのゲームについてとか、そういうことだと思っていたんだ。
「驚かせてしまうかもしれないけど、聞いてほしい」
昴さんは、ためらいつつ、言葉を選んでいるように思う。そんなに、隠していてはいけなかったことなのだろうか。
「俺は真白のために、リアルVRゲームを作ると約束しただろう? それがやっと完成に近づいた。病院の協力を得て、準備が整い、やっと真白に体験させられることになったよね?」
「うん」
昴さんの言葉に僕はうなずいた。
どうしてゲーム開発に至ったのかということを、昴さんは前に話してくれた。
きっかけはたしかに『僕』なんだけど、それだけじゃなかった。
リベラリアは、入院中の子どもたちや体の不自由な人たちにも、リアルVRゲームの中で生活を楽しんでほしい……という思いで企画された。
今まで医療目的の簡易的なものはあったけど、RPGタイプは初めての開発だって教えてくれた。
「やっとリベラリアを真白に体験させてやれることになって、今度はゲーム内で誰が真白を守るんだ? って思った。けど俺がこのまま昴として一緒にゲームにログインしても、真白にとってはあくまでも『近所の優しいお兄さん』でしかない。……だから俺は考えた。別人になってゲーム内で会えば、もっと自然に接してくれるんじゃないかって」
「別人に……なって……?」
「そう、別人になって、シロに会いに行った」
そこまで言うと、昴さんは一呼吸置くように息をのんだ。
次の言葉を待つ僕の心臓の音も、静けさの中で大きく聞こえる。
少しの沈黙の後、昴さんはゆっくりと口を開いた。
「ずっと黙っていてごめん。……俺は、ラパンなんだ――」
昴さんが意を決して話してくれた内容に、僕は驚いて声も出なかった。
ずっとゲームの中で僕を支えてくれていた人が、昴さんだった……?
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