58 / 59
57 VRゲームの世界でキミを待つ
しおりを挟む
ユキが僕の肩から降りて、先陣を切ってグリーンヒルに向かうと、入り口では懐かしい顔が並んでいた。
「シロー!」
「シロさん」
「シロチ!」
みんな口々に僕の名前を呼ぶ。
僕は嬉しくなって、手を振りながら駆け出した。
「みんな、ただいまー!」
「おかえりー!」
ソーマさん、メプさん、ユーアさん、モモチ、うさぎさんと子うさぎたち、ルナさん、そして街の人たち。
たくさんの笑顔がそこにあった。
本来僕がログアウトしている間、彼らの時間は止まっているはずなのに、メンテナンス後のデータには「シロは旅に出ていて、今日帰ってきた」という設定が加えられていたと、ラパンが教えてくれた。
どうして? と聞いたら、「久しぶりに帰ってくる感じが、いいだろ」だって。
たぶん、制作者権限を使ったんだろう。ほんと、ずるい人だ。
「シロさん、旅はどうでしたか?」
「シロ、お土産はー?」
行方不明になっていたうさぎさんも、変わらず元気そうに跳ね回っている。
あのバグで消えた街の人々も、何事もなかったかのように笑っていた。
ホワイトバロウのことも、大蛇のことも、洞窟のことも――全部修正されて、なかったことになっているのだろう。
でもそれでいい。
リベラリアの世界は、平和で、穏やかで、のんびりと時間が流れている。
ここが、僕たちの“もう一つの居場所”なんだ。
「おかえり。お疲れさん」
「ソーマさん。この前はありがとうございました」
大蛇と戦ったあの日以来、僕はソーマさんに会っていなかった。電話でお礼は言ったけど、直接会うのは久しぶりだ。
「この前? なんのことだ? ああ、ラパンがやきもちやいたあの日のことか?」
「ソーマ、おまえ余分なこと言うな!」
ソーマさんは言い返してくるラパンを見て、楽しそうに笑った。
バグは修正され、この世界ではあのことは無かったことになっている。ソーマさんはそう言いたいのかもしれない。
「お出迎えも済んだし、私は初心者の部屋に戻るわね。お客さん来ちゃうわ」
「我も、戻らねばならぬ。予約客が来るでな」
「お店、開けないとねぇ~。モモチ、戻るわよ~」
「えー、せっかくシロチに久しぶりに会ったのにー? まだモモチをギュッてしてもらってないのよー?」
「あ! 私たちもホワイトバロウに戻らないといけないんです! シロさん、また遊びに来てくださいね!」
それぞれ、慌ただしく声をかけると、散り散りになって戻っていった。
ユキなんて、気づいたらもうマジックバッグの中で、すやすやと気持ちよさそうに寝てるよ。
NPCだから、自分の持ち場を離れられないんだろうな。なのに、僕を出迎えてくれたなんて、とても温かい気持ちになった。
「じゃあ、俺も戻るか。ラパン、おまえも後でちゃんと来いよ」
「わかってるって。また後でな」
ひらひらと手を振ってから、ソーマさんの姿がシュッと消えた。
「お仕事でしょ。いいの? 行かないで」
「大丈夫だ。再開後のリベラリアの様子を見て回るのも、仕事だからな」
そう言ったラパンは、意味深にニヤリと笑った。
「シロに見せたいものがあるんだけど、一緒に来てくれるか?」
「うん、見せたいものって何?」
「見てからのお楽しみ」
「んー、なんだろう」
ラパンに連れられやってきたのは、グリーンヒルの今まで無かったエリアだった。
「あれ? こんなところあったっけ?」
「今回のアップデートで、敷地が広くなったんだ。その一部が、住居エリアになっていてね。……シロ、ちょっと目を瞑っていて。転ばないように手を引いて歩くから」
ラパンはそう言うと、僕の手を取って慎重に歩き出した。僕は慌てて目を瞑る。
そして少し歩いた先で、立ち止まった。
「目を開けていいよ」
ラパンに言われるままに目を開けると、目の前には赤い屋根の可愛い建物が建っていた。
「うわー、可愛い!」
「シロ、こういう建物好きだろ」
「うん、好き!」
ラパンは満足そうに微笑むと、パネルを開いた。すると、僕のアイテムボックスに何かが送られてきた表示が出た。
なんだろう? そう思って、マジックバッグを探ると、一枚のカードキーが出てきた。
「何これ?」
「この家の鍵だよ」
「え?」
「ここは、……俺とシロの、リベラリアの拠点となる場所だ」
「拠点?」
ラパンの言うことがまだ理解できなくて、首を傾げたら、ラパンはふっと笑った。
「シロと、俺の新居だよ」
「……!」
意味を理解した僕は、顔に火がついたみたいに、一気に熱くなった
この前、リベラリアでは結婚も叶うって言っていた。そして今、新居を設けたって――。
恥ずかしくて顔を覆う。けど、嬉しくてたまらない。
僕は、病気で自由を制限され、もう思うように走れないと思っていた。でも、VRゲームの世界で、もう一度自由に羽ばたくことができた。
この世界で、また会いたいと……待ちたいと思える存在に出会えた。
僕が生まれた頃から、キミはずっとそばにいてくれた。
僕がキミを忘れてしまっても、キミはずっと僕を待っていてくれた。
僕とキミは、新しい世界の中でも、お互いを待ち続けることができた。
現実世界だけじゃダメだった。VRゲームの中だけでもダメだった。
2つの世界で出会えたからこそ、今の僕たちがあるんだ。
「ねぇラパン。僕ね、まだまだやりたいことがあるんだ。ここ、リベラリアでも、現実世界でも」
「俺も、シロ……真白と、どこでもいつでも、2人で色々なことを経験していきたい」
「うん! まだまだ初心者の僕だけど、冒険に出てみたいんだ」
「いいね。まずは、リベラリアの探索だな」
現実世界で遠出は大変だけど、VRゲームだったら、その夢は叶えられる。
例え遠くに旅に出たっていい、僕たちには帰る場所があるのだから。
「じゃあ、まずはホワイトバロウだ!」
「近いなー」
気合を入れて言った場所がめちゃくちゃ近場で、ラパンは素早く僕にツッコミを入れた。
僕にとって、初めての冒険先で、思い出の場所なんだ。再出発の場所にはぴったりじゃないか。
「しゅっぱーつ!」
僕は声高らかに宣言して、草原に元気よく足を踏み出した。
――またここから始まるんだ。新しい冒険も、僕たちの、これからの物語も。
どんな未来が待っていても、僕はこの世界で、そして現実でも、キミと共に歩いていく。
(終)
「シロー!」
「シロさん」
「シロチ!」
みんな口々に僕の名前を呼ぶ。
僕は嬉しくなって、手を振りながら駆け出した。
「みんな、ただいまー!」
「おかえりー!」
ソーマさん、メプさん、ユーアさん、モモチ、うさぎさんと子うさぎたち、ルナさん、そして街の人たち。
たくさんの笑顔がそこにあった。
本来僕がログアウトしている間、彼らの時間は止まっているはずなのに、メンテナンス後のデータには「シロは旅に出ていて、今日帰ってきた」という設定が加えられていたと、ラパンが教えてくれた。
どうして? と聞いたら、「久しぶりに帰ってくる感じが、いいだろ」だって。
たぶん、制作者権限を使ったんだろう。ほんと、ずるい人だ。
「シロさん、旅はどうでしたか?」
「シロ、お土産はー?」
行方不明になっていたうさぎさんも、変わらず元気そうに跳ね回っている。
あのバグで消えた街の人々も、何事もなかったかのように笑っていた。
ホワイトバロウのことも、大蛇のことも、洞窟のことも――全部修正されて、なかったことになっているのだろう。
でもそれでいい。
リベラリアの世界は、平和で、穏やかで、のんびりと時間が流れている。
ここが、僕たちの“もう一つの居場所”なんだ。
「おかえり。お疲れさん」
「ソーマさん。この前はありがとうございました」
大蛇と戦ったあの日以来、僕はソーマさんに会っていなかった。電話でお礼は言ったけど、直接会うのは久しぶりだ。
「この前? なんのことだ? ああ、ラパンがやきもちやいたあの日のことか?」
「ソーマ、おまえ余分なこと言うな!」
ソーマさんは言い返してくるラパンを見て、楽しそうに笑った。
バグは修正され、この世界ではあのことは無かったことになっている。ソーマさんはそう言いたいのかもしれない。
「お出迎えも済んだし、私は初心者の部屋に戻るわね。お客さん来ちゃうわ」
「我も、戻らねばならぬ。予約客が来るでな」
「お店、開けないとねぇ~。モモチ、戻るわよ~」
「えー、せっかくシロチに久しぶりに会ったのにー? まだモモチをギュッてしてもらってないのよー?」
「あ! 私たちもホワイトバロウに戻らないといけないんです! シロさん、また遊びに来てくださいね!」
それぞれ、慌ただしく声をかけると、散り散りになって戻っていった。
ユキなんて、気づいたらもうマジックバッグの中で、すやすやと気持ちよさそうに寝てるよ。
NPCだから、自分の持ち場を離れられないんだろうな。なのに、僕を出迎えてくれたなんて、とても温かい気持ちになった。
「じゃあ、俺も戻るか。ラパン、おまえも後でちゃんと来いよ」
「わかってるって。また後でな」
ひらひらと手を振ってから、ソーマさんの姿がシュッと消えた。
「お仕事でしょ。いいの? 行かないで」
「大丈夫だ。再開後のリベラリアの様子を見て回るのも、仕事だからな」
そう言ったラパンは、意味深にニヤリと笑った。
「シロに見せたいものがあるんだけど、一緒に来てくれるか?」
「うん、見せたいものって何?」
「見てからのお楽しみ」
「んー、なんだろう」
ラパンに連れられやってきたのは、グリーンヒルの今まで無かったエリアだった。
「あれ? こんなところあったっけ?」
「今回のアップデートで、敷地が広くなったんだ。その一部が、住居エリアになっていてね。……シロ、ちょっと目を瞑っていて。転ばないように手を引いて歩くから」
ラパンはそう言うと、僕の手を取って慎重に歩き出した。僕は慌てて目を瞑る。
そして少し歩いた先で、立ち止まった。
「目を開けていいよ」
ラパンに言われるままに目を開けると、目の前には赤い屋根の可愛い建物が建っていた。
「うわー、可愛い!」
「シロ、こういう建物好きだろ」
「うん、好き!」
ラパンは満足そうに微笑むと、パネルを開いた。すると、僕のアイテムボックスに何かが送られてきた表示が出た。
なんだろう? そう思って、マジックバッグを探ると、一枚のカードキーが出てきた。
「何これ?」
「この家の鍵だよ」
「え?」
「ここは、……俺とシロの、リベラリアの拠点となる場所だ」
「拠点?」
ラパンの言うことがまだ理解できなくて、首を傾げたら、ラパンはふっと笑った。
「シロと、俺の新居だよ」
「……!」
意味を理解した僕は、顔に火がついたみたいに、一気に熱くなった
この前、リベラリアでは結婚も叶うって言っていた。そして今、新居を設けたって――。
恥ずかしくて顔を覆う。けど、嬉しくてたまらない。
僕は、病気で自由を制限され、もう思うように走れないと思っていた。でも、VRゲームの世界で、もう一度自由に羽ばたくことができた。
この世界で、また会いたいと……待ちたいと思える存在に出会えた。
僕が生まれた頃から、キミはずっとそばにいてくれた。
僕がキミを忘れてしまっても、キミはずっと僕を待っていてくれた。
僕とキミは、新しい世界の中でも、お互いを待ち続けることができた。
現実世界だけじゃダメだった。VRゲームの中だけでもダメだった。
2つの世界で出会えたからこそ、今の僕たちがあるんだ。
「ねぇラパン。僕ね、まだまだやりたいことがあるんだ。ここ、リベラリアでも、現実世界でも」
「俺も、シロ……真白と、どこでもいつでも、2人で色々なことを経験していきたい」
「うん! まだまだ初心者の僕だけど、冒険に出てみたいんだ」
「いいね。まずは、リベラリアの探索だな」
現実世界で遠出は大変だけど、VRゲームだったら、その夢は叶えられる。
例え遠くに旅に出たっていい、僕たちには帰る場所があるのだから。
「じゃあ、まずはホワイトバロウだ!」
「近いなー」
気合を入れて言った場所がめちゃくちゃ近場で、ラパンは素早く僕にツッコミを入れた。
僕にとって、初めての冒険先で、思い出の場所なんだ。再出発の場所にはぴったりじゃないか。
「しゅっぱーつ!」
僕は声高らかに宣言して、草原に元気よく足を踏み出した。
――またここから始まるんだ。新しい冒険も、僕たちの、これからの物語も。
どんな未来が待っていても、僕はこの世界で、そして現実でも、キミと共に歩いていく。
(終)
80
あなたにおすすめの小説
魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由
スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。
勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。
姉の男友達に恋をした僕(番外編更新)
turarin
BL
侯爵家嫡男のポールは姉のユリアが大好き。身体が弱くて小さかったポールは、文武両道で、美しくて優しい一つ年上の姉に、ずっと憧れている。
徐々に体も丈夫になり、少しずつ自分に自信を持てるようになった頃、姉が同級生を家に連れて来た。公爵家の次男マークである。
彼も姉同様、何でも出来て、その上性格までいい、美しい男だ。
一目彼を見た時からポールは彼に惹かれた。初恋だった。
ただマークの傍にいたくて、勉強も頑張り、生徒会に入った。一緒にいる時間が増える。マークもまんざらでもない様子で、ポールを構い倒す。ポールは嬉しくてしかたない。
その様子を苛立たし気に見ているのがポールと同級の親友アンドルー。学力でも剣でも実力が拮抗する2人は一緒に行動することが多い。
そんなある日、転入して来た男爵令嬢にアンドルーがしつこくつきまとわれる。その姿がポールの心に激しい怒りを巻き起こす。自分の心に沸き上がる激しい気持に驚くポール。
時が経ち、マークは遂にユリアにプロポーズをする。ユリアの答えは?
ポールが気になって仕方ないアンドルー。実は、ユリアにもポールにも両方に気持が向いているマーク。初恋のマークと、いつも傍にいてくれるアンドルー。ポールが本当に幸せになるにはどちらを選ぶ?
読んでくださった方ありがとうございます😊
♥もすごく嬉しいです。
不定期ですが番外編更新していきます!
学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
君さえ笑ってくれれば最高
大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。
(クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け)
異世界BLです。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる