麻紀の色々置き場

一ノ瀬麻紀

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ツイノベ

砂時計

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「眠れないのか……?」
隣で寝ているはずの恋人が、もぞもぞと動く。はじめはただの寝返りかと思っていたが、こちらへ姿勢を変えたとき、パッと目が合った。

「目を閉じたらさ、お前が消えてしまいそうで……」
そう言いながら俺を見る受けをぎゅっと抱きしめて眠りたいのに、抱きしめたら壊れそうな気がして、肩と肩が僅かに触れるくらいの距離をとってベッドへと横たわっている。

戸惑いから僅かな距離を取ってしまったのが伝わったのか、受けは「抱きしめて……」そう言って姿勢を変えて俺の腕の中へとすっぽりと収まった。
堪らずぎゅっと抱きしめると、受けは嗚咽を我慢するかのように腕の中で小さく震えた。

「眠りにつくまで、そばにいるから……」
少しでも不安がなくなればと、腕の中にいる愛しい人の髪を撫で、囁いた。

この空間だけは、誰の邪魔も入らない。たった二人きりの世界。
これが、気の遠くなるような永遠だったなら、どんなに幸せだったろうか。
もう嫌だと思うくらい、一緒にいられるのなら……。

「いっそのこと、このまま時が止まってしまえばいいのにな……」
俺は、受けを抱く腕に力を入れ、呟いた。
決して叶う事のない、遠い遠い夢。

「攻め……?」
今にも泣き出しそうな声を出していたのだろうか。受けは不安そうに揺れる瞳で俺を見上げた。

「受け……」
俺は受けの不安、そして俺自身の心の影を振り払うように、愛する人へ口付けを落とした。

こんなに愛しいのに、すべてを投げ出してもいいほど愛しているのに。
この想いがこんなに降り積もっても、一緒にいられるのは、冬が終わるまで……。


「そろそろ、寝ないとな」
受けは俺の頬を撫でながら名残惜しそうに言う。その頬に当てられている両手を包み込み、「目を閉じたら、お前が消えてしまいそうで……」
先程受けの言った言葉を繰り返す。包み込んだ手の感触も、肌を寄せ合うぬくもりも、こんなにハッキリと感じ取ることが出来るのに、それでも不安は付き纏う。

「俺は、ここにいる。どこへも行かない……」
受けはそう言って俺の大好きな微笑を見せた。

──どこへも行かない。

受けの言葉が、俺の頭の中で空しく繰り返される。叶うのなら、こんなステキな言葉はないだろう。叶うのなら……。

ずっと、ずっと、俺の傍にいて欲しいのに、俺たちの砂時計は、春にはすべて落ちきってしまう──。

「……め、……攻め!」
愛しい人の声が段々と近づき、体を揺さぶられる感覚と共に、次第に意識が浮上してくる。

「そろそろ起きろよ?」
その声にうっすら目をあけると、目の前には優しい笑顔で微笑む受けの顔があった。いつの間にか、眠ってしまったのか……。

「おはよう、攻め」
「あ……ああ、おはよう」
愛しい人の声で、愛しい人の笑顔でこうやって起きることが、当たり前の日常になればいいのに。ずっとずっと続けばいいのにと、何度となく願ってきたこと。

「攻め。朝食作ってあるからちゃんと食べろよ?」
受けは決まってこの時間には戻らないといけない。
「ああ……」
俺も受けも、声のトーンが下がる。

「次は、いつ会える……?」
受けの帰り際に、いつも投げかけるセリフ。約束をしなくても、会えるようになればいいのに。

いつかは、叶うと信じていた。
例え、今は会うことに制限がかけられていても、二人きりの世界が築けると信じていた……。

「ごめんな、分からないんだ。また会える時は連絡するから」
受けは無理やり笑顔を作って、玄関のドアの向こうに消えていった。

永遠に一緒にいるのは、叶わない夢。
それなら、せめてこの冬が終わるまで。
春が来て、砂時計が落ちきるまで──。



✤✤

私が以前応援していた某ボーカルグループの歌をイメージして書いたツイノベです。
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