48 / 59
47 洞窟を守りし者
しおりを挟む
かすかな浮遊感と、土臭い匂いで目を開けると、そこはもう薄暗い洞窟の中だった。
「やった……成功した……」
転移魔法は、上級者向けの魔法だと説明された。物を移動させるくらいならできる人もいるけど、自分自身が別の場所に移動するというのは、かなり高度なんだそうだ。
僕は、自分の体全体に異常がないか念入りに確認した。今のところ、異常は見当たらない。
本当に転移魔法が成功したんだ――。
不完全魔法だったら……という不安を抱えていた僕は、ホッと胸を撫で下ろした。
「よし、ラパンとソーマさんを探そう」
僕は両手で自分の頬を、パンッと叩いて気合いを入れた。とにかく合流するために、どこにいるか探さないと。
――そう思って歩き出したけど、数歩歩いたところで僕の足は止まった。
「ラパンだ」
どうして確信できたのか、自分でもわからない。だけど、あの向こうにラパンがいる。
モンスターに遭遇するかもという恐怖など投げ捨て、僕は一気に走り出した。
突き当たりを右に曲がる。そしてすぐ左。――もうすぐだ!
視界が大きく開けたその先に、ラパンとソーマさんはいた。
「――っ!」
僕は大きな声を出しそうになって、慌てて口を塞いだ。
ラパンとソーマさんの視線の先には、黄金に輝く大蛇がとぐろを巻いて眠っていた。
僕は咄嗟に岩陰に隠れ息を潜めた。こんなモンスターを前に、僕が出て行っても迷惑をかけるだけだ。
あまりの恐怖に体が震える。
今まで僕がリベラリアで見てきたモンスターは、その辺に転がる石ころと同じだ。
ラパンとソーマさんが目の前にしている大蛇は、比べ物にならない強さなのだろう。
あまりの圧倒的な存在感に、体が危険信号を感じ取っている。
「おい、なんでこいつがここにいるんだよ?」
「知るか!」
「体験版に出てくる奴じゃないだろ?」
「それは俺が聞きたいわ!」
ラパンとソーマさんは、大蛇から目を逸らさぬように、ゆっくり後ろに下がり距離を取る。ひそひそ声で話す内容からは、2人とも戸惑っているというのがわかった。
その直後、人の気配を感じ取ったんだろう。大蛇が体を起こし、シューシューと威嚇し始めた。赤い舌が2人の方を向いてチロチロと動く。
『侵入者か……』
「しゃべった!?」
「こいつは一体……」
距離を保ったまま、ラパンとソーマさんが顔を見合わせる。
『我は、この洞窟を守りし者――』
「洞窟を守りし者……?」
「……待て。まさか、ヴェルミリオン・コードか?」
「は? あれは、実装中止になったはずだろ!」
「わからない。最近の頻発するバグも関係しているのかもしれない」
「いや、そもそもデータ削除済みのはずなのに、なんでいるんだよ!」
最初は声をひそめて話していた2人も、戸惑いが大きくなるに連れて、声を荒げていく。
体験版にないはずの洞窟が現れて、いないはずの洞窟のボスに遭遇したってこと?
ログアウトボタン消失とか、サポートキャラの頻繁なメンテナンスや、ホワイトバロウの街並みの異変も、全て関係してる……?
僕は胸騒ぎがした。
いくらラパンたちが強いとはいえ、これが想定されていなかった出来事なら、常識は通用しない。
開発者側のチートがあると言っても、本当に大丈夫なのだろうか?
考えれば考えるほど、不安が募るばかり。
あまりにもリアルすぎるせいで、ゲームと現実の境が曖昧になっていく。
本当はここが現実で、倒されてしまったら、もう存在そのものがなくなってしまうんじゃないか?
……そんな間違った思考に侵されそうになった時、目の前の大蛇の鱗の一部が、ドット崩壊してチカチカ光り出した。
その光景に、奪われそうになっていた思考が一気に引き戻された。
そうだ。ここはゲームの世界だ。僕には帰る場所がある。……不安にならなくても、大丈夫なんだ。
「……バグじゃない、こいつは、削除されたはずの、試作ボスだ」
「チッ、バグだろうがなんだろうが関係ない、とにかくこいつをやっつけないことには、戻れねぇよ」
「ああ、そうだな。さっさと終わらせようか」
ハッと気づくと、ラパンとソーマさんが、大蛇に向かって剣を構えていた。
僕が不安になっていてもしょうがない。2人なら難なく倒せるはずだ。僕は邪魔にならないように、ここで待っていれば大丈夫。
ラパンとソーマさんが戦闘体制に入ったのを見た大蛇が、シュルシュルっと赤く長い舌を出し入れする。
『我を倒すと申すのか。……面白い、相手になってやろう』
「こんなとこで遊んでる暇はないんだわ」
「悪いな、サクッと終わらせるから」
ラパンとソーマさんの挑発するような態度に、大蛇はこちらに向かって動き始めた。
移動はゆっくりなのに、巨体が地面を這うたびノイズのような音が響き、地形が乱れる。
大蛇の鱗から始まり全身にドット崩れが広がっていき、背景全てにまで崩壊範囲が広がっていく。
本来ないはずの洞窟は、すでにバランスを崩し崩壊が始まっていた。
まずい、このままだと僕たちも、この洞窟の崩壊に巻き込まれてしまう。
僕は邪魔にならないように岩陰に隠れていたけど、このままじゃダメだ。2人を信じて何かできることを探さなきゃ……。
「ラパン、ソーマさん! 逃げなきゃダメ!」
僕は思い切って、岩陰から飛び出し叫んだ。
「シロ!?」
「なんでここに!」
無我夢中で2人に駆け寄り、逃げようと腕を掴んで引っ張った。
『なぜお前が……!』
飛び出してきた僕を大蛇は目を見開いて見下ろし、信じられないものを目の前にしたかのように低く唸った。
「やった……成功した……」
転移魔法は、上級者向けの魔法だと説明された。物を移動させるくらいならできる人もいるけど、自分自身が別の場所に移動するというのは、かなり高度なんだそうだ。
僕は、自分の体全体に異常がないか念入りに確認した。今のところ、異常は見当たらない。
本当に転移魔法が成功したんだ――。
不完全魔法だったら……という不安を抱えていた僕は、ホッと胸を撫で下ろした。
「よし、ラパンとソーマさんを探そう」
僕は両手で自分の頬を、パンッと叩いて気合いを入れた。とにかく合流するために、どこにいるか探さないと。
――そう思って歩き出したけど、数歩歩いたところで僕の足は止まった。
「ラパンだ」
どうして確信できたのか、自分でもわからない。だけど、あの向こうにラパンがいる。
モンスターに遭遇するかもという恐怖など投げ捨て、僕は一気に走り出した。
突き当たりを右に曲がる。そしてすぐ左。――もうすぐだ!
視界が大きく開けたその先に、ラパンとソーマさんはいた。
「――っ!」
僕は大きな声を出しそうになって、慌てて口を塞いだ。
ラパンとソーマさんの視線の先には、黄金に輝く大蛇がとぐろを巻いて眠っていた。
僕は咄嗟に岩陰に隠れ息を潜めた。こんなモンスターを前に、僕が出て行っても迷惑をかけるだけだ。
あまりの恐怖に体が震える。
今まで僕がリベラリアで見てきたモンスターは、その辺に転がる石ころと同じだ。
ラパンとソーマさんが目の前にしている大蛇は、比べ物にならない強さなのだろう。
あまりの圧倒的な存在感に、体が危険信号を感じ取っている。
「おい、なんでこいつがここにいるんだよ?」
「知るか!」
「体験版に出てくる奴じゃないだろ?」
「それは俺が聞きたいわ!」
ラパンとソーマさんは、大蛇から目を逸らさぬように、ゆっくり後ろに下がり距離を取る。ひそひそ声で話す内容からは、2人とも戸惑っているというのがわかった。
その直後、人の気配を感じ取ったんだろう。大蛇が体を起こし、シューシューと威嚇し始めた。赤い舌が2人の方を向いてチロチロと動く。
『侵入者か……』
「しゃべった!?」
「こいつは一体……」
距離を保ったまま、ラパンとソーマさんが顔を見合わせる。
『我は、この洞窟を守りし者――』
「洞窟を守りし者……?」
「……待て。まさか、ヴェルミリオン・コードか?」
「は? あれは、実装中止になったはずだろ!」
「わからない。最近の頻発するバグも関係しているのかもしれない」
「いや、そもそもデータ削除済みのはずなのに、なんでいるんだよ!」
最初は声をひそめて話していた2人も、戸惑いが大きくなるに連れて、声を荒げていく。
体験版にないはずの洞窟が現れて、いないはずの洞窟のボスに遭遇したってこと?
