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本編
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クロードの私室に入るなり、王は喉を鳴らして笑い出した。
「久しぶりにあそこまで恐れられたな」
「救世主殿も、悪気があってのことではないかと思いますが……」
ユリウスが魔術的耳目で『聞いて』いた内容を踏まえれば、救世主の恐れが、架空の物語由来というのは簡単に伺いしれる。
だから王は可笑しくて仕方がなく笑ったし、生真面目なクロードは、それでも年若い救世主を取りなした。
あの年で急に異世界などに召喚されて、アーウィンたちの尽力があったとは言え、真っ当に会話が出来ているというだけで十分な胆力である。
「しかし、いやに現実味のある話だった」
「陛下は、我が国の臣民の敵になどなりませんよ」
「ハハ、そうであって欲しいという願望ばかりの言葉だな。……私を狂わせたくなかったら、死ぬなよ、クロード」
するり、と王の手の平がクロードの頬を撫でる。慣れた体温に、顔を預ける。そうすると、王の大きな手に、クロードの顔のほとんどは覆われてしまう。
「……陛下、お許しを。陛下が助かると言うなら……あなたが狂うとしても、私の命を賭けます」
「博愛の白花の勇者殿とも思えぬ発言だ」
王が喉で笑う。
言わせたいのだ、とクロードは分かっている。
「……私の私欲です」
「ふ、私欲か。もう少し、私が喜ぶ言い方をしてくれてもいいのだが?」
すり、と王の親指が、クロードの唇をなぞる。
もう幾度となく触れられた指先だった。魔竜討伐の折、十七歳の時よりずっと、ここは王のための場所だった。
物語の中での自分たちを知っているという救世主は、これもまた、知っているのだろうか。クロードは密かに羞恥した。
「……身勝手な、私の愛です」
あのような、幼い恋を。幼くて、必死で、叶わぬと思い込んでいた、恋を。知って、いるのだとしたら。
そう思えば、救世主の少年と話すのには、少し勇気がいるな。クロードはそう思った。
クロードの言葉に満足して笑って、王の唇がクロードのそれに落ちる。ほんの軽いキスは、王の許しだった。クロードの恋を許す、恋人のキスだった。
「あなたのせいですよ、ゼファー。……私の身勝手を、許してくれますね」
「ふふ、私のせいか。それはそれは……名誉なことだ」
王は、笑みを交えて、唇をいたずらに食んで、舐めて、短い時間を惜しんでクロードを味わおうとしている。
そうしてクロードの腰を抱き寄せて、額と額を合わせて、王は微笑んだ。
「お前の身勝手など、ただただ心地良い愛着にすぎぬ」
そう言って、王は再びクロードに口付けた。
恋人たちの密やかな逢瀬を、いまだ救世主は知らない。恋人であることすら、まだ。だからクロードが恥じ入った幼い恋は、まだ王と、その側近たちが知るだけで。
魔竜を封ずると伝説に謳われた救世主が、魔竜なき世に召喚されて、一日目のことだった。
「久しぶりにあそこまで恐れられたな」
「救世主殿も、悪気があってのことではないかと思いますが……」
ユリウスが魔術的耳目で『聞いて』いた内容を踏まえれば、救世主の恐れが、架空の物語由来というのは簡単に伺いしれる。
だから王は可笑しくて仕方がなく笑ったし、生真面目なクロードは、それでも年若い救世主を取りなした。
あの年で急に異世界などに召喚されて、アーウィンたちの尽力があったとは言え、真っ当に会話が出来ているというだけで十分な胆力である。
「しかし、いやに現実味のある話だった」
「陛下は、我が国の臣民の敵になどなりませんよ」
「ハハ、そうであって欲しいという願望ばかりの言葉だな。……私を狂わせたくなかったら、死ぬなよ、クロード」
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「……陛下、お許しを。陛下が助かると言うなら……あなたが狂うとしても、私の命を賭けます」
「博愛の白花の勇者殿とも思えぬ発言だ」
王が喉で笑う。
言わせたいのだ、とクロードは分かっている。
「……私の私欲です」
「ふ、私欲か。もう少し、私が喜ぶ言い方をしてくれてもいいのだが?」
すり、と王の親指が、クロードの唇をなぞる。
もう幾度となく触れられた指先だった。魔竜討伐の折、十七歳の時よりずっと、ここは王のための場所だった。
物語の中での自分たちを知っているという救世主は、これもまた、知っているのだろうか。クロードは密かに羞恥した。
「……身勝手な、私の愛です」
あのような、幼い恋を。幼くて、必死で、叶わぬと思い込んでいた、恋を。知って、いるのだとしたら。
そう思えば、救世主の少年と話すのには、少し勇気がいるな。クロードはそう思った。
クロードの言葉に満足して笑って、王の唇がクロードのそれに落ちる。ほんの軽いキスは、王の許しだった。クロードの恋を許す、恋人のキスだった。
「あなたのせいですよ、ゼファー。……私の身勝手を、許してくれますね」
「ふふ、私のせいか。それはそれは……名誉なことだ」
王は、笑みを交えて、唇をいたずらに食んで、舐めて、短い時間を惜しんでクロードを味わおうとしている。
そうしてクロードの腰を抱き寄せて、額と額を合わせて、王は微笑んだ。
「お前の身勝手など、ただただ心地良い愛着にすぎぬ」
そう言って、王は再びクロードに口付けた。
恋人たちの密やかな逢瀬を、いまだ救世主は知らない。恋人であることすら、まだ。だからクロードが恥じ入った幼い恋は、まだ王と、その側近たちが知るだけで。
魔竜を封ずると伝説に謳われた救世主が、魔竜なき世に召喚されて、一日目のことだった。
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