【本編完結】再び巡り合う時 ~転生オメガバース~

一ノ瀬麻紀

文字の大きさ
69 / 86

68. 弱音と覚悟

しおりを挟む
 僕とフィルは、広場の中央に設けられた舞台に立ち、領民たちに向かって挨拶をした。
 まずは、ハイネル家長男である僕が、先に口をひらいた。

「皆さん、今日は僕たちの誕生日を祝ってくださり、ありがとうございます」

 僕が話し始めると、先程まであちこちで聞こえていた賑やかな話し声はピタリと止み、広場は静まり返った。

「本日、僕たちは十八歳の誕生日を迎えることができました。こんなに盛大に皆さんに祝っていただけるとは思っておらず、大変嬉しく思っています。先日は、我が父ハイネル伯爵への嘆願書にご協力いただきましたこと、誠にありがとうございました。私たちハイネル伯爵家の問題に関して、多大なるご迷惑とご心配をおかけしましたことを、ここにお詫び申し上げます」

 そう言って、僕とフィルは深く頭を下げた。そして顔を上げたあと、今度はフィルが話し始めた。

「そして、ここで正式にお知らせがあります。嘆願書への協力の際の説明と、広場の掲示板にもお知らせした通り、私、フィラット・ハイネルは誕生日の宴をもちまして、ハイネル伯爵家の当主を引き継ぎましたことを、ここにご報告いたします。尊敬する父の教えを守りつつ、新たな試みにも挑戦したいと思っています。このハイネル領がますます繁栄するように、精一杯努力していきますので、これからも皆さんのご支援ご協力をよろしくお願いします」

 僕とフィルの言葉を、噛みしめるように聞き入っていた領民たちが、わぁっと一斉に歓声をあげた。
 あちこちから聞こえる『ハイネル領は安泰だ』という声に、僕たちは顔を見合わせ微笑んだ。







 盛大な誕生日を祝ってもらった僕たちは、皆に挨拶をすると部屋へ戻った。領民たちはもう少し宴を続けるようだった。

「はぁぁぁぁー。つっかれたー!」

 フィルは僕のベッドに大の字で仰向けになると、大きな声でため息をついた。

「お疲れ様。とても立派だったよ」
「そう? 僕、ミッチに褒めてほしくて頑張ったんだから!」
「ふふふ。頑張ったね。良かったよ」

 僕に褒められるためなんて、やっぱりまだ十八歳になったばかりだし、元来の甘えん坊気質もあり、僕にはこうやって心を許して甘えてくれるのが嬉しい。

 一家の主は引き続きお父様だし、家族皆の心の支柱だと思っている。若くして当主となったフィルはまだ未熟で、お父様から学ばなければならないことも多い。今まで交流のあった人たちも、まだまだお父様への信頼が厚いはずだ。

 僕には本音を話して甘えてくるフィルを見ていると、隣でしっかりと支えてあげたいと思った。

「明日からもやることがたくさんあるでしょ? 湯浴みをしてゆっくり休まないと」
「うん、そうだねー。……あ! 久しぶりに一緒に背中流し合おうよ!」
「良い案だね。待ってて、準備をするようにお願いしてくる」

 僕たちはその後、二人で湯浴みをした。何年ぶりだろうか。
 今まで僕が守ってきた背中は、いつしかとても大きくなり、たくましくなっていた。

「ミッチ……」
「なぁに?」

 さっきまではしゃいでいたフィルが、急に声のトーンを落として話しかけてきた。

「僕ね……不安なんだ」
「うん」
「色々あって、振り返る余裕もなくここまで走ってきた感じだけど、やっと今日一段落が付いて、ふと思ったんだよ」
「うん」
「本当なら、もっと僕たちが成長してからの交代だったかもしれないし、僕じゃなくてミッチだったかもしれない。本当に僕でいいのかな……」

 僕より大きくたくましくなったフィルが、フィルより小さな僕の背中にピタリとくっついた。

「大丈夫。フィルなら大丈夫。この一年間の頑張り、ちゃんとみんな見てるよ。アルファだからという過度な期待にも、しっかりと応えてきたじゃないか。……フィルは、僕の自慢の弟だ」
「本当? 僕は、ミッチにとって自慢できる弟?」
「もちろんだよ。双子の片割れの僕が言うんだ、間違いない」
「ふふふ。ミッチが言うなら、間違いないね」
「大丈夫。フィルがいるだけでまわりが明るくなる。みんな笑顔になれるんだ。……僕もそばで支えていくから、大丈夫。一緒に頑張っていこう」
「そうだね。僕たち二人揃えば百人力だ」

 フィルはよしっと気合を入れて「そろそろ出ようか」と言うと、先に湯浴みの部屋から出ていった。

「大丈夫。大丈夫」

 僕は祈るような気持ちで、フィルの背中に向かって、そっと魔法の言葉をかけた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

【本編完結済】神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

きっと、君は知らない

mahiro
BL
前世、というのだろうか。 俺は前、日本という国で暮らしていて、あの日は中学時代にお世話になった先輩の結婚式に参列していた。 大人になった先輩と綺麗な女性の幸せそうな姿に胸を痛めながら見つめていると二人の間に産まれたという女の子がひとりで車道に向かい歩いている姿が目に入った。 皆が主役の二人に夢中で子供の存在に気付いておらず、俺は慌ててその子供のもとへと向かった。 あと少しで追い付くというタイミングで大型の車がこちらに向かってくるのが見え、慌ててその子供の手を掴み、彼らのいる方へと突き飛ばした。 次の瞬間、俺は驚く先輩の目と合ったような気がするが、俺の意識はそこで途絶えてしまった。 次に目が覚めたのは見知らぬ世界で、聞いたことのない言葉が行き交っていた。 それから暫く様子を見ていたが、どうやら俺は異世界に転生したらしく………?

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

嘘つき王と影の騎士

篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」 国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。 酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。 そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。 代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。 死を待つためだけに辿り着いた冬の山。 絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。 守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。 無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。 なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。 これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

処理中です...