50 / 59
49 記憶の再生
しおりを挟む
――あれ?
気づくと僕は、動物園のお土産コーナーにいた。
確かこれは、僕が幼稚園の頃、家族旅行で動物園に行った時だと思う。
うちの家族以外にも、一緒に行った人たちがいた気がする。
『お土産、何か買って帰ろうか』
『うん、今日の思い出だね。【――】は、何にする?』
楽しそうにお土産を選ぶ、僕たち。
でも、なぜか会話の一部が靄に隠れて、聞き取れない。
『俺はね、これにしようかな』
『うさぎのキーホルダー?』
『うん。なんか、これが良いなって思ったんだ』
『じゃあ、僕も同じのがいい! おそろいにしよう!』
『うん、それいいな』
こんなやり取りがあったのは覚えているけど、誰だったのか、靄がかかって思い出せない。
ただ、あの日の記憶をたどると、胸がざわついて落ち着かない。
この時に買ったのが、僕の大切にしている、うさぎのキーホルダーだというのは覚えている。
僕は小学校の高学年の頃から、お医者さんに生活の制限をされてしまい、みんなから取り残されて寂しい思いをしてきた。
でもそんな時は、いつもこのキーホルダーをお守り代わりに持っていた。
物心ついた頃からいつも隣にいて、ずっと一緒だった人――。
記憶の奥がぼやけていて、顔は浮かばない。でも、僕にとってかけがえのない人だったはずだ。
急にふわっと体が浮いた感覚がしたと思ったら、今度は家の近くの河川敷に立っていた。
対岸には屋台が並び、たくさんの人であふれかえっている。
ああ、地元の花火大会の日だ。
夏に花火大会が行われることが多い中で、珍しく3月に花火大会があるんだ。
『花火きれいだったなぁ。また来年も一緒に来たいな』
『うん。来年は、あっちのお店がたくさん並んでいるところで、りんごあめが食べたいよ』
『真白は、くいしんぼうだなぁ』
『だって、美味しいもの食べたら、幸せな気持ちになるじゃん』
『うん、そうだなぁ』
僕たちは、お互いの顔を見合わせて、笑った。それだけでも幸せだったんだ。
――誰と?
僕は、誰と一緒に笑い合ったんだろう。靄がかかって、顔が思い出せない。
あの日、本当は対岸の向こうで人混みに揉まれながら、お祭りを楽しみたかった。
レジャーシートがたくさん敷かれた中で、狭そうに思いながら花火を見上げたかった。
でも僕がお医者さんから止められていたから、少し離れたところでしか、お祭りの気分を味わうことはできなかった。
寂しそうにしていた僕に、『屋台の並ぶエリアには行けないかもしれないけど、花火はゆっくり一緒に見よう』って言って、有料席を予約してくれた人がいた。
――それは誰?
僕は、誰と一緒に笑い合ったんだろう。記憶が霞んで、顔が思い出せない。
もう一度ふわっとした感覚がした後、今度は病院のベッドの上にいた。
まるで魂が体から離れたように、天井から自分を見下ろしていた。夢なのか、記憶なのか、僕にはわからなかった。
『なぁ真白。まだ起きないのか?』
ベッドで眠る僕のそばで、椅子に座って僕に語りかけている人がいる。
僕の手を取り、祈るように頭を下げているこの人は、きっと動物園の時と花火大会の時の人と一緒だ。
顔はやっぱり見えないけど、その人の姿を感じるだけで、僕はとても安心した気持ちになれる。
『今年の花火大会も、一緒に見に行こうって約束しただろ? 早く起きないと、花火大会終わっちゃうぞ?』
切なそうに話しかけても、僕はぴくりとも動かない。
規則的な呼吸音が聞こえてくるだけだ。
ふと枕元を見ると、眠る僕の横に、2つのうさぎのキーホルダーが置かれていることに気づいた。
やっぱり、動物園の人と花火大会の人は、同じ人なんだ。
『なんで、返事してくれないんだ? 俺たち、小さい頃からずっと一緒だっただろ? いつもバカ言って騒いで、本当の兄弟以上に……なのに……』
その人は耐えきれなくなったように、僕の手を握りしめたまま、布団に顔を埋めた。
その背中は、震えているように思えた。
その人は布団に顔を埋めたまま、声を押し殺すように、叫んだ。
『真白、お願いだから、もう一度【――】って呼んでくれよ……!』
その瞬間、グッと意識が引き戻されるように、その場から離れた。
すごい勢いで背中を引っ張られるような感覚のあと、何もない真っ白な部屋に辿り着いた。
「今のは、なんだったの……?」
夢だったのか、僕の記憶なのか。
でも、あの人のことは、靄がかかって思い出せない。
わけが分からず戸惑っていると、真っ白で何もなかった空間に、少しずつ映像が流れ始めた。
そしてどんどん流れる映像が増え、まるで走馬灯のように、僕の中に流れ込んでくる。
ずっと、知りたくても、靄がかかって思い出せなかった、その人の存在。
その人と僕との、忘れていた記憶が、僕の中に次から次へと吸収されていく。
そして、無音だった映像から、声が聞こえてきた――。
『うん、今日の思い出だね。昴は、何にする?』
『真白、お願いだから、もう一度昴って呼んでくれよ……!』
僕の耳に入ってきたのは、さっきは靄がかかって聞こえなかった名前だった。
それと同時に、僕の目の前に流れた映像に映っていたのは、紛れもなく『昴さん』その人だった。
「僕は……昴さんの記憶を、失っていた――?」
戸惑いと驚きの中、僕が導き出した答えはたった一つしかなかった。
昴さんは、ずっとそばにいてくれた、近所の優しいお兄さんなんかじゃない。
僕が生まれた時から一緒に過ごしてきた、本当の兄弟のような、なくてはならない存在で……。
それだけじゃない。
きっと僕は、無意識に昴さん……ううん、昴のことを――。
自分の気持ちに気づいた僕の目の前に、突然扉が現れた。
その瞬間、まるで靄が晴れるように、昴の笑顔が浮かんだ。
この先に、昴がいる。僕はそう確信し、扉に手を伸ばして大きく両手で開いた。
気づくと僕は、動物園のお土産コーナーにいた。
確かこれは、僕が幼稚園の頃、家族旅行で動物園に行った時だと思う。
うちの家族以外にも、一緒に行った人たちがいた気がする。
『お土産、何か買って帰ろうか』
『うん、今日の思い出だね。【――】は、何にする?』
楽しそうにお土産を選ぶ、僕たち。
でも、なぜか会話の一部が靄に隠れて、聞き取れない。
『俺はね、これにしようかな』
『うさぎのキーホルダー?』
『うん。なんか、これが良いなって思ったんだ』
『じゃあ、僕も同じのがいい! おそろいにしよう!』
『うん、それいいな』
こんなやり取りがあったのは覚えているけど、誰だったのか、靄がかかって思い出せない。
ただ、あの日の記憶をたどると、胸がざわついて落ち着かない。
この時に買ったのが、僕の大切にしている、うさぎのキーホルダーだというのは覚えている。
僕は小学校の高学年の頃から、お医者さんに生活の制限をされてしまい、みんなから取り残されて寂しい思いをしてきた。
でもそんな時は、いつもこのキーホルダーをお守り代わりに持っていた。
物心ついた頃からいつも隣にいて、ずっと一緒だった人――。
記憶の奥がぼやけていて、顔は浮かばない。でも、僕にとってかけがえのない人だったはずだ。
急にふわっと体が浮いた感覚がしたと思ったら、今度は家の近くの河川敷に立っていた。
対岸には屋台が並び、たくさんの人であふれかえっている。
ああ、地元の花火大会の日だ。
夏に花火大会が行われることが多い中で、珍しく3月に花火大会があるんだ。
『花火きれいだったなぁ。また来年も一緒に来たいな』
『うん。来年は、あっちのお店がたくさん並んでいるところで、りんごあめが食べたいよ』
『真白は、くいしんぼうだなぁ』
『だって、美味しいもの食べたら、幸せな気持ちになるじゃん』
『うん、そうだなぁ』
僕たちは、お互いの顔を見合わせて、笑った。それだけでも幸せだったんだ。
――誰と?
僕は、誰と一緒に笑い合ったんだろう。靄がかかって、顔が思い出せない。
あの日、本当は対岸の向こうで人混みに揉まれながら、お祭りを楽しみたかった。
レジャーシートがたくさん敷かれた中で、狭そうに思いながら花火を見上げたかった。
でも僕がお医者さんから止められていたから、少し離れたところでしか、お祭りの気分を味わうことはできなかった。
寂しそうにしていた僕に、『屋台の並ぶエリアには行けないかもしれないけど、花火はゆっくり一緒に見よう』って言って、有料席を予約してくれた人がいた。
――それは誰?
僕は、誰と一緒に笑い合ったんだろう。記憶が霞んで、顔が思い出せない。
もう一度ふわっとした感覚がした後、今度は病院のベッドの上にいた。
まるで魂が体から離れたように、天井から自分を見下ろしていた。夢なのか、記憶なのか、僕にはわからなかった。
『なぁ真白。まだ起きないのか?』
ベッドで眠る僕のそばで、椅子に座って僕に語りかけている人がいる。
僕の手を取り、祈るように頭を下げているこの人は、きっと動物園の時と花火大会の時の人と一緒だ。
顔はやっぱり見えないけど、その人の姿を感じるだけで、僕はとても安心した気持ちになれる。
『今年の花火大会も、一緒に見に行こうって約束しただろ? 早く起きないと、花火大会終わっちゃうぞ?』
切なそうに話しかけても、僕はぴくりとも動かない。
規則的な呼吸音が聞こえてくるだけだ。
ふと枕元を見ると、眠る僕の横に、2つのうさぎのキーホルダーが置かれていることに気づいた。
やっぱり、動物園の人と花火大会の人は、同じ人なんだ。
『なんで、返事してくれないんだ? 俺たち、小さい頃からずっと一緒だっただろ? いつもバカ言って騒いで、本当の兄弟以上に……なのに……』
その人は耐えきれなくなったように、僕の手を握りしめたまま、布団に顔を埋めた。
その背中は、震えているように思えた。
その人は布団に顔を埋めたまま、声を押し殺すように、叫んだ。
『真白、お願いだから、もう一度【――】って呼んでくれよ……!』
その瞬間、グッと意識が引き戻されるように、その場から離れた。
すごい勢いで背中を引っ張られるような感覚のあと、何もない真っ白な部屋に辿り着いた。
「今のは、なんだったの……?」
夢だったのか、僕の記憶なのか。
でも、あの人のことは、靄がかかって思い出せない。
わけが分からず戸惑っていると、真っ白で何もなかった空間に、少しずつ映像が流れ始めた。
そしてどんどん流れる映像が増え、まるで走馬灯のように、僕の中に流れ込んでくる。
ずっと、知りたくても、靄がかかって思い出せなかった、その人の存在。
その人と僕との、忘れていた記憶が、僕の中に次から次へと吸収されていく。
そして、無音だった映像から、声が聞こえてきた――。
『うん、今日の思い出だね。昴は、何にする?』
『真白、お願いだから、もう一度昴って呼んでくれよ……!』
僕の耳に入ってきたのは、さっきは靄がかかって聞こえなかった名前だった。
それと同時に、僕の目の前に流れた映像に映っていたのは、紛れもなく『昴さん』その人だった。
「僕は……昴さんの記憶を、失っていた――?」
戸惑いと驚きの中、僕が導き出した答えはたった一つしかなかった。
昴さんは、ずっとそばにいてくれた、近所の優しいお兄さんなんかじゃない。
僕が生まれた時から一緒に過ごしてきた、本当の兄弟のような、なくてはならない存在で……。
それだけじゃない。
きっと僕は、無意識に昴さん……ううん、昴のことを――。
自分の気持ちに気づいた僕の目の前に、突然扉が現れた。
その瞬間、まるで靄が晴れるように、昴の笑顔が浮かんだ。
この先に、昴がいる。僕はそう確信し、扉に手を伸ばして大きく両手で開いた。
68
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。
勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。
姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)
turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。
徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。
彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。
一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。
ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。
その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。
そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。
時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは?
ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ?
読んでくださった方ありがとうございます😊
♥もすごく嬉しいです。
不定期ですが番外編更新していきます!
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる