俺と妖怪の筒ましい生活(否定)

ぽぬん

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親睦キャンプin裏山①

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7月下旬―。

俺は頭を抱えていた。ヤンキー先輩からの頼まれ事は実に夏らしい、俺も初体験な素晴らしい申し出だったんだ。夏休みに入ってからのお楽しみだ、これは。とりあえず夏休みのことは置いておいて目の前のことを片付けなければならない。

俺の通うこの学校は進学は勿論だが高卒からの就職に関してもピカイチだ。理由は【特別選択授業】。長すぎるのでみんな特選と呼んでいる。この授業は週3回2時限分の時間を取り、自分の好きなことを勉強できるものなんだがまぁこのバリエーションが幅広い。半端なく広い。学校の教員でまかなえないところは外部から講師を呼んで勉強できるようにしているくらい力をいれている。新入生は夏休み明けからが本番で、終業式前までに決をとるようになっている。

「秋緋、師匠の授業でいいんじゃない?って嫌なんでしょ。だったら親睦キャンプ参加したら?」

親睦キャンプとは…どの特選にしようかと決めかねている生徒や、すでに決めてはいるがもっと詳しく知りたい!という生徒にあてて発信する夏合宿のようなものだ。なんて聞こえはいいが、毎年ほとんどの新入生が参加するのでそこそこの規模で夏休み前の一大イベントになっている。

「うーん。そうすっかなぁ…お前は決まってるのはしってるけど、参加すんのか?」

「秋緋が寂しいなら行ってもいいよ。」

こいつ…。
あの日、沙織里と一騒動あった日。そこから沙織里とは話をしていない。同じクラスだから顔を会わせたりはするのだがまともに話なんてしていない。というか向こうがさせない?女子のグループの中にいて近寄れない。見ていた生徒もいたから噂が噂を呼んで悪い方に伝わったのだろう、俺は悪者となっており女子特有の固いガードが出来上がってしまったのだ。
いや、まぁ、沙織里もたぶん怒ってるとかじゃないんだけど。でもメールくらい返して頂いてもいいんじゃないでしょうか…今までこんなことなかったからあんまり長引くとタイミング逃してもっとひどくなるんじゃないかと。

「そうだねぇ…古泉さんもキャンプ行くらしいからそこでどうにかするしかないんじゃないかなぁ?肝試しみたいのやるみたいだよ?どう?」

うわー!久々だわ!この感じ!人の心読む感じ!おのれ壱弥め。しかしいいこと聞いたぞ。うまいこと一緒になれたら話できるんじゃなかろうか。

「しゃあない、参加するか。」

そうと決まれば即行動だ。担任に報告して週末に備えるだな。

「言っとくけど、本来の目的は特選をどうするかだよ?忘れないでよ。」

うっ…わかっておりますよ。
でも、俺みたいに女子に近づこうと参加する男子も少なからずいるんじゃないか?あ、俺は正当な理由で近づくんだからな!

昼休み。担任にキャンプ参加を伝えた俺は、なんとなく保健室に足を向けていた。一応ノックをして扉を開けると、ちゃんといた。

「あらん?珍しいわね?どっか悪いの?」

相変わらずルージュってる…仕方ないけどさ。周りを見て俺だけなのを確認すると顔付きが親父になった。

「…まぁ悪いとこは沢山ありそうだな、はははっ!」

「ほっとけ!」

すっと俺の横を通りすぎ、ドアの鍵をかける。…あまり嬉しくないシチュエーションですね。

「結界も張ってるから二人で心置きなく話ができるぞ!」

何だろう、仲直りしてからやけにるんるん気分で親父っぽいことをしようとしてる感。悪くはないのだが今まであまり絡みがなかったことなので若干引いてしまう。だが、悩みがあるのは確かなのだ。

「あのさ、俺、なんか呪われてる?」

突拍子もない質問に親父はポカンとしている。

「だってさ、ここに来てから結緋さんの存在知ったり、小鬼と一緒に暮らしたり、今まで大人しかった沙織里の天使がでしゃばってきたり他にも…。」

事が起こりすぎてる、そう思った。それとは別にもうひとつ、不意に思い出し、口に出してしまった。

「…夢が。」

「夢?」

親父の顔付きが変わった気がした。

「なんか、最近よくみちゃって。昔の時の夢?かな…霞かかったみたいでよくわからないけど、確か、砂さ…。」

俺が言いかけると、目の前に親父が針を構えた右手を突きだして言った。

「それは夢だ、夢のまま、終わるのがいい。」

「親父…?」

さっきまでの雰囲気とは一変。俺の嫌いな親父が目の前にいた。嫌な汗をかく。俺が動けないでいると親父は額に針を刺そうと手を動かした。

その時、ババンッと凄まじい音をさせて扉が開いた。

「なんじゃ!結界なぞ張りよって!呼ばれたから来たというのに失礼な奴じゃな!こーしろう!」

「どうやらお楽しみ…ゲフンゲフン。お取り込み中のようですね、姫子様。」

そこには腕を組んで仁王立ちで立ってる結緋さんとそのかたわらにいつも通り口の悪い茨木がいた。

「ほぁー!秋緋ではないか!元気じゃったか?目はどうじゃ?制服もかっこいいのう!」

結緋さんは俺を見るやいなや駆け寄り、親父と俺の間に割って入り俺の両手をとってピョンピョン跳ねながら質問をしまくっている。その様子を見ている茨木からはいつものどす黒オーラがでている。

「あ…結緋ちゃん…今は。」

珍しい、親父が大人しい。真砂家の婿養子の弱いところなのかな?跳ねるのをやめて親父の方に振り返った結緋さんは、金色の綺麗な瞳を鋭くし、親父を睨み問う。

「今、秋緋にしようとしていたことはなんじゃ?私の許可がいる行為でないか?のう?」

また勝手になんかしようとしてたのか。言葉足らずは自分で自負してるだけになおらないんだな、ほんとに。

「で、でもですね…これはやっとかないと後々…うっ。申し訳ありません。」

眼光に負けたのか。ションボリして項垂れ、素直に謝る親父。持っていた針は消えていた。

「わかればよいのじゃ。それよりも!」

それよりも、だ。くるりとまた俺の方に振り返る結緋さん。

「さまぁきゃんぷとやらはいつからじゃ?秋緋もいるのじゃろう?楽しみじゃのう!」

さっきの表情とはうってかわって、満面の笑みでまたもピョンピョン跳ねる。結緋さんもいるってことか?

「おい親父、ちゃんと説明しろよ。」

「…はい。」

珍しく素直に悩み事を相談しようとした矢先にこれだ。やはり俺は呪われているのだろうか。
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