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54 誓い
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「幼稚園の時に、動物園に行ったときのこと、覚えてる?」
「ああ、これ、お揃いで買ったときだろ?」
僕が問いかけると、昴はうさぎのキーホルダーをゆらゆらと揺らして言った。
「そう。あの時の僕はまだ、元気に走り回っていたよね。制限もなく、どこに行くにも何をするにも、僕は昴と一緒が良いって言ってたんだ」
「そうだな。5歳の差はあったけど、俺たちはいつも一緒だった」
「そのあとさ、小学校の高学年になって、僕は体調を崩しやすくなったでしょ? お医者さんからも激しい運動とか人混みは避けてとか言われて」
「でも、少しだけ気をつければ、日常生活で困ることはなかったし、俺は真白と一緒ならなんでもよかった。隣に真白がいるだけで、俺は満足だった。……それは、俺の自己満足だったのかもしれないけど」
「そんなことない。僕も嬉しかったんだよ。今思うと、もうあの頃から昴への想いは、特別なものになっていたのかも……」
僕たちは、手を取り合って、微笑み合った。
けど、昴はそのあと急に表情を曇らせた。
僕が高熱を出した時のことを、思い出したんだと思う。
「真白がなかなか目を覚まさなかった時、それまでの幸せが崩れていく気がしたんだ。悪い方にばかり考えてしまって、真白を失ってしまうかもしれないという恐怖に、押し潰されそうだった。……そして、やっと目を覚ました真白は、俺の記憶だけを失っていた」
昴の言葉に、僕は何も言えなくなってしまった。
眠り続ける僕を前にして、昴はどれだけ心配したんだろう。
昴の記憶のみを失ってしまった僕を前にして、どれだけ悩み悲しんだんだろう。
「真白を失うかもと思った時、初めて気付いたんだ。……真白への想いは、恋だと。けど相手は小学生、この気持ちは隠し通さなければと思った。隠したまま、ずっとそばで支えていこうって誓ったんだ」
昴の気持ちを聞いて、僕は胸が締め付けられる想いだった。
こんなに、僕のことを想ってくれるなんて……。
「僕ね、不思議な体験をしたんだ。動物園の時、花火大会の時、まるでその場にいるような感じで、思い出を辿っていったんだ。……そして、リベラリアで大蛇と戦ったあと、僕は病院で眠っていたでしょ? 上から僕と昴を見ていたんだ」
「上から、見ていた?」
「まるで、自分の身体を離れて、少し上の世界から見下ろしているような感覚だった。そのあと、何もない真っ白な部屋で、忘れていた記憶が一気に流れ込んできて……。僕は、全てを思い出したんだ」
あの時の感覚は、うまく説明できない不思議な体験だった。
でもなぜ僕が、昴の記憶のみを失ってしまったのか、わからない。
……もしかして、無意識に昴を僕のそばに置いておきたくて? そんな可能性を考えてしまい、慌てて否定した。
そんな、ゲーム世界のような、都合の良い話があるわけはない。
「俺が、真白に記憶を取り戻してほしくて、ずっと真白の頭の中に、話しかけ続けていたと言ったら、どうする?」
「え?」
驚いた僕に、昴はニヤリと笑った。
いやここは、現実世界だ。ゲームの中じゃない。
一瞬でも、信じそうになってしまった僕は、慌てて大きく首を振った。
「冗談だよ。……でも、ずっとそばにいると決めたけど、時々虚しくなる時もあったんだ。近所の優しいお兄ちゃんじゃなくなってもいいから、真白に全て本当のことを話してしまおうと思ったこともある」
「昴の話だったら、僕は信じていたと思うよ」
「真白だったら、俺が真実を話しても、告白しても、受け入れてくれただろうな。でも、それじゃあ意味がないんだ。全てを思い出した時に、俺の思いを伝えたかった」
「うん、そうだね……」
「それが真白の気持ちだとしても、きっと、俺と真白の間には、見えない線が引かれていたと思うから……」
記憶を取り戻す前の僕なら、そばで守ってくれる優しいお兄さんへ、申し訳ないという気持ちも少なからずあったと思う。
でも記憶を取り戻した今なら、対等な立場で、本当の気持ちを伝え合うことができるんだ。
「篠宮真白さん」
「はい」
「俺は、あなたのことが好きです。……きっと、真白と初めて会った日から、一生守ると無意識に決めていたんだと思います。だから、今までもこれからも、真白を守り続け、横に並んで歩んでいくことを許してもらえますか?」
昴はそう言うと、さっと手を差し出した。僕は、ためらうことなくその手を取り、両手で包み込んだ。
「霜月昴さん」
「はい」
「僕も、あなたのことが大好きです。これからずっとそばにいたいです。笑顔の絶えない家庭を作ることを誓います!」
まるで結婚式の誓いのような返事に、昴は嬉しそうに笑った。そして、僕の手の甲に軽くキスを落とした。
「では、改めて。……俺の恋人になっていただけますか?」
「はい、よろしくお願いします!」
僕の記憶が戻る前に、僕たちは想いを伝え合っている。けどあの時は、本当の僕たちじゃなかったんだ。
だから、改めて僕たちは想いを確かめ合った。
僕たちの想いに、相違はない。
これからもずっと、一緒に過ごしていくんだ。
「蒼馬に、立ち合い人になってもらおうか。……リベラリアの中なら、結婚もできるしな」
「えっ、結婚!?」
「嫌か?」
「ううん、嫌なんかじゃない! リベラリアの世界なら、それも可能なんだって思ったら、びっくりしちゃって」
現実世界ではまだまだ不可能なことも、リベラリアの中でなら叶えられる。
