【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
25 / 86

24. オメガ

しおりを挟む
「イザベラ。ミッチェルの入学辞退の手続きをしてきなさい」

 バース告知のあと、愕然として固まってしまった僕たちを前に、お父様は感情を失ったような声でお母様に指示を出した。
 その言葉に、ずっと下を向いていたお母様が驚いて顔を上げた。
 
「そんな……」

 お母様の声は震えていた。僕もわずかな希望を見出そうとしたが、お父様の冷たい視線がそれを打ち砕いた。
 
 オメガへの偏見をなくし、平等を掲げた学院で学ばせると言っていたのは、やはり建前だったんだ。あくまでも、アルファなのに皆平等に接するなんて、さすがだと思われるための手段でしかない。
 それには、アルファであることが大前提なんだ。オメガとわかった僕は、必要がない。

「イザベラ、これは家の名誉のためだ。すぐに手続きを」

 お母様は涙をこらえ、静かにうなずいた。

 お母様の生まれ育った家がアルファ至上主義のせいで、大切なオメガの友人と引き離されてしまうという悲しい出来事があった。なので自分が家庭を持った時は、分け隔てなく接するようにしたいと願っていたのに、嫁ぎ先も同じような考えの人達ばかりだった。


「お母様……」

 やっとの思いで絞り出した僕の呼びかけに、お母様は返事をすることもなく、そっと視線を外した。
 お母様は僕を守りたいと思っていても、ハイネル家の当主であるお父様に逆らえるはずがない。俯いたまま、消え入るような小さな言葉を吐き出した。

「……誰かに、聞かれたら……どう……すれば……」
「その時は、体調が思わしくないから、別荘地で静養することになったとでも言っておけ。最近は体調を崩すことが多かったから、皆納得するだろう」

 僕はお父様のその言葉に驚き、目を見開いた。

「フィラット、自分の部屋に戻りなさい。入学手続きの話をしよう」

 初めから僕がいなかったように視線をはずしたまま、お父様はフィラットの肩に手を置き、優しい笑みとともに話しかけた。

「アルファの心得も教えてやろう」

 オメガだった僕とは違って、弟のフィルのバース検査の結果は『アルファ』だった。
 皆に望まれ、祝福され、期待される存在のアルファ。
 産むしか能がないと言われ、蔑まれる存在のオメガ。

 お父様もお母様も、今日の朝まであんなに愛おしい存在だと伝えてくれていたのに、オメガだとわかった途端、こんなにも態度が変わってしまった。
 手の届く位置にいるはずなのに、お父様もお母様も、一気に遠くに行ってしまったみたいだ。

 神様。この世界でも、僕はいらない子なんですか……?

 天を仰ぐと、我慢していた涙が溢れ出て、頬を伝って流れ落ちた。



「お父様! なんで!」

 僕を無いものとして扱っているお父様に、フィルが戸惑いと怒りを抑えきれず、声を震わせる。

「ハイネル家の跡取りとしても、教えなければいけないことは山ほどある。寮生活になるが、頻繁に帰ってきなさい」
「……そうね。お母様も……寂しいから、頻繁に帰ってきてね……」

 お母様は、まだ涙を必死にこらえるように、声を震わせた。

「なんで、ミッチのことを無視するの!?」
「無視? ……何のことだ?」
「さっきから、お父様もお母様も、何を言っているの?」
「フィラット、お前は選ばれしものなのだ。理由のわからないことを言うんじゃない」
「選ばれしものってなんだよ! ミッチがオメガだと……」

 フィルがオメガと口に出しただけで、お父様の表情が厳しくなった。フィルが言い終わらないうちに、強い口調で言葉を被せてきた。

「……うちにはオメガなど、いない」

 今までに見たことのないような冷たい視線で、お父様は一喝すると、隣りにいるお母様に耳打ちした。
 するとお母様は、再び目を見開きお父様の顔を見ると、悲しそうに眉を寄せながら小さくうなずいた。

 いくら訴えても、お父様にもお母様にも伝わらないとようやく気付いたフィルは、そこから先の言葉を失い、その場に立ち尽くした。

 そして、程なくして部屋にやってきた使用人たちによって、僕は部屋の外へ連れ出されてしまった。

「ミッチ! 待って! ミッチをどこに連れて行くの!?」

 部屋の向こうからは、フィルの悲痛な叫び声が聞こえてきた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【本編完結済】神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

きっと、君は知らない

mahiro
BL
前世、というのだろうか。 俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。 大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。 皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。 あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。 次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。 次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。 それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?

嘘つき王と影の騎士

篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」 国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。 酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。 そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。 代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。 死を待つためだけに辿り着いた冬の山。 絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。 守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。 無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。 なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。 これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

処理中です...