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「一人呆然と立ち尽くしていたトアを見つけ、施設に連れ帰ったんだ。初めは義務感も手伝って、俺はトアの世話を焼いていた。けれどそのうち本当の弟のように思うようになり、それ以上の感情を持つようになり、そしていつしか心から愛する大切な人になっていた」
「それは僕も同じだよ。エルドは、この世で一番大切な人。無くしたくない、特別な存在」
僕は隣に座るエルドの方に向き直った。
「ねぇ、エルド?……大切なものはさ、しっかりと離さないようにしないといけないよね?」
「…ああ、そうだな」
「だからね、僕、しっかりとしまおうと思うんだ」
僕がそう言うと、エルドはハッと目を大きく見開いて僕を見た。
「トア……?」
僕が両親にしたことを知っているエルドなら、僕が言おうとしていることの意味はわかると思う。
危険な旅に出ると聞いた僕の不安な気持ち、わかるよね?
僕がエルドのことをどれだけ大切に思っているのか、わかるよね?
大切なら、しまっておきたい気持ちも、わかるよね?
「僕はこの世で一番大切なエルドを、危険な場所になんて行かせない。……ずっと、安全な場所にしまっておくんだ」
エルドは僕の言葉をきいて、すべてを理解してくれたんだ。僕の頬に手を当て、黙ってやさしく微笑んだ。
「ママの言うとおり、『ないない』しないとね」
記憶の中の母の言葉が重なる。
僕たちは抱き合い、このぬくもりを忘れないように、心に刻みこんだ。
「エルド、愛してる」
「俺も、トアを愛している」
愛の言葉を交わしあった直後、腕の中にいたはずのエルドは、もういなくなっていた。
「ないないしたから、もう安心だ……」
僕は、安堵のため息をついた。これで、大切なものを失わない。
◇
それから僕は、エルドに討伐依頼をした人物のもとへ向かった。
精鋭揃いのパーティーなど存在しなくて、エルドひとりで危険な地に送り込む算段だったと知ったから。
ギルドをあとにした僕は、今度はエルドと僕が過ごした施設へ向かった。
施設長は、僕が空間魔法の使い手だと知り、施設に留めておくために、エルドを危険な地へ向かわせる段取りをしたと知ったから。
そんな身勝手な大人は、いらない。
エルドと僕を引き離そうとした人は『ないない』しないとね。
僕は、他の人がいる目の前で、空間魔法を使った。
もう、この世界に未練はない。見られたって構わないんだ。
みんな驚いて僕を見る。
それはそうだ。僕のことを魔法も使えない出来損ないだと思っていたんだから。
僕のことをいじめて仲間はずれにしていた人たちも、みんな、いらない――。
僕とエルドの家に戻ると、エルドのにおいが強く残るベッドの上に座った。
名残惜しいけど、また思い出の場所を作ればいい。
「エルド。僕も行くから、待っててね……」
僕は、深呼吸をすると、自分の体をぎゅっと抱きしめた。
終
「それは僕も同じだよ。エルドは、この世で一番大切な人。無くしたくない、特別な存在」
僕は隣に座るエルドの方に向き直った。
「ねぇ、エルド?……大切なものはさ、しっかりと離さないようにしないといけないよね?」
「…ああ、そうだな」
「だからね、僕、しっかりとしまおうと思うんだ」
僕がそう言うと、エルドはハッと目を大きく見開いて僕を見た。
「トア……?」
僕が両親にしたことを知っているエルドなら、僕が言おうとしていることの意味はわかると思う。
危険な旅に出ると聞いた僕の不安な気持ち、わかるよね?
僕がエルドのことをどれだけ大切に思っているのか、わかるよね?
大切なら、しまっておきたい気持ちも、わかるよね?
「僕はこの世で一番大切なエルドを、危険な場所になんて行かせない。……ずっと、安全な場所にしまっておくんだ」
エルドは僕の言葉をきいて、すべてを理解してくれたんだ。僕の頬に手を当て、黙ってやさしく微笑んだ。
「ママの言うとおり、『ないない』しないとね」
記憶の中の母の言葉が重なる。
僕たちは抱き合い、このぬくもりを忘れないように、心に刻みこんだ。
「エルド、愛してる」
「俺も、トアを愛している」
愛の言葉を交わしあった直後、腕の中にいたはずのエルドは、もういなくなっていた。
「ないないしたから、もう安心だ……」
僕は、安堵のため息をついた。これで、大切なものを失わない。
◇
それから僕は、エルドに討伐依頼をした人物のもとへ向かった。
精鋭揃いのパーティーなど存在しなくて、エルドひとりで危険な地に送り込む算段だったと知ったから。
ギルドをあとにした僕は、今度はエルドと僕が過ごした施設へ向かった。
施設長は、僕が空間魔法の使い手だと知り、施設に留めておくために、エルドを危険な地へ向かわせる段取りをしたと知ったから。
そんな身勝手な大人は、いらない。
エルドと僕を引き離そうとした人は『ないない』しないとね。
僕は、他の人がいる目の前で、空間魔法を使った。
もう、この世界に未練はない。見られたって構わないんだ。
みんな驚いて僕を見る。
それはそうだ。僕のことを魔法も使えない出来損ないだと思っていたんだから。
僕のことをいじめて仲間はずれにしていた人たちも、みんな、いらない――。
僕とエルドの家に戻ると、エルドのにおいが強く残るベッドの上に座った。
名残惜しいけど、また思い出の場所を作ればいい。
「エルド。僕も行くから、待っててね……」
僕は、深呼吸をすると、自分の体をぎゅっと抱きしめた。
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