【完結】君を知らないまま、恋をした

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
47 / 59

46 決意

しおりを挟む
 次の日の朝目が覚めると、鳥のさえずりではない、何か不快な雑音が耳に入ってきた。
 昨日は聞こえなかった不自然な音が気になって、僕は寝ている子うさぎたちを起こさないように、そっと家の外に出てみた。

「――!」

 僕は、目の前の光景に思わず息を呑んだ。
 
 昨日は住人や冒険者などの気配がないだけで、それ以外は前に来た時と変わらなかった。なのにどういうことだろう、今日は明らかに街並みがおかしくなっている。
 街の中の木々が消えたり現れたりを繰り返し、空の一部がモザイクになりノイズが走る。そして、建物の一部がまるでレトロゲームのような、ドット絵になっていた。

「なにこれ……」

 僕はそれ以上何も言葉が出ず、しばらくその場に立ち尽くしてしまった。

「とにかく、街の様子を見てこないと」

 何が起きているのか、全く見当もつかないけど、今ここにいるのは僕しかいない。子うさぎたちを守れるのは、僕だけなんだ。
 それに、街中を探し回ったら、もしかしたら誰かいるかもしれない。

「大丈夫、僕ならできる」

 自分自身を鼓舞して、僕は街の隅々まで歩いて見て回った。

 幸い、モンスターが入り込んでいるとか、不審な人がいるとか、そういうのはなかった。
 ただ、聞き慣れない不快な音はまだ鳴っているし、ノイズやドット化など、街の至る所で異変を確認できた。

「一度、子うさぎたちの元へ戻ろう」

 僕が不在の間に、家を出てしまったら困ると思い、僕は一度戻ることにした。

 幸い、家に戻ると、子うさぎたちは眠そうに目をこすりながら、起きてきたばかりだった。

「あ、おにいちゃん、おはよー」
「ホットケーキつくるんだよね?」
「わたし、あさごはんでたべたいのー」

 子うさぎたちの、のんびりとした声を聞いていると、心がホッと落ち着く。

「そうだね。でもね、一緒に作りたかったけど、僕ちょっと用事ができちゃったんだ。だから、今日は僕が作るから、また別の日にみんなで一緒に作ろうか」
「えー。たのしみにしてたのにー」
「おやくそくしたら、おにいちゃん、またあそびにきてくれるんだよ?」
「そっかー、それならきょうはがまんする」

 口々に言う子うさぎたちを見ると心苦しいけど、緊急事態だから仕方がない。
 そのあと僕は手際よくホットケーキを作ると、待っている子うさぎたちの前にお皿を置いた。

「食べ終わったらお話があるから、椅子に座って待っててね」
「はーい」

 僕は、美味しそうにホットケーキを食べる子うさぎたちをその場に残し、次の行動のための準備を始めることにした。

 街を確認した限りは、外から攻撃されたような様子はなかった。ラパンも疑っていたけど、多分これはゲームシステムの問題だと思う。
 だから、何もできない僕はログアウトするのが一番いいんだろうけど、できなかった。
 それなら、子うさぎたちを守り、ラパンたちを静かに待つのが、最善なんだと思う。
 けど、それもできそうにない。黙ってただ待っていることは、僕には無理そうだ。

 僕は、昨日寝る前に色々と考えていた。
 子うさぎたちを守りたい。この街を守りたい。リベラリアの世界を守りたい。
 僕にできることがあるはずだ。子うさぎたちを守りつつ、役に立てること……。

「まずは、子うさぎたちの当面の食事を確保する。そして、安全の確保のために、この家全体にバリアを張る。そのあと子うさぎたちに、誤魔化さずにちゃんと話をして……洞窟、ラパンたちの元へ向かう」

 僕がこれから行動に移すことを、確認のために口に出して言った。

 以前僕は少しの間だったけど、バリアを張ることに成功している。あれから練習して、もっと対象が大きなもので、時間も長くバリアを張れるようになった。
 こんな大きな家にバリアを張るのは初めてだけど、今の僕なら大丈夫だ。

「話があるんだ。よく聞いてほしい」

 次は、子うさぎたちに包み隠さず話をすること。
 いつになく真剣な僕に、子うさぎたちはピシッと姿勢を正して、真剣に聞いてくれた。
 子うさぎを子どもだからと思って適当なことは言わず、ちゃんと説明すれば無闇にこの家から出ないと思う。

「わかった! ぼくたち、まってる」
「おにいちゃん、おかあさんといっしょにかえってくるんだよね? おうちまもってるよ」
「ぼくたちにまかせて!」

 子うさぎたちは頼もしい言葉で、僕を励ましてくれた。こんなに小さくても、自分たちなりにちゃんと考えて、頑張ろうとしてくれている。
 僕も、頑張らなきゃ。

 子うさぎたちを家の中に残し、僕は外に出た。そして、みんなを守りたいと一生懸命念じた。
 すると、うっすら光が見え始め光の壁が形成されていき、家をすっぽりと覆うドーム型のバリアが完成した。

「やった。完成した……」

 大きなバリアを見ながら、僕はひとまずホッと胸を撫で下ろした。

 次は、移動魔法だ。
 初心者の部屋で、ルナさんに知識として教えてもらっただけの魔法。だから僕にできるかなんてわからない。
 けど、僕ならできる。きっとできる。
 ラパンの元へ駆けつけて、補助魔法をかけて援護したいんだ。 
 そのためには、是が非でも移動魔法を成功させなければいけない。
 
 僕は、大きく深呼吸をしたあと、手を組み意識を集中した。

「ラパン、今から行くから待っててね」

 ひたすら、念じ続ける。どんどん体が熱くなり、今までに感じたことのない力が、全身を駆け巡っているような気がした。

 そして、僕の意識は一瞬途切れた――。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。 勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。

姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)

turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。 徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。 彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。 一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。 ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。 その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。 そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。 時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは? ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ? 読んでくださった方ありがとうございます😊 ♥もすごく嬉しいです。 不定期ですが番外編更新していきます!

どうか溺れる恋をして

ユナタカ
BL
失って、後悔して。 何度1人きりの部屋で泣いていても、もう君は帰らない。

ラベンダーに想いを乗せて

光海 流星
BL
付き合っていた彼氏から突然の別れを告げられ ショックなうえにいじめられて精神的に追い詰められる 数年後まさかの再会をし、そしていじめられた真相を知った時

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

ジャスミン茶は、君のかおり

霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。 大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。 裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。 困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。 その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

処理中です...