ログアウトボタン消失とか、サポートキャラの頻繁なメンテナンスや、ホワイトバロウの街並みの異変も、全て関係してる……?
僕は胸騒ぎがした。
いくらラパンたちが強いとはいえ、これが想定されていなかった出来事なら、常識は通用しない。
開発者側のチートがあると言っても、本当に大丈夫なのだろうか?
考えれば考えるほど、不安が募るばかり。
あまりにもリアルすぎるせいで、ゲームと現実の境が曖昧になっていく。
本当はここが現実で、倒されてしまったら、もう存在そのものがなくなってしまうんじゃないか?
……そんな間違った思考に侵されそうになった時、目の前の大蛇の鱗の一部が、ドット崩壊してチカチカ光り出した。
その光景に、奪われそうになっていた思考が一気に引き戻された。
そうだ。ここはゲームの世界だ。僕には帰る場所がある。……不安にならなくても、大丈夫なんだ。
「……バグじゃない、こいつは、削除されたはずの、試作ボスだ」
「チッ、バグだろうがなんだろうが関係ない、とにかくこいつをやっつけないことには、戻れねぇよ」
「ああ、そうだな。さっさと終わらせようか」
ハッと気づくと、ラパンとソーマさんが、大蛇に向かって剣を構えていた。
僕が不安になっていてもしょうがない。2人なら難なく倒せるはずだ。僕は邪魔にならないように、ここで待っていれば大丈夫。
ラパンとソーマさんが戦闘体制に入ったのを見た大蛇が、シュルシュルっと赤く長い舌を出し入れする。
『我を倒すと申すのか。……面白い、相手になってやろう』
「こんなとこで遊んでる暇はないんだわ」
「悪いな、サクッと終わらせるから」
ラパンとソーマさんの挑発するような態度に、大蛇はこちらに向かって動き始めた。
移動はゆっくりなのに、巨体が地面を這うたびノイズのような音が響き、地形が乱れる。
大蛇の鱗から始まり全身にドット崩れが広がっていき、背景全てにまで崩壊範囲が広がっていく。
本来ないはずの洞窟は、すでにバランスを崩し崩壊が始まっていた。
まずい、このままだと僕たちも、この洞窟の崩壊に巻き込まれてしまう。
僕は邪魔にならないように岩陰に隠れていたけど、このままじゃダメだ。2人を信じて何かできることを探さなきゃ……。
「ラパン、ソーマさん! 逃げなきゃダメ!」
僕は思い切って、岩陰から飛び出し叫んだ。
「シロ!?」
「なんでここに!」
無我夢中で2人に駆け寄り、逃げようと腕を掴んで引っ張った。
『なぜお前が……!』
飛び出してきた僕を大蛇は目を見開いて見下ろし、信じられないものを目の前にしたかのように低く唸った。
58
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。
勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。
姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)
turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。
徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。
彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。
一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。
ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。
その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。
そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。
時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは?
ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ?
読んでくださった方ありがとうございます😊
♥もすごく嬉しいです。
不定期ですが番外編更新していきます!
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる