【完結】君を知らないまま、恋をした

一ノ瀬麻紀

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48 対峙する

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『まさかこんなところで出会うとはな。貴様の存在そのものが不愉快だ。――消えて無くなれ!』

 大蛇は地鳴りのような低い声で唸り、巻いていた体をうねらせると、太くしなる尾で一気に薙ぎ払った。

「危ない!」

 大蛇の尾が僕に届く前に、ラパンが瞬時に察知した。
 ものすごいスピードで僕を抱き上げると、横へと飛び、尾の攻撃を紙一重でかわす。
 地面に着地したラパンは、僕を庇うように背後に隠しながら、緊迫した声で言った。

「シロ、後ろに下がってろ!」
「でも!」
「俺たちだけでも大丈夫だ。シロは後ろに隠れて、補助魔法で援護してくれ」
「うん、わかった」

 僕が前衛で戦えないのはよくわかっている。悔しい気持ちを胸の奥に押し込み、距離を取った。
 ラパンとソーマさんは、僕が距離を取り岩陰に隠れたのを確認すると、カチャリと音を立てて剣を構えた。

『くくく……我に刃を向けると言うのか。愚かな人間どもよ、我の力を思い知るがよい!』

 大蛇が大きく頭をもたげ、口を開いた。
 次の瞬間、その赤黒い大きな口からは、次々と炎の球が吐き出された。

「このくらい、どうってことないさ!」
「こんな攻撃、チョロいチョロい!」

 2人とも軽口を叩きながら、炎の雨をすり抜けるように避けていく。

「すごい……」

 僕は2人の動きに目を奪われていたけど、ハッと我に返り、補助魔法を念じ始めた。
 覚えている、ありとあらゆる補助魔法を次々と念じていく。
 ラパンもソーマさんも、動きが格段と良くなったのがわかった。

 ラパンが掲げた剣に、ソーマさんが魔法をかけ、一気に振り下ろす。光が走り、大蛇の鱗をかすめた。
 かと思えば2人同時に魔法を唱え、大蛇に向かって爆発させるようにエネルギーを放った。
 見事なまでの2人の連携に、僕は再び感嘆の声を漏らした。

 戦闘が始まって、どのくらいの時間が過ぎただろうか。
 僕から見たら、確かに攻撃は効いているはずなのに、大蛇の体力ゲージは思ったより減っていなかった。

「おい、こいつ化け物かよ」
「実装されず削除されたボスだから、データがバグってるのかもしれない」

 距離を取った2人は、息を整えながら、目の前の大蛇を睨みつけた。

「マジかよ。勘弁してくれよ」
「俺らも本気出さなきゃいけないな」
「チッ、しょうがねぇな!」
「行くぞ!」

 ラパンとソーマは、2人で声を掛け合うと、一気に駆け出し大蛇に向かって剣を振り下ろす。

『その程度の攻撃、我には効かぬわ!』

 低い唸り声と共に、大蛇は尾を地面に叩きつけ、地を揺さぶった。
 洞窟内に地鳴りと大きなノイズが走り、大蛇自身も、モザイクのようにチカチカと不自然な点滅を繰り返す。
 ラパンが着地した地面に、ドット欠けで穴が空いていた。

「うわっ」

 飛び退くように身を翻した。

「どんどんひどくなってるな」
「さっさと決着つけないとまずいかもな」

 2人の体力は、僕が回復魔法をかけ続けているおかげで、満タンに近い。
 けど、この洞窟自体の様子がどんどんおかしくなっている。もしかして、大蛇に攻撃すればするほど、この洞窟のノイズが増えていっている?

 ここは、ゲーム内のデータ異常で発現した洞窟。もし、その空間がこのまま乱れていったとしたら――?
 僕はそう考えて、ぶるっと身を震わせた。

「どうしよう……」

 回復に専念するだけじゃ、この現状は変えられないのかもしれない。
 でも僕のできることは、精一杯やってきた。補助魔法をかけ、状態異常を解除し、回復をする。

 何か、僕にできることは……。そう考えた時、この洞窟に転移した時のことを思い出した。
 できるかわからない魔法でも、2人への――ラパンへの強い想いで、僕は転移魔法を成功させた。
 それなら、もっと力になれることがあるはずだ。

 僕は、大きく深呼吸をしたあと、手を組み意識を集中した。

「大蛇を倒し、みんなでこの洞窟を出るんだ――!」

 強く、強く祈る。
 魔法でもなんでもない、ただの僕の祈りだ。
 それでもきっと、この想いはラパンとソーマさんの想いと重なり合い、おかしくなった世界を正す力になるはずだ。

 ふと気がつくと、組んだ手が暖かくなるのを感じ、視線を手に移した。すると手のひらの隙間から、淡い光が漏れ出していることに気づいた。

「……え?」

 息を呑んだ瞬間、その光は一気に溢れ出した。
 大きな光の塊は、僕の視界を奪っていく。
 僕の視界が完全に塞がれる前に見えた光景は、離れた場所にいる僕を、まっすぐ見つめる大蛇の瞳だった。

『まさかその光は、我を封印し――』

 ――と、声が聞こえたと思った瞬間、僕を包んでいた大きな光の塊が、爆発するように大蛇に向かって放たれた。

 ドンっという強い衝撃を感じたのと同時に、僕の意識は、そこでぷつりと途切れた。
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