54 / 59
53 あの日のこと
しおりを挟む
「昴は、気にしているみたいだけど、僕は嬉しいんだよ」
昴の胸に飛び込んだ僕は、ぬくもりを感じながら、僕の素直な気持ちを伝えていく。
「だって、僕が昴のことを忘れてしまったのに、それでもずっと僕を支えてくれた。その上、僕のことを思って、優しいお兄さんのままでいようとしてくれた」
「それは……本当のことを伝えても、真白は混乱するだけだろ? 負担をかけたくなかったんだ」
「ほら、昴はいつでも僕のことを一番に考えてくれる。……そんな人が、ゲームの中で正体を明かさず、僕と友達になろうとしてくれた。たとえ下心があったとしても、昴は自分本位にはならずに、ゲームの中でも僕を守ってくれたでしょ?」
昴は、せめてゲームの中では、僕と対等でいたいと思って、ラパンとして偶然を装って僕を助けてくれた。
正体を明かせず悩んだと思う。だけどラパンとして、いつでも僕のことを考えて、そばで寄り添ってくれた。
「だからね、もう気にしないで欲しいんだ。昴もラパンも、僕にとって大切な人であることには変わりがないから」
「真白……」
「よし、この話は終わり! 次は……あの日のことを聞かせて欲しいんだ」
僕は、まだ何か不安そうな昴の気持ちを切り替えるように、この話は終わり! と区切ることにした。そして昴から体を離し、僕は呼吸を整えた。
リベラリアの世界が少しずつおかしくなり、体験版にいないはずの大蛇に遭遇した日。僕からまばゆい光が解き放たれたことまでは覚えている。
そのあと、記憶の海に放り出され、気がつくと病室にいたんだ。
「わかった。……あの日突然ホワイトバロウに現れた洞窟は、本来はないはずなんだ」
「じゃあ、なんで……?」
「それが、わからないんだ。途中まではストーリーに組み込まれていたけど、結局は削除されたデータなんだ。頻繁に起きてしまっている、バグのひとつだと思う」
「バグ……?」
「真白が遭遇したログアウトボタンの消失や、サポートキャラの頻繁なメンテナンス。それにあの日は、街並みや洞窟の乱れ、ドット欠けなどの異常があちこちで確認されていた。その都度データ修復してきたけど、一度サービス停止して、修正することになった」
やっぱり、バグだったんだ。
でも、削除されたデータが勝手に復元されるなんて、本当にただのバグなんだろうか。
まるで、誰かがあの場所を残そうとしているみたいだ……。
「しばらく、リベラリアにログインできないんだね」
「ああ。けど、真白の手術が終わって元気になった頃には、またログインできるようになるさ」
「そうだね。楽しみだな」
リベラリアの世界に行くことは、僕の生活の一部になっていたし、心の支えになっていた。
初めは、自由に走ったり、思い切り戦ったりできることが嬉しくて、VRゲームはいいなって思っていた。
けど今はそれだけじゃない。リベラリアで出会った人たち……たとえNPCだとしても、僕にとってかけがえのない存在になっているんだ。
「あ、そうだ! 洞窟で、僕から光が出たのは覚えてるんだけど、あのあとどうなっちゃったの?」
「ああ、あのあと大蛇は光に包まれて消滅した。あの戦いで、シロを見て驚いていたようだけど、予期せぬ形で出会った敵だから、なぜあんなセリフを吐いたのかも謎なんだ」
「ラパンとソーマが倒したんじゃないの?」
「ああ、シロから放たれた光が、あいつの動きを止めて飲み込んでいった。おそらく、シロからの何かしらの力が働いたんだと思う」
「あのとき僕は、大蛇を倒してみんなで洞窟を出るんだって、強く祈ったんだ。魔法だったのか祈りが天に届いたのかはわからない。でも、みんな無事で――」
と言いかけて、僕はやっと思い出した。
「ソーマさんは!? 無事なの?」
「大丈夫だ。あいつは今、会社に戻ってバグの対応に追われている」
「ああ、よかった……」
あのとき洞窟内にいた僕たち全員が無事だとわかって、ほっと胸を撫で下ろした。
けどまだ気掛かりはある。ホワイトバロウに残してきた子うさぎたち、街から忽然と消えた人々。
「子うさぎたちも無事だ。データ異常は見当たらないって、さっき蒼馬から連絡がきたよ」
「無事なんだ……よかった」
昴は、僕が街の人々や子うさぎたちを心配していることをわかっていて、事前に蒼馬さんに頼んでくれていたんだ。
体験版は1人プレイ用だと言っていたから、僕がログアウトしている間は時の流れが止まる。それにNPCだから何かあっても修正ができるのはわかっている。
それでも、バグが発生しているのなら、あの子達にも何か影響があるかもしれないと、心配になってしまったんだ。
「大蛇が消滅したあと、シロは意識を失ってしまっていた。その時ちょうど運営側が脳波の異常をキャッチして、強制ログアウトさせたんだ。俺たちもログアウトし、念のために真白をかかりつけの子ども病院に搬送したんだ」
「僕、全然覚えてなかったから。……そっか、そんなふうになっていたんだね」
「病院で診ていただいたけど、特に異常はなしと言われた。けど、すぐには目を覚まさなくて、俺は不安になってしまったんだ」
僕が高熱を出し、何日も目を覚まさなかった時を思い出したんだろう。
「心配かけてごめんね」
「……本当に、無事でよかった」
昴は、いつものように、僕の頭をポンポンと撫でてくれた。
昴に聞いて、あの日のことがわかった。次は、僕の体験したことを、昴に話す番だ。
昴の胸に飛び込んだ僕は、ぬくもりを感じながら、僕の素直な気持ちを伝えていく。
「だって、僕が昴のことを忘れてしまったのに、それでもずっと僕を支えてくれた。その上、僕のことを思って、優しいお兄さんのままでいようとしてくれた」
「それは……本当のことを伝えても、真白は混乱するだけだろ? 負担をかけたくなかったんだ」
「ほら、昴はいつでも僕のことを一番に考えてくれる。……そんな人が、ゲームの中で正体を明かさず、僕と友達になろうとしてくれた。たとえ下心があったとしても、昴は自分本位にはならずに、ゲームの中でも僕を守ってくれたでしょ?」
昴は、せめてゲームの中では、僕と対等でいたいと思って、ラパンとして偶然を装って僕を助けてくれた。
正体を明かせず悩んだと思う。だけどラパンとして、いつでも僕のことを考えて、そばで寄り添ってくれた。
「だからね、もう気にしないで欲しいんだ。昴もラパンも、僕にとって大切な人であることには変わりがないから」
「真白……」
「よし、この話は終わり! 次は……あの日のことを聞かせて欲しいんだ」
僕は、まだ何か不安そうな昴の気持ちを切り替えるように、この話は終わり! と区切ることにした。そして昴から体を離し、僕は呼吸を整えた。
リベラリアの世界が少しずつおかしくなり、体験版にいないはずの大蛇に遭遇した日。僕からまばゆい光が解き放たれたことまでは覚えている。
そのあと、記憶の海に放り出され、気がつくと病室にいたんだ。
「わかった。……あの日突然ホワイトバロウに現れた洞窟は、本来はないはずなんだ」
「じゃあ、なんで……?」
「それが、わからないんだ。途中まではストーリーに組み込まれていたけど、結局は削除されたデータなんだ。頻繁に起きてしまっている、バグのひとつだと思う」
「バグ……?」
「真白が遭遇したログアウトボタンの消失や、サポートキャラの頻繁なメンテナンス。それにあの日は、街並みや洞窟の乱れ、ドット欠けなどの異常があちこちで確認されていた。その都度データ修復してきたけど、一度サービス停止して、修正することになった」
やっぱり、バグだったんだ。
でも、削除されたデータが勝手に復元されるなんて、本当にただのバグなんだろうか。
まるで、誰かがあの場所を残そうとしているみたいだ……。
「しばらく、リベラリアにログインできないんだね」
「ああ。けど、真白の手術が終わって元気になった頃には、またログインできるようになるさ」
「そうだね。楽しみだな」
リベラリアの世界に行くことは、僕の生活の一部になっていたし、心の支えになっていた。
初めは、自由に走ったり、思い切り戦ったりできることが嬉しくて、VRゲームはいいなって思っていた。
けど今はそれだけじゃない。リベラリアで出会った人たち……たとえNPCだとしても、僕にとってかけがえのない存在になっているんだ。
「あ、そうだ! 洞窟で、僕から光が出たのは覚えてるんだけど、あのあとどうなっちゃったの?」
「ああ、あのあと大蛇は光に包まれて消滅した。あの戦いで、シロを見て驚いていたようだけど、予期せぬ形で出会った敵だから、なぜあんなセリフを吐いたのかも謎なんだ」
「ラパンとソーマが倒したんじゃないの?」
「ああ、シロから放たれた光が、あいつの動きを止めて飲み込んでいった。おそらく、シロからの何かしらの力が働いたんだと思う」
「あのとき僕は、大蛇を倒してみんなで洞窟を出るんだって、強く祈ったんだ。魔法だったのか祈りが天に届いたのかはわからない。でも、みんな無事で――」
と言いかけて、僕はやっと思い出した。
「ソーマさんは!? 無事なの?」
「大丈夫だ。あいつは今、会社に戻ってバグの対応に追われている」
「ああ、よかった……」
あのとき洞窟内にいた僕たち全員が無事だとわかって、ほっと胸を撫で下ろした。
けどまだ気掛かりはある。ホワイトバロウに残してきた子うさぎたち、街から忽然と消えた人々。
「子うさぎたちも無事だ。データ異常は見当たらないって、さっき蒼馬から連絡がきたよ」
「無事なんだ……よかった」
昴は、僕が街の人々や子うさぎたちを心配していることをわかっていて、事前に蒼馬さんに頼んでくれていたんだ。
体験版は1人プレイ用だと言っていたから、僕がログアウトしている間は時の流れが止まる。それにNPCだから何かあっても修正ができるのはわかっている。
それでも、バグが発生しているのなら、あの子達にも何か影響があるかもしれないと、心配になってしまったんだ。
「大蛇が消滅したあと、シロは意識を失ってしまっていた。その時ちょうど運営側が脳波の異常をキャッチして、強制ログアウトさせたんだ。俺たちもログアウトし、念のために真白をかかりつけの子ども病院に搬送したんだ」
「僕、全然覚えてなかったから。……そっか、そんなふうになっていたんだね」
「病院で診ていただいたけど、特に異常はなしと言われた。けど、すぐには目を覚まさなくて、俺は不安になってしまったんだ」
僕が高熱を出し、何日も目を覚まさなかった時を思い出したんだろう。
「心配かけてごめんね」
「……本当に、無事でよかった」
昴は、いつものように、僕の頭をポンポンと撫でてくれた。
昴に聞いて、あの日のことがわかった。次は、僕の体験したことを、昴に話す番だ。
70
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。
勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。
姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)
turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。
徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。
彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。
一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。
ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。
その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。
そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。
時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは?
ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ?
読んでくださった方ありがとうございます😊
♥もすごく嬉しいです。
不定期ですが番外編更新していきます!
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる