俺と妖怪の筒ましい生活(否定)

ぽぬん

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夜道は気を付けて②

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なんだかんだ朝練のおかげで体力と動きがよくなっていたとはいえ、壱弥たちと違って俺はまだ自分の霊力も使ってうまく動けるわけじゃない。だから、そろそろ…

「ぜぇ…ぜぇ…げ、限界が…」

何回も簡単に飛び上がれるわけじゃないからよじ登ったり下りたり、なんとかして走り回って避けてはいたけどさすがに無理だ。

「おまたせ秋くん~よっとほっとしょいっ!」

なんとも軽く間抜けな声を発し、東雲がナイフをそれに向かって投げる。それの周りを囲うように数本地面に突き刺さり青白く激しい光がそれを包んだ。

「『封印術・牢』」

静かな声で東雲が言うと、投げられたナイフが鉄の格子のように変形していき、ぎゅうぎゅうとそれを押し込めて虫かごサイズの持ち運べそうな牢屋のような四角い物体になり道に転がった。

「うえ~…やっぱあかんなぁ、こういうんは俺に合わへんから気持ち悪ぅなる…無駄に体力も消費しよるし。ま、一応どうにかなったからええかな?秋くん無事~?」

力の流れが微妙に変だなとは思っていたが、戦闘と偵察以外にもこんなこともできるのか。無駄にハイスペック妖怪だな。東雲本人も言っていたが不慣れなことをしたのと対象の力の強さもあって消耗したようだ、顔色がだいぶ悪い。

「はぁ…しんど…さんきゅーな東雲。お前こんなこともできるのか。」

「こっち系統の術は他に使われへんけど万が一を見越していっこだけ覚えとるねん。せやけど自分の力の流れ方と逆の流した方せなあかんから船酔いみたいに頭ぐるぐる~ってなってまうんよなぁ…うぇぇ…」

俺もなんとか息を整えて地上に降りた東雲の背中をさすってやった。無駄にキラキラした目でみてくるのはきもちわるかったが今回は良しとしておく。

「で、これをどうするかだな。」

「俺も専門分野ちゃうから完璧には閉じ込めておけるわけやないしなぁ…真砂んとこにならこういうん強い人いっぱいおりそうやけど…」

「あっ」とハモってしまった。

最適な人が一人いた。
いたけど、忙しいのは知ってるからこんなことで来るかどうか…なんて悩んでいる俺を横目に東雲がタプタプとスマホで誰かに電話をかけている。まぁ、誰かなんてわかりきっちゃいるんだけど。

「もっしー?俺やでぇ~?っちょ詐欺ちゃうわ!切るなや!大事な用やって!あんなぁー…」

マブダチに電話、そこから取り次いで…

「すぐ来る言うてるってー!」

めっちゃにこにこしてる。今どこにいるかは知らないが実家だとしても距離を考えると数時間はかかるだろう。

東雲が封じて道に転がってる牢からはわずかだが禍々しい気が漏れている。触れるのも危険でリスクがある。かと言ってこの場に放置もできないし…

「そんな心配することあらへんよ秋くん。あいつは鬼やねんからマッハでこれるこれる♪」

そうか!鬼道を通ってくるのか!この辺の近くにも通っているだろう。これなら家に帰れないとかいう心配もなさそうