【完結】VRゲームの世界でキミを待つ

一ノ瀬麻紀

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52 奇跡と運命

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 次の日、僕は予定通り退院した。

 あのあと、手術を受けることを決めた僕は、すばると一緒に先生の話を聞いた。
 とりあえず、これからの流れを簡単に説明され、詳しい話は後日ということになった。
 僕が手術を受けると決めたので、改めて検査し問題がなければ、手術のスケジュールを組むことになるそうだ。

「まだ決定というわけじゃないけど、この前の検査入院の時も問題なかったようだし、このまま手術ができる方向で話は進むと思うよ」
「急を要する手術じゃないしね。先生たちと話して、ゆっくり進めていけばいいかなぁ」

 体調を崩しやすくなったあの頃から、できないことは増えたけど、それも含めて病気と生きてきた。
 これからもずっとそうやって生きていくと思っていたから、いまさら急いで! なんて思わない。ベストな状態で、手術が受けられればって思う。

「退院したばかりだから、話は明日にするか?」
「ううん、大丈夫。先生に手術の意向は伝えたけど、結局詳しい話は後日になったから、正直言うと、昴の知っていることを話してほしいんだ」

 僕の病気がどんなものかは、ずっと伏せられていたから僕は知らない。
 両親も、昴も、みんな病気について詳しい話をするつもりはなかったみたいだから、僕も聞こうとはしなかった。無理やり聞いて困らせるのも嫌だったから。

「そうだな。真白ましろは知る権利があるよな」
「あ……、昴が話づらいなら、無理しなくていいよ?」
「俺は大丈夫だけど、真白の負担にならないかが心配なんだ」
「今まで、みんなを困らせたくないから聞かなかったけど、本当はちゃんと聞いて、自分の病気と向き合いたかったんだ」
「そうか。でも、ちゃんとした話は先生から聞くのが一番だから、俺は簡単にしか話さないけどいいか?」
「うん、ありがとう」

 昴は、僕の負担にならないように、要点を絞って話をしてくれた。

 僕の病気が発覚した時はまだ、根本的な治療方法は見つかっていなくて、投薬と定期的な検査で病気と向き合いながら生活をするという選択しかなかった。
 その風向きが変わったのは、僕が検査入院している時だった。

「新しい治療法が実用化されたのは少し前なんだけど、実際に執刀できる先生はまだ少なくて、手術を受けられる人も限られていたんだ。でも、今度この病院に赴任してくる先生が、その手術を行える数少ない専門医でね。真白の手術を一番に引き受けてくださることになったんだ」
「そんな、奇跡みたいなことがあるんだね」
「きっと、前向きに頑張っていた真白だから、神は味方についてくださったんだ」

 まるで何か物語のような話だけど、これは紛れもなく現実の話なんだ。
 僕は今まで夢に見てきたことを、実現するための第一歩を踏み出す。

「じゃあ、神様の想い……ずっとそばで支えてくれた、昴の想いにも応えないとね」
「みんなが、真白の頑張りを、応援してるよ」

 僕は、改めて決意を固めるかのように、昴を見て大きくうなずいた。


 僕の病気が発覚したのは、体調を崩しやすくなった小学校高学年。高熱を出す前のことだった。
 ある日やけに体全体が熱いと思ったら、高熱を出し……そのあと目が覚めたら、僕の隣には知らないお兄さんが立っていた。

 そのあと、僕が記憶を失っている間のことを、話してくれた。

 家族や親戚とも話し合って、決められたことが2つあった。
 1つは、僕に病気の詳しい話をしないこと。もう1つは、僕が『昴の記憶だけ』を失っていると言う事実を隠すこと。みんな、それを守るために気をつけてくれていた。

 そこからは、僕も覚えている。いつもそばにいた昴は、近所の優しいお兄さんだった。でも、なぜ僕のそばにいるのか、その時の僕に理由はわからなかった。

「真白が俺のことを……忘れてしまったあとも、約束を果たすために、俺はゲームについて一生懸命学んだ。それまでは、なんとなく親の会社を継ぐのかなって思ってたんだ」

僕が昴のことだけを忘れてしまっていたことを思い出したのか、昴は一瞬辛そうに顔をしかめた。

「そして体験版を、真白にプレイしてもらえるところまで漕ぎつけた。前にも話したけど、俺はいつまでも近所のお兄さんのままでいなければならなかったから、せめてゲームの中だけでもと考えたんだ」
「だから、ラパンになって、僕に会いに?」
「そう。体験版は一人プレイ専用なのに、真白が知らないのをいいことに、都合の良いことを言った。『奇跡』なんかじゃなかったのに」

 しゅんとしょげたように言う昴に、悪いと思いながらも、思わずクスッと笑ってしまった。まるで飼い主に怒られた犬みたいだ。

「でも、僕はラパンのおかげで助かったんだし、ラパンのおかげでログインがとても楽しくなった。それに、ラパンのアドバイスがあったとはいえ、僕の意思で行動してたんだ。そして僕は、ラパンにどんどん惹かれていき、両思いになって恋人にもなった」

 きっかけは、ラパンが意図的に僕のデータにログインしたことかもしれない。
 けど、僕がラパンを好きになったのは、僕自身の感情だ。誰に何を言われたわけじゃない、僕の大切な想いだ。
 これを、奇跡と言わないでなんて言う? これはきっと運命の導きなんだ。

「だから、これは僕たちの……僕たちだけの奇跡。僕たちは、結ばれる運命だったんだよ」

 僕は、みるみるうちに顔が明るくなっていく昴の胸に、勢いよく飛び込んだ。
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