ただのゲームだと初めは思っていたのに、こんなにもたくさんの夢を叶えてくれるなんて。
まだまだやりたいこと、叶えたいことがたくさんあって、僕の心は、ワクワクとドキドキでいっぱいになった。
「ああ、これ、お揃いで買ったときだろ?」
僕が問いかけると、昴はうさぎのキーホルダーをゆらゆらと揺らして言った。
「そう。あの時の僕はまだ、元気に走り回っていたよね。制限もなく、どこに行くにも何をするにも、僕は昴と一緒が良いって言ってたんだ」
「そうだな。5歳の差はあったけど、俺たちはいつも一緒だった」
「そのあとさ、小学校の高学年になって、僕は体調を崩しやすくなったでしょ? お医者さんからも激しい運動とか人混みは避けてとか言われて」
「でも、少しだけ気をつければ、日常生活で困ることはなかったし、俺は真白と一緒ならなんでもよかった。隣に真白がいるだけで、俺は満足だった。……それは、俺の自己満足だったのかもしれないけど」
「そんなことない。僕も嬉しかったんだよ。今思うと、もうあの頃から昴への想いは、特別なものになっていたのかも……」
僕たちは、手を取り合って、微笑み合った。
けど、昴はそのあと急に表情を曇らせた。
僕が高熱を出した時のことを、思い出したんだと思う。
「真白がなかなか目を覚まさなかった時、それまでの幸せが崩れていく気がしたんだ。悪い方にばかり考えてしまって、真白を失ってしまうかもしれないという恐怖に、押し潰されそうだった。……そして、やっと目を覚ました真白は、俺の記憶だけを失っていた」
昴の言葉に、僕は何も言えなくなってしまった。
眠り続ける僕を前にして、昴はどれだけ心配したんだろう。
昴の記憶のみを失ってしまった僕を前にして、どれだけ悩み悲しんだんだろう。
「真白を失うかもと思った時、初めて気付いたんだ。……真白への想いは、恋だと。けど相手は小学生、この気持ちは隠し通さなければと思った。隠したまま、ずっとそばで支えていこうって誓ったんだ」
昴の気持ちを聞いて、僕は胸が締め付けられる想いだった。
こんなに、僕のことを想ってくれるなんて……。
「僕ね、不思議な体験をしたんだ。動物園の時、花火大会の時、まるでその場にいるような感じで、思い出を辿っていったんだ。……そして、リベラリアで大蛇と戦ったあと、僕は病院で眠っていたでしょ? 上から僕と昴を見ていたんだ」
「上から、見ていた?」
「まるで、自分の身体を離れて、少し上の世界から見下ろしているような感覚だった。そのあと、何もない真っ白な部屋で、忘れていた記憶が一気に流れ込んできて……。僕は、全てを思い出したんだ」
あの時の感覚は、うまく説明できない不思議な体験だった。
でもなぜ僕が、昴の記憶のみを失ってしまったのか、わからない。
……もしかして、無意識に昴を僕のそばに置いておきたくて? そんな可能性を考えてしまい、慌てて否定した。
そんな、ゲーム世界のような、都合の良い話があるわけはない。
「俺が、真白に記憶を取り戻してほしくて、ずっと真白の頭の中に、話しかけ続けていたと言ったら、どうする?」
「え?」
驚いた僕に、昴はニヤリと笑った。
いやここは、現実世界だ。ゲームの中じゃない。
一瞬でも、信じそうになってしまった僕は、慌てて大きく首を振った。
「冗談だよ。……でも、ずっとそばにいると決めたけど、時々虚しくなる時もあったんだ。近所の優しいお兄ちゃんじゃなくなってもいいから、真白に全て本当のことを話してしまおうと思ったこともある」
「昴の話だったら、僕は信じていたと思うよ」
「真白だったら、俺が真実を話しても、告白しても、受け入れてくれただろうな。でも、それじゃあ意味がないんだ。全てを思い出した時に、俺の思いを伝えたかった」
「うん、そうだね……」
「それが真白の気持ちだとしても、きっと、俺と真白の間には、見えない線が引かれていたと思うから……」
記憶を取り戻す前の僕なら、そばで守ってくれる優しいお兄さんへ、申し訳ないという気持ちも少なからずあったと思う。
でも記憶を取り戻した今なら、対等な立場で、本当の気持ちを伝え合うことができるんだ。
「篠宮真白さん」
「はい」
「俺は、あなたのことが好きです。……きっと、真白と初めて会った日から、一生守ると無意識に決めていたんだと思います。だから、今までもこれからも、真白を守り続け、横に並んで歩んでいくことを許してもらえますか?」
昴はそう言うと、さっと手を差し出した。僕は、ためらうことなくその手を取り、両手で包み込んだ。
「霜月昴さん」
「はい」
「僕も、あなたのことが大好きです。これからずっとそばにいたいです。笑顔の絶えない家庭を作ることを誓います!」
まるで結婚式の誓いのような返事に、昴は嬉しそうに笑った。そして、僕の手の甲に軽くキスを落とした。
「では、改めて。……俺の恋人になっていただけますか?」
「はい、よろしくお願いします!」
僕の記憶が戻る前に、僕たちは想いを伝え合っている。けどあの時は、本当の僕たちじゃなかったんだ。
だから、改めて僕たちは想いを確かめ合った。
僕たちの想いに、相違はない。
これからもずっと、一緒に過ごしていくんだ。
「蒼馬に、立ち合い人になってもらおうか。……リベラリアの中なら、結婚もできるしな」
「えっ、結婚!?」
「嫌か?」
「ううん、嫌なんかじゃない! リベラリアの世界なら、それも可能なんだって思ったら、びっくりしちゃって」
現実世界ではまだまだ不可能なことも、リベラリアの中でなら叶えられる。
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