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47. お父様の怒り
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塔の部屋の中に入ると、お父様は窓の外を眺めるだけで、なにも言おうとしなかった。
僕も口が固まってしまったかのように、動かすことができず、しばらく静寂が流れた。
その静寂を最初に破ったのは、お父様だった。
「お前の嫁ぎ先が決まった。一週間後に迎えに来るそうだ。支度をしておけ」
僕は言葉を発せないまま、目を大きく見開いた。
その続きの言葉を待ったけど、お父様は言いたいことだけを伝え、また黙ってしまった。
「……一週間後……」
フィルの婚約が白紙になったとわかった時点で、僕はある程度の予想はしていた。
そもそも、初めは僕が他の家に嫁ぐはずだったんだ。それをフィルがお父様に直談判し、その後フィルの婚約が成立した。
相手は伯爵家のうちよりも格上の、公爵家。三男とは言えアルファだ。お父様はこの縁談がうまくいきそうだと上機嫌だったらしい。
それが、何故か婚約が白紙になってしまった。
お母様も、フィル本人も、原因は知らない。とにかく『婚約は白紙になった』としか伝えられなかったらしい。
そのことを伝えてきたのはお父様だと言っていたから、おそらくハイネル家の中で理由を知っているのは、お父様だけなのだろう。
リヒター公爵家の面々が交流のために滞在したあと、忘れ物を届けると言って、お父様は慌ただしく出かけていった。
そしてその次の日から、家を空けることが多くなった。
ハイネル家当主とは言え、二人の息子のことなのに、お母様に相談することなく、一人で決めてしまっていると言っていた。
今回のことも、お母様に知られないように、この塔の部屋に呼び出したのだろう。
「……このことを、お母様はご存知なのですか……?」
静寂を破った僕の問いかけに、お父様の息を呑む音が聞こえた気がした。
実際にはこちらを見ていないからわからないけど、その背中はピクリとも動かず、その場だけ時が止まったかのようだった。
お父様は数秒間時を止めたあと、静かに動き出した。そして無言のまま、扉を開けるとそのまま部屋を出ようとした。
「……お母様に相談してから、お返事をいたします」
僕は一人じゃない。大丈夫。……そう心の中で奮い立たせると、意を決してお父様の背中に伝えた。
僕の言葉を聞くと、お父様は部屋を出ようとしていた足をピタリと止めた。そして、思い切りこちらを振り返り、ズカズカと僕のすぐそばまで近づいてきた。
何をするのだろうと僕が考える間もなく、すごい勢いで手を振りかざすと、バチーンと派手な音を立てて、僕の頬を思い切り叩いた。
「オメガのくせに、アルファに楯突く気か!! 黙って大人しく言うことを聞いていれば良いんだ! 由緒あるハイネル家に、オメガが生まれるなんて汚らわしい! さっさと家から出ていけ! 一週間後と言わず、今すぐ出ていけ! 資産家の爺さんがお前をもらってくれるんだ、最後にハイネル家に貢献できて、ありがたく思うんだな!!」
普段の紳士的なお父様の影はもうどこにもなかった。
怒りにまかせて一気にまくしたてると、バン!! と派手な音をたて扉を開けた。部屋を出ると、そのままダンダンダンダンと大きな足音をたて、苛立った様子で階段を降りていった。
一人残された僕は、無意識に痛む頬に手をあてた。あまりにも予想外の出来事で、放心状態のまま動くことができなかった。
好かれているとは思っていなかった。けれど、実の息子なのだから、わずかでも情けが残っていると期待していた。他の家に嫁いでも、ハイネル家に関わる機会はあると思っていた。
けれど、僕の期待は藻屑のように消え去っていった。
あまりの言われように、僕は何が起きたのか全く状況が理解できないまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。
僕も口が固まってしまったかのように、動かすことができず、しばらく静寂が流れた。
その静寂を最初に破ったのは、お父様だった。
「お前の嫁ぎ先が決まった。一週間後に迎えに来るそうだ。支度をしておけ」
僕は言葉を発せないまま、目を大きく見開いた。
その続きの言葉を待ったけど、お父様は言いたいことだけを伝え、また黙ってしまった。
「……一週間後……」
フィルの婚約が白紙になったとわかった時点で、僕はある程度の予想はしていた。
そもそも、初めは僕が他の家に嫁ぐはずだったんだ。それをフィルがお父様に直談判し、その後フィルの婚約が成立した。
相手は伯爵家のうちよりも格上の、公爵家。三男とは言えアルファだ。お父様はこの縁談がうまくいきそうだと上機嫌だったらしい。
それが、何故か婚約が白紙になってしまった。
お母様も、フィル本人も、原因は知らない。とにかく『婚約は白紙になった』としか伝えられなかったらしい。
そのことを伝えてきたのはお父様だと言っていたから、おそらくハイネル家の中で理由を知っているのは、お父様だけなのだろう。
リヒター公爵家の面々が交流のために滞在したあと、忘れ物を届けると言って、お父様は慌ただしく出かけていった。
そしてその次の日から、家を空けることが多くなった。
ハイネル家当主とは言え、二人の息子のことなのに、お母様に相談することなく、一人で決めてしまっていると言っていた。
今回のことも、お母様に知られないように、この塔の部屋に呼び出したのだろう。
「……このことを、お母様はご存知なのですか……?」
静寂を破った僕の問いかけに、お父様の息を呑む音が聞こえた気がした。
実際にはこちらを見ていないからわからないけど、その背中はピクリとも動かず、その場だけ時が止まったかのようだった。
お父様は数秒間時を止めたあと、静かに動き出した。そして無言のまま、扉を開けるとそのまま部屋を出ようとした。
「……お母様に相談してから、お返事をいたします」
僕は一人じゃない。大丈夫。……そう心の中で奮い立たせると、意を決してお父様の背中に伝えた。
僕の言葉を聞くと、お父様は部屋を出ようとしていた足をピタリと止めた。そして、思い切りこちらを振り返り、ズカズカと僕のすぐそばまで近づいてきた。
何をするのだろうと僕が考える間もなく、すごい勢いで手を振りかざすと、バチーンと派手な音を立てて、僕の頬を思い切り叩いた。
「オメガのくせに、アルファに楯突く気か!! 黙って大人しく言うことを聞いていれば良いんだ! 由緒あるハイネル家に、オメガが生まれるなんて汚らわしい! さっさと家から出ていけ! 一週間後と言わず、今すぐ出ていけ! 資産家の爺さんがお前をもらってくれるんだ、最後にハイネル家に貢献できて、ありがたく思うんだな!!」
普段の紳士的なお父様の影はもうどこにもなかった。
怒りにまかせて一気にまくしたてると、バン!! と派手な音をたて扉を開けた。部屋を出ると、そのままダンダンダンダンと大きな足音をたて、苛立った様子で階段を降りていった。
一人残された僕は、無意識に痛む頬に手をあてた。あまりにも予想外の出来事で、放心状態のまま動くことができなかった。
好かれているとは思っていなかった。けれど、実の息子なのだから、わずかでも情けが残っていると期待していた。他の家に嫁いでも、ハイネル家に関わる機会はあると思っていた。
けれど、僕の期待は藻屑のように消え去っていった。
あまりの言われように、僕は何が起きたのか全く状況が理解できないまま、しばらくその場に立ち尽くしていた。
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