救世主くん!君の推しと裏ボス、付き合ってますよ!(…なんだけど、ウチの弟と青春始まってる?)

末野みのり

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本編

1-3

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 クロードの私室に入るなり、王は喉を鳴らして笑い出した。

「久しぶりにあそこまで恐れられたな」
「救世主殿も、悪気があってのことではないかと思いますが……」

 ユリウスが魔術的耳目で『聞いて』いた内容を踏まえれば、救世主の恐れが、架空の物語由来というのは簡単に伺いしれる。
 だから王は可笑しくて仕方がなく笑ったし、生真面目なクロードは、それでも年若い救世主を取りなした。
 あの年で急に異世界などに召喚されて、アーウィンたちの尽力があったとは言え、真っ当に会話が出来ているというだけで十分な胆力である。

「しかし、いやに現実味のある話だった」
「陛下は、我が国の臣民の敵になどなりませんよ」
「ハハ、そうであって欲しいという願望ばかりの言葉だな。……私を狂わせたくなかったら、死ぬなよ、クロード」

 するり、と王の手の平がクロードの頬を撫でる。慣れた体温に、顔を預ける。そうすると、王の大きな手に、クロードの顔のほとんどは覆われてしまう。

「……陛下、お許しを。陛下が助かると言うなら……あなたが狂うとしても、私の命を賭けます」
「博愛の白花の勇者殿とも思えぬ発言だ」

 王が喉で笑う。
 言わせたいのだ、とクロードは分かっている。

「……私の私欲です」
「ふ、私欲か。もう少し、私が喜ぶ言い方をしてくれてもいいのだが?」

 すり、と王の親指が、クロードの唇をなぞる。
 もう幾度となく触れられた指先だった。魔竜討伐の折、十七歳の時よりずっと、ここは王のための場所だった。
 物語の中での自分たちを知っているという救世主は、これもまた、知っているのだろうか。クロードは密かに羞恥した。

「……身勝手な、私の愛です」

 あのような、幼い恋を。幼くて、必死で、叶わぬと思い込んでいた、恋を。知って、いるのだとしたら。
 そう思えば、救世主の少年と話すのには、少し勇気がいるな。クロードはそう思った。
 クロードの言葉に満足して笑って、王の唇がクロードのそれに落ちる。ほんの軽いキスは、王の許しだった。クロードの恋を許す、恋人のキスだった。

「あなたのせいですよ、ゼファー。……私の身勝手を、許してくれますね」
「ふふ、私のせいか。それはそれは……名誉なことだ」

 王は、笑みを交えて、唇をいたずらに食んで、舐めて、短い時間を惜しんでクロードを味わおうとしている。
 そうしてクロードの腰を抱き寄せて、額と額を合わせて、王は微笑んだ。

「お前の身勝手など、ただただ心地良い愛着にすぎぬ」

 そう言って、王は再びクロードに口付けた。
 恋人たちの密やかな逢瀬を、いまだ救世主は知らない。恋人であることすら、まだ。だからクロードが恥じ入った幼い恋は、まだ王と、その側近たちが知るだけで。

 魔竜を封ずると伝説に謳われた救世主が、魔竜なき世に召喚されて、一日目のことだった。




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