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70. 国王陛下の恩情
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「え……? で、でも」
何事もなかったように話題を変えたフィルに、カールさんは戸惑った声を上げた。
先日、国王陛下からの書簡が届いた。
ハイネル家がリヒター家の不審な行動の報告と資料提出をしてから、一年ほどたっていた。
その書簡には、リヒター公爵家への調査結果と処分について書かれていた。
僕たちが調べたこと以上に、他にも色々なことに手を出していたことがわかったらしい。全ては自分たちが贅沢に暮らしたいがためという、自己中心的な理由だ。
本来ならば家の取り壊しと全財産没収となるところを、当面の間暮らしていけるだけの財産を残しての没収。そして、辺境地への追放と、領主のいない土地が与えられ『その地を治め、民を守ることに専念せよ』という、国王陛下からの恩情らしい。
カールさんがこのタイミングで訪ねてきたということは、今回の騒動に関わっていたため、国王陛下から何か命令が下されたのだろう。
そして、ペーターが彼を連れてきたということは、おそらく、フレッドもお父様もお母様も承知しているということだ。そのうえで、僕たちに判断を委ねたのだと思う。
僕とフィルは、言葉にせずともお互いの意思疎通をし、ニッコリと微笑んだ。
そんな僕たちの様子に、カールさんは戸惑った様子で、絞り出すように言葉を吐き出した。
「……待ってください! 話はまだあるんです。……私は急に辞めさせられたことに腹を立ててしまって……」
カールさんは、一時的な感情に任せて逆恨みをしてしまったと自白することで、自らの行動を悔い改めようとしている。その気持ちと謝罪だけで、もう十分だと僕は思う。
それに、国王陛下からの報告書には、そのことは一切記載されていないのだから、僕たちがこれ以上追及する話ではない。
「カールさんはそう言ってますけど、僕たちは何も報告を受けていないからわからないのですよ。……ね、ミッチ?」
「そうだね。僕たちはカールさんの行動については全く知りません。先日国王陛下から届いた書簡には、カールさんの処分について書かれていませんでした。国王陛下のご判断が全てです」
リヒター公爵にたまたま『ハイネル家にはオメガの息子がいる』と話したことで、結果的に、フィルとコニーはいびつな婚約関係になってしまったかもしれない。
彼がお父様にたまたま『オメガを迎え入れたいと言っている資産家がいる』と話したことで、僕が政略結婚をすることになっていたかもしれない。
でももとを辿れば、家のためにと無理をして息子の結婚相手を探そうとしたお父様が原因であって、彼が悪いわけではない。
僕たちの認識も、国王陛下の判断も、同じなんだ。
フィルはカールさんの手を取って、にっこり微笑みながら言った。
「今、ハイネル家では使用人を募集中です。……カールさんさえ良ければ、また戻ってきてくれませんか? ……しばらくの間は、前と同じだけの十分なお給金は出せないかもしれないけれど、それでも良ければ……」
ハイネル家の都合で勝手にやめさせておいて、また働いてくださいというのは虫が良すぎる話かもしれない。
けれど……おそらくだけど、これも国王陛下の寛大なご配慮なんだと思う。
書簡にはカールさんの処分について触れられていなかったけど、重要な関わりがあったことは確か。それを考慮して、国王陛下は彼をハイネル家に行かせるように指示したのだろう。
反省の気持ちがあるなら、ハイネル家へ尽くしなさいと。
どんな事情があれ、長きに渡りハイネル家に尽くしてくれた彼が、再び戻ってきてくれるのなら、僕たちは大歓迎だ。
「……でも、良いのですか? 私なんかが再びここで働かせていただいて……」
遠慮がちに言うカールさんに、フィルはぐっとこぶし握りしめて、んっと気合を入れた。
「もちろん! 長い間ハイネル家の支えになってきてくれたのです。そんなカールさんが再びハイネル家で働いてくれるなんて、とても心強いです。ハイネル家当主になってまだ日が浅い未熟な僕を、これからも支えていってくれますか?」
