俺と妖怪の筒ましい生活(否定)

ぽぬん

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仲直りのち…②

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「相変わらずモテモテだね、秋緋。」

皮肉なのかそれは。壱弥が俺に向かって言った。

あれから毎日。すずめは俺と一緒に学校へ通っている。こいつは俺についてきているだけで勉強をしているわけではないがな。他の人には見えていないからまだいいものの。四六時中こうもくっついていられるのは少しばかりつらいものがある。

「秋はなー、ちょうやさしぃんよー!昨日もね―。」

うんざり顔の俺の横で壱弥に昨日の俺があぁだったこうだったと楽しそうにすずめは話している。本当の雀みたいなやつだ。それはまぁまだいいのだが。問題は…。

「へぇー?そうなんだぁ。へぇー。」

時間はお昼休み。俺達は屋上で食べているのだが、沙織里が怖い。すずめが俺についてき始め沙織里と始めて対面した時、俺にもわかるような変な空気になったのだ。表向きには普通に接してはいるがいつものふんわり沙織里さんとは若干違う声色になる。

「そうだ秋緋。ちょっと話があるんだけど。」

壱弥が楽しそうに話すすずめの横から顔を出し、話は止みそうもないので無理矢理俺に話しかけてきたようだ。「古泉さんもごめんね、ふたりの話だから。」と、俺を連れ出す。沙織里は更に不満そうな顔でなぜか俺を睨みながら「わかった」と言った。それで壱弥よ。深刻そうな顔をしてるが何だ?

「秋緋、師匠の事だけどね。」

「むっ…俺は謝らないからな!」

その事か。確かに、報告等仲介してもらっていて壱弥に迷惑かかってるとは思うが。

「秋緋からしたらそうなるのはわかるんだけど…ちょっとそうもいってられなくて。」

珍しく壱弥が低姿勢で驚いた。詳しい話を聞くと、ケンカをしてから数日はいつも通りだったらしいのだが、ある日を境に落ち込み度が上がって腑抜けた状態らしい。質問したり、話しかけたりすると、二言目には「俺は駄目な親父かなぁ…。」とため息をついてぼーっとしてしまい、【筒師】関係の仕事中もこの感じで危険だという。

「僕はアルバイトで師匠の補助役をしてるんだけど、毎回は連れていってもらってない。僕が居ない時に危ない仕事してたらどうなるか…わかる?秋緋。」

「…最悪の事態、か。」

ケンカなんてしょっちゅうだった。今まで体格的にも口でも勝てなかった俺は渋々謝って従うしかなかった。それは実家にいたからってのもある。今回は近くにいるものの前みたいにすぐ謝ったりしてはいない。それが効いてるのかな?始めて親父にダメージ与えられたとは思ったけど…そんな影響でるもんなのか、あの親父が。

「今日の夜も少し厄介な仕事あるんだよね。謝る謝らないは別としても、今日中に!師匠と話をしてほしいんだよね、わかった?」

壱弥の目は本気、言うことを聞いてやりたいが。今日中にって。心の準備がなぁ。俺がもじもじしていると、ドンッと両手で壁に手を。いわゆる壁ドンをされた。童顔の癖に壱弥は俺より背が高いせいで無駄に様になっているのが気にくわない。

「いい?秋緋。あの姿で物憂げにため息をついて遠くを悩ましげに見つめ、瞳を潤ませる師匠。見たい?ねぇ、見たい?」

「いいえ。」

本音はそれかよ!俺も思わず想像して、即答で否定してしまったわ。慣れたと言っていたがさすがにキツいのかそのお姿は。「絶対だからね!」と、念を押して壱弥は沙織里たちのところへ戻っていった。俺は頭をポリポリとかきながら考える。

「突然いなくなるなんてのはさすがにごめんだなぁ。それこそ、謝っても許さねぇ。」

なんて。会いに行こうと決意したつもりだったのだが…気がつけば5限目の体育の時間になっていたわけで。中間休みってのがあるにはあった。しかし足が動かなかったんだよ。流石に気まずいし。

「こうなったら強行手段だね?」

カチリっ。

競技はサッカー。
考え事をしながら参加してる俺の動きは鈍い。思考も鈍い。それがいけなかった。壱弥が呟いたこの言葉も、あのボールペンの音も聞こえなかった。もたもたしている俺に壱弥がしびれを切らしたようだ。

「真砂!前見ろ!」

クラスメイトの誰からかはわからないが声を上げる。が 、遅かった。というか顔を上げてしまったせいで顔面にボールが直撃してしまい、強い衝撃のせいでバランスを崩して勢いよく背中を地面に叩きつけることになってしまった。

「ぐがぁぶぁっ!」

今回は気絶はしなかったが意識は若干朦朧とした。毎回意識失ってる訳じゃないぞ俺も。それで?壱弥はなに誇らしげに鵺出しとるんじゃ?見えてたからな!自分で蹴るふりして鵺にやらせたのを。俺には見えてたからな!

「いつみぃ…お前…っ!」

「秋緋、ボーッとしてると危ないよ?あ、鼻血出てるね?おでこも切れてるし。先生ー真砂くんが怪我したので保健室に…。」

先生も近くに来て俺を心配し、壱弥を注意してくれているが。

「付き添いはいい!一人で行ける!」

俺は少しよろけながら立ち上がり、一人で校庭を後にする。
申し訳なさそうな顔でこちらを見る鵺と「そう?大丈夫?気をつけてー。」と心配した表情をしながらも、最後には笑顔で見送る壱弥。
わざと怪我させやがって…いつか仕返ししてやるからな!とりあえず今は先生に叱られてればいいんだ!

「秋!どしたの!ケガ?痛そう…。」

校庭の近くの並木の木陰で座っていたすずめが駆け寄ってきた。保健室に行くと言うと「うちが付いてく!」と、ガッチリ腕を捕まれた。離れそうもないし、頭も軽くクラクラしているので抵抗する気もなく。すずめと一緒に校内へ入る。

「…あーちゃん?」

女子は体育館でバレーボール。渡り廊下から俺とすずめが一緒に校内へ入るのが沙織里の目にも入ったようだが。その時の俺は沙織里がどんな様子だったかはわからない。まぁ、気付いていても同じことだったんだろう。

すずめに頼りながら俺は保健室へたどり着いた。献身的な態度のすずめに好感は持てるのだが…鼻血の量が増えそうなくっつき方はやめてもらいたいです。入ろうとしたところですずめの歩みが止まった。

「どうした?」

額に汗をにじませてすずめが怯えた様に言った。

「この中、危ない人がいてる…。」

うん、間違ってない。あれは危ないよね。よくわかったな、褒めてつかわす!て、まぁ容姿に関しての事ではないだろうが。妖怪からしても親父は危険なんだろうか?無理に一緒に中に入る必要はないのですずめにはそこで待ってればいいと伝え「うん、ごめんな、秋。はよお薬塗ってもろて。」と窓際まで後退り、ちょこんと体育座りをした。

よし、不本意だが覚悟を決めるしかあるまい。本当は顔を会わせたくはないけど。もやっと頭の中に浮かぶ最悪の事態になる可能性ってのを思ってしまうと、な。俺もそこまで非情ではない。それに、さすがに血だらけのままじゃまた校内で変な噂が立ちそうだ。

「…失礼します。」

ガラガラと音を立てて、保健室の扉を開き、俺は中へ入った。
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