【完結】君を知らないまま、恋をした

一ノ瀬麻紀

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57 VRゲームの世界でキミを待つ

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 ユキが僕の肩から降りて、先陣を切ってグリーンヒルに向かうと、入り口では懐かしい顔が並んでいた。

「シロー!」
「シロさん」
「シロチ!」

 みんな口々に僕の名前を呼ぶ。
 僕は嬉しくなって、手を振りながら駆け出した。

「みんな、ただいまー!」
「おかえりー!」

 ソーマさん、メプさん、ユーアさん、モモチ、うさぎさんと子うさぎたち、ルナさん、そして街の人たち。
 たくさんの笑顔がそこにあった。

 本来僕がログアウトしている間、彼らの時間は止まっているはずなのに、メンテナンス後のデータには「シロは旅に出ていて、今日帰ってきた」という設定が加えられていたと、ラパンが教えてくれた。
 どうして? と聞いたら、「久しぶりに帰ってくる感じが、いいだろ」だって。
 たぶん、制作者権限を使ったんだろう。ほんと、ずるい人だ。

「シロさん、旅はどうでしたか?」
「シロ、お土産はー?」

 行方不明になっていたうさぎさんも、変わらず元気そうに跳ね回っている。
 あのバグで消えた街の人々も、何事もなかったかのように笑っていた。
 ホワイトバロウのことも、大蛇のことも、洞窟のことも――全部修正されて、なかったことになっているのだろう。

 でもそれでいい。
 リベラリアの世界は、平和で、穏やかで、のんびりと時間が流れている。
 ここが、僕たちの“もう一つの居場所”なんだ。

「おかえり。お疲れさん」
「ソーマさん。この前はありがとうございました」

 大蛇と戦ったあの日以来、僕はソーマさんに会っていなかった。電話でお礼は言ったけど、直接会うのは久しぶりだ。

「この前? なんのことだ? ああ、ラパンがやきもちやいたあの日のことか?」
「ソーマ、おまえ余分なこと言うな!」

 ソーマさんは言い返してくるラパンを見て、楽しそうに笑った。
 バグは修正され、この世界ではあのことは無かったことになっている。ソーマさんはそう言いたいのかもしれない。

「お出迎えも済んだし、私は初心者の部屋に戻るわね。お客さん来ちゃうわ」
「我も、戻らねばならぬ。予約客が来るでな」
「お店、開けないとねぇ~。モモチ、戻るわよ~」
「えー、せっかくシロチに久しぶりに会ったのにー? まだモモチをギュッてしてもらってないのよー?」
「あ! 私たちもホワイトバロウに戻らないといけないんです! シロさん、また遊びに来てくださいね!」

 それぞれ、慌ただしく声をかけると、散り散りになって戻っていった。
 ユキなんて、気づいたらもうマジックバッグの中で、すやすやと気持ちよさそうに寝てるよ。

 NPCだから、自分の持ち場を離れられないんだろうな。なのに、僕を出迎えてくれたなんて、とても温かい気持ちになった。

「じゃあ、俺も戻るか。ラパン、おまえも後でちゃんと来いよ」
「わかってるって。また後でな」

 ひらひらと手を振ってから、ソーマさんの姿がシュッと消えた。

「お仕事でしょ。いいの? 行かないで」
「大丈夫だ。再開後のリベラリアの様子を見て回るのも、仕事だからな」

 そう言ったラパンは、意味深にニヤリと笑った。

「シロに見せたいものがあるんだけど、一緒に来てくれるか?」
「うん、見せたいものって何?」
「見てからのお楽しみ」
「んー、なんだろう」

 ラパンに連れられやってきたのは、グリーンヒルの今まで無かったエリアだった。

「あれ? こんなところあったっけ?」
「今回のアップデートで、敷地が広くなったんだ。その一部が、住居エリアになっていてね。……シロ、ちょっと目を瞑っていて。転ばないように手を引いて歩くから」

 ラパンはそう言うと、僕の手を取って慎重に歩き出した。僕は慌てて目を瞑る。
 そして少し歩いた先で、立ち止まった。

「目を開けていいよ」

 ラパンに言われるままに目を開けると、目の前には赤い屋根の可愛い建物が建っていた。

「うわー、可愛い!」
「シロ、こういう建物好きだろ」
「うん、好き!」

 ラパンは満足そうに微笑むと、パネルを開いた。すると、僕のアイテムボックスに何かが送られてきた表示が出た。
 なんだろう? そう思って、マジックバッグを探ると、一枚のカードキーが出てきた。

「何これ?」
「この家の鍵だよ」
「え?」
「ここは、……俺とシロの、リベラリアの拠点となる場所だ」
「拠点?」

 ラパンの言うことがまだ理解できなくて、首を傾げたら、ラパンはふっと笑った。

「シロと、俺の新居だよ」
「……!」

 意味を理解した僕は、顔に火がついたみたいに、一気に熱くなった
 この前、リベラリアでは結婚も叶うって言っていた。そして今、新居を設けたって――。
 恥ずかしくて顔を覆う。けど、嬉しくてたまらない。

 僕は、病気で自由を制限され、もう思うように走れないと思っていた。でも、VRゲームの世界で、もう一度自由に羽ばたくことができた。
 この世界で、また会いたいと……待ちたいと思える存在に出会えた。

 僕が生まれた頃から、キミはずっとそばにいてくれた。
 僕がキミを忘れてしまっても、キミはずっと僕を待っていてくれた。
 僕とキミは、新しい世界の中でも、お互いを待ち続けることができた。

 現実世界だけじゃダメだった。VRゲームの中だけでもダメだった。
 2つの世界で出会えたからこそ、今の僕たちがあるんだ。

「ねぇラパン。僕ね、まだまだやりたいことがあるんだ。ここ、リベラリアでも、現実世界でも」
「俺も、シロ……真白ましろと、どこでもいつでも、2人で色々なことを経験していきたい」
「うん! まだまだ初心者の僕だけど、冒険に出てみたいんだ」
「いいね。まずは、リベラリアの探索だな」

 現実世界で遠出は大変だけど、VRゲームだったら、その夢は叶えられる。
 例え遠くに旅に出たっていい、僕たちには帰る場所があるのだから。

「じゃあ、まずはホワイトバロウだ!」
「近いなー」

 気合を入れて言った場所がめちゃくちゃ近場で、ラパンは素早く僕にツッコミを入れた。
 僕にとって、初めての冒険先で、思い出の場所なんだ。再出発の場所にはぴったりじゃないか。

「しゅっぱーつ!」

 僕は声高らかに宣言して、草原に元気よく足を踏み出した。
 
 ――またここから始まるんだ。新しい冒険も、僕たちの、これからの物語も。
 どんな未来が待っていても、僕はこの世界で、そして現実でも、キミと共に歩いていく。

(終)
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