フィルはさきほど作った拳を緩めると、再び目の前にいるカールさんの手をぎゅっと握りしめた。
何事もなかったように話題を変えたフィルに、カールさんは戸惑った声を上げた。
先日、国王陛下からの書簡が届いた。
ハイネル家がリヒター家の不審な行動の報告と資料提出をしてから、一年ほどたっていた。
その書簡には、リヒター公爵家への調査結果と処分について書かれていた。
僕たちが調べたこと以上に、他にも色々なことに手を出していたことがわかったらしい。全ては自分たちが贅沢に暮らしたいがためという、自己中心的な理由だ。
本来ならば家の取り壊しと全財産没収となるところを、当面の間暮らしていけるだけの財産を残しての没収。そして、辺境地への追放と、領主のいない土地が与えられ『その地を治め、民を守ることに専念せよ』という、国王陛下からの恩情らしい。
カールさんがこのタイミングで訪ねてきたということは、今回の騒動に関わっていたため、国王陛下から何か命令が下されたのだろう。
そして、ペーターが彼を連れてきたということは、おそらく、フレッドもお父様もお母様も承知しているということだ。そのうえで、僕たちに判断を委ねたのだと思う。
僕とフィルは、言葉にせずともお互いの意思疎通をし、ニッコリと微笑んだ。
そんな僕たちの様子に、カールさんは戸惑った様子で、絞り出すように言葉を吐き出した。
「……待ってください! 話はまだあるんです。……私は急に辞めさせられたことに腹を立ててしまって……」
カールさんは、一時的な感情に任せて逆恨みをしてしまったと自白することで、自らの行動を悔い改めようとしている。その気持ちと謝罪だけで、もう十分だと僕は思う。
それに、国王陛下からの報告書には、そのことは一切記載されていないのだから、僕たちがこれ以上追及する話ではない。
「カールさんはそう言ってますけど、僕たちは何も報告を受けていないからわからないのですよ。……ね、ミッチ?」
「そうだね。僕たちはカールさんの行動については全く知りません。先日国王陛下から届いた書簡には、カールさんの処分について書かれていませんでした。国王陛下のご判断が全てです」
リヒター公爵にたまたま『ハイネル家にはオメガの息子がいる』と話したことで、結果的に、フィルとコニーはいびつな婚約関係になってしまったかもしれない。
彼がお父様にたまたま『オメガを迎え入れたいと言っている資産家がいる』と話したことで、僕が政略結婚をすることになっていたかもしれない。
でももとを辿れば、家のためにと無理をして息子の結婚相手を探そうとしたお父様が原因であって、彼が悪いわけではない。
僕たちの認識も、国王陛下の判断も、同じなんだ。
フィルはカールさんの手を取って、にっこり微笑みながら言った。
「今、ハイネル家では使用人を募集中です。……カールさんさえ良ければ、また戻ってきてくれませんか? ……しばらくの間は、前と同じだけの十分なお給金は出せないかもしれないけれど、それでも良ければ……」
ハイネル家の都合で勝手にやめさせておいて、また働いてくださいというのは虫が良すぎる話かもしれない。
けれど……おそらくだけど、これも国王陛下の寛大なご配慮なんだと思う。
書簡にはカールさんの処分について触れられていなかったけど、重要な関わりがあったことは確か。それを考慮して、国王陛下は彼をハイネル家に行かせるように指示したのだろう。
反省の気持ちがあるなら、ハイネル家へ尽くしなさいと。
どんな事情があれ、長きに渡りハイネル家に尽くしてくれた彼が、再び戻ってきてくれるのなら、僕たちは大歓迎だ。
「……でも、良いのですか? 私なんかが再びここで働かせていただいて……」
遠慮がちに言うカールさんに、フィルはぐっとこぶし握りしめて、んっと気合を入れた。
「もちろん! 長い間ハイネル家の支えになってきてくれたのです。そんなカールさんが再びハイネル家で働いてくれるなんて、とても心強いです。ハイネル家当主になってまだ日が浅い未熟な僕を、これからも支えていってくれますか?」
フィルはさきほど作った拳を緩めると、再び目の前にいるカールさんの手をぎゅっと握りしめた。
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