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結
終曲
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あっという間の宴。
わずかに光を称える沈む月をバックに終曲が始まる。
悲しい曲かと思ったが、どこか晴れやかな気持ちにさせてくれる曲調な気がする。会えたことの喜びをそのまま持ち帰るようにしているんじゃなかろうか?
舞を踊る沙織里を見ながら、終わりなんだなぁとしみじみ感じる。終曲に関しては俺の出番は少なかったから、色々な妖怪や人を見送った。
リーン…シャラララン…。
と、俺の鈴の音と沙織里のすずの音が重なるように響くと月は完全に沈み、暗闇に包まれる。騒がしかった辺りの話し声や音も無くなり、岩に打ち付ける波の音だけが規則的に響く。
「真砂くん、お疲れ様。ありがとう。」
「いえ、こちらこそっすよ。なんか…なんかいい体験だなって思いました。」
黄昏れていた俺に声をかけてくれた先輩は、俺の返答に悲しそうな嬉しそうな顔で微笑んでくれた。
「あーちゃんお疲れ様!向こうに皆いるから少し休憩しよっ?」
「そうしなよ。後はこっちでやるから。大丈夫だよ。」
俺の腕を引っ張り沙織里と夜兄たちがいる方へと。先輩とその仲間たちに見送られ、俺は舞台を後にした。
宴会場となっていた岩場の上で、まだのんびりと酒や肴を楽しんでいる俺の家族と仲間たちと合流する。
「秋緋、よくやったね。」
「しっかり撮影しておったからな!後で茨木に頼んででぃーぶぃでーにして配らなければ。それから―。」
にっこり微笑む夜兄と、興奮冷めやらない結緋さん。
「おー!秋緋!こっちきて飲めよ!あっ、もちろんジュースだからな?」
「当たり前でしょ師匠。古泉さんもこっちに来て座って休んでね。」
いつの間にか岩場に移動していた壱弥とベロベロになりかけの親父。
「固いこと言うんじゃねぇってなぁ?こういう時は皆で飲むもんだぜぇ?」
「…彼らは人ですよ?あまり無茶振りして絡まないでくださいね。」
「そうやよ!酒くさ鬼!秋緋こまらさんで!」
「俺は秋くんの酔うとこ見てみたい派なんやけどなぁ…っててて!やめぇって!」
いくつ開けたかわからない酒瓶を山にした中に座る酒天と、その隣でおしゃれに飲んでる茨木。悪口を言うすずめと相変わらずどつかれてる東雲。うん。一気に現実って感じだ。
壱弥の隣に沙織里と座り、騒がしい身内の宴会に参加する。海から吹く夜の潮風が気持ちいい。
「はい、秋緋。水分取らないと倒れるよ?ただでさえ霊力持ってかれてるのに。」
「え?そうなの?え?聞いてないぞ?」
聞いてないぞ?ただ演奏に参加するだけで力持ってかれてる…?まぁ普通じゃないのは承知してたけど。
「大事な事は後出し…秋緋の周りにいる人はみんなそうなのかな?」
それはお前も含めてってことでいいんだろうな?
確かに体力持っていかれてるのは感じたけど、霊力持っていかれてる感覚は薄かった。霊力の保有量が増えた。夜兄の底なし霊力が俺の体にいた時にキャパを増やしたんだろう。あとは俺の心の安定。今まで以上に霊力の使い方が落ち着いたのだろうな、と。たぶん。
「そうだね。秋緋はわたしたちと違って人に寄って生きているから。特に『心』で霊力のバランスを保ってるというか、感情豊かというか…ふふふ。」
「そうじゃな!末っ子っていう感じをもっと出して良いのじゃぞ!」
夜兄はさすがの見識。結緋さんはやっぱりちょっとズレてますね。
「『心』か…ととが居たのも俺の心だもんな。」
俺がそう呟くと夜兄の表情が変わった。急な真顔にビクッとしてしまった。
「秋緋、そのことで大事な話があるんだ。」
夜兄にだけ聞こえてたのだろう、皆は気にせず飲んだり食べたり喋ったりの騒ぎで気にもとめてない様子。「少し話そう」と、立ち上がった夜兄の後を付いていき、少し離れた場所でふたりきりになった。
「落ち着いてからちゃんとゆっくり話さなきゃって思ってたんだ。」
何だろう?
「秋緋の中から父様を取り出した。これはもうわかってると思うんだけど、感情の振れ幅が前より大きく変わったよね?」
うん、身を持って感じてる。
いままで多少なり喜怒哀楽の感情は出るものの、すぐ収まっていて…それ故に相手に対して冷たい印象を与えていたんだと思う。そのせいで友達が出来そうでできなかったんだ。
でも、開放されたのが今で良かったかもしれない。年齢的にもそうだけど、物事の判断がそれなりにできるようになってるしな。
「受け入れられて良かった…。もしあの時みたいに暴走していたら、【魂滅】の力を開放してしまったかもしれない。」
「こん…めつ?なんだそれ?」
「文字通り魂を滅する力だよ。三血混合の秋緋にだけある特別な力。」
おぉっとぉ?ここに来て【不視】よりヤバそうなの出てきた…?どうツッコめば?
「父様はその力が秋緋にあることを知っていてね。だからあの時、幼い秋緋の精神状態の乱れから発動。まぁ今はかなり図太くなってるみたいだから心配なさそうだけどね、ふふふ。」
確かに。
ツッコミの心配するくらいには図太くなりましたわ。それにしても【魂滅】ね…発動の仕方もわからないけど知っておいたほうがいいかな?
「その発動を抑える為に父様が秋緋の中にいたわけだけど。あの日の前よりわかってたことだから少し引っかかっててね。いろいろ調べてたんだけど…。」
なにやら意味深な…?
「西の方でその力をどうにか手に入れようとする動きがあったみたい。そいつらに当時のわたしは洗脳、もしくは妖怪の能力で操られてあの日の事件を起こした。あの頃のわたしは秋緋の言ったように我慢して癇癪を起して、心が乱れていて付け入る隙ができてしまった。まさか父様が死ぬなんて思っていなくて、さらに心を乱し、罰を受け魂と体が離れた時、むこうの洗脳の力が歪んだ形で残って父様を取り戻そうと必死になってたんだ。秋緋に怒鳴られて、体に戻ってやっと正気になって。本当に迷惑をかけてごめんね。」
腑に落ちないところは確かにあったのだ。ととのことが大好きな夜兄が何故襲ったのか、とか。ととが何故急に俺から離れたのかとか。元凶は西にあり、か。
つっても西になにがあるのか。【筒師】の派閥でもあるのか。
「察しがいいね、秋緋。西の方には【筒師】とは違う形で妖怪を使役してる一族がいるんだ。東側のこの地では【筒師】は強い力を持って、独自の輪廻転生の形をも作って界隈が繁栄してるわけなんだけど。西の方の一族はそれが気に入らないみたいで…まぁ確かに歴史自体はあっちのが古いから目の敵になるのは仕方ないんだけど…。」
【筒師】…もとい真砂家の歴史に関してなんら勉強もしてこなかった俺はポカーンである。
「夜兄も被害者だってのはよくわかった。んでその西の方の人たちとまだ争ってるの?」
「うーん…最近は大人しくしてる感じなんだけど…。秋緋が当主の約定を変えて真砂家の継体を変えたり、当主そのものを辞退、というかなれない様にしたじゃない?その変化とかが向こうの耳に入ればもしかしたらまた…来るかも。」
「え?俺を奪いに来るの?」
「うん。」
西もそりゃ強い力をもっているが、真砂の鬼の力がなかなかに厄介なのだそう。やばそうな力を持った俺が当主になりゃなおさら手が出せない。けど、それを俺本人が放棄したってんだから。こんな好機を逃せるかと思って来る…か。
いやいやいや!!冗談じゃない!やっと落ち着いてきたのに!なぁんでよ!
「だからね、一応東雲にもさっき話しはしてちゃんと守るようにって。紅司郎もわかってるから。まぁ今までと変わらない生活になると思うんだけど…大丈夫かな?」
「正直大丈夫じゃないわ。はぁ…俺の求めるごくごく普通の生活は…どこに…。」
「まぁでも【筒師】の一片として使役妖怪もいるから普通は最初から無理じゃないかな…?」
「ぐぬっ…!」
痛いところを突いてくれるな、夜兄。
それでも俺は諦めず男子高校生らしい生活を送れるように祈るぜ。
わずかに光を称える沈む月をバックに終曲が始まる。
悲しい曲かと思ったが、どこか晴れやかな気持ちにさせてくれる曲調な気がする。会えたことの喜びをそのまま持ち帰るようにしているんじゃなかろうか?
舞を踊る沙織里を見ながら、終わりなんだなぁとしみじみ感じる。終曲に関しては俺の出番は少なかったから、色々な妖怪や人を見送った。
リーン…シャラララン…。
と、俺の鈴の音と沙織里のすずの音が重なるように響くと月は完全に沈み、暗闇に包まれる。騒がしかった辺りの話し声や音も無くなり、岩に打ち付ける波の音だけが規則的に響く。
「真砂くん、お疲れ様。ありがとう。」
「いえ、こちらこそっすよ。なんか…なんかいい体験だなって思いました。」
黄昏れていた俺に声をかけてくれた先輩は、俺の返答に悲しそうな嬉しそうな顔で微笑んでくれた。
「あーちゃんお疲れ様!向こうに皆いるから少し休憩しよっ?」
「そうしなよ。後はこっちでやるから。大丈夫だよ。」
俺の腕を引っ張り沙織里と夜兄たちがいる方へと。先輩とその仲間たちに見送られ、俺は舞台を後にした。
宴会場となっていた岩場の上で、まだのんびりと酒や肴を楽しんでいる俺の家族と仲間たちと合流する。
「秋緋、よくやったね。」
「しっかり撮影しておったからな!後で茨木に頼んででぃーぶぃでーにして配らなければ。それから―。」
にっこり微笑む夜兄と、興奮冷めやらない結緋さん。
「おー!秋緋!こっちきて飲めよ!あっ、もちろんジュースだからな?」
「当たり前でしょ師匠。古泉さんもこっちに来て座って休んでね。」
いつの間にか岩場に移動していた壱弥とベロベロになりかけの親父。
「固いこと言うんじゃねぇってなぁ?こういう時は皆で飲むもんだぜぇ?」
「…彼らは人ですよ?あまり無茶振りして絡まないでくださいね。」
「そうやよ!酒くさ鬼!秋緋こまらさんで!」
「俺は秋くんの酔うとこ見てみたい派なんやけどなぁ…っててて!やめぇって!」
いくつ開けたかわからない酒瓶を山にした中に座る酒天と、その隣でおしゃれに飲んでる茨木。悪口を言うすずめと相変わらずどつかれてる東雲。うん。一気に現実って感じだ。
壱弥の隣に沙織里と座り、騒がしい身内の宴会に参加する。海から吹く夜の潮風が気持ちいい。
「はい、秋緋。水分取らないと倒れるよ?ただでさえ霊力持ってかれてるのに。」
「え?そうなの?え?聞いてないぞ?」
聞いてないぞ?ただ演奏に参加するだけで力持ってかれてる…?まぁ普通じゃないのは承知してたけど。
「大事な事は後出し…秋緋の周りにいる人はみんなそうなのかな?」
それはお前も含めてってことでいいんだろうな?
確かに体力持っていかれてるのは感じたけど、霊力持っていかれてる感覚は薄かった。霊力の保有量が増えた。夜兄の底なし霊力が俺の体にいた時にキャパを増やしたんだろう。あとは俺の心の安定。今まで以上に霊力の使い方が落ち着いたのだろうな、と。たぶん。
「そうだね。秋緋はわたしたちと違って人に寄って生きているから。特に『心』で霊力のバランスを保ってるというか、感情豊かというか…ふふふ。」
「そうじゃな!末っ子っていう感じをもっと出して良いのじゃぞ!」
夜兄はさすがの見識。結緋さんはやっぱりちょっとズレてますね。
「『心』か…ととが居たのも俺の心だもんな。」
俺がそう呟くと夜兄の表情が変わった。急な真顔にビクッとしてしまった。
「秋緋、そのことで大事な話があるんだ。」
夜兄にだけ聞こえてたのだろう、皆は気にせず飲んだり食べたり喋ったりの騒ぎで気にもとめてない様子。「少し話そう」と、立ち上がった夜兄の後を付いていき、少し離れた場所でふたりきりになった。
「落ち着いてからちゃんとゆっくり話さなきゃって思ってたんだ。」
何だろう?
「秋緋の中から父様を取り出した。これはもうわかってると思うんだけど、感情の振れ幅が前より大きく変わったよね?」
うん、身を持って感じてる。
いままで多少なり喜怒哀楽の感情は出るものの、すぐ収まっていて…それ故に相手に対して冷たい印象を与えていたんだと思う。そのせいで友達が出来そうでできなかったんだ。
でも、開放されたのが今で良かったかもしれない。年齢的にもそうだけど、物事の判断がそれなりにできるようになってるしな。
「受け入れられて良かった…。もしあの時みたいに暴走していたら、【魂滅】の力を開放してしまったかもしれない。」
「こん…めつ?なんだそれ?」
「文字通り魂を滅する力だよ。三血混合の秋緋にだけある特別な力。」
おぉっとぉ?ここに来て【不視】よりヤバそうなの出てきた…?どうツッコめば?
「父様はその力が秋緋にあることを知っていてね。だからあの時、幼い秋緋の精神状態の乱れから発動。まぁ今はかなり図太くなってるみたいだから心配なさそうだけどね、ふふふ。」
確かに。
ツッコミの心配するくらいには図太くなりましたわ。それにしても【魂滅】ね…発動の仕方もわからないけど知っておいたほうがいいかな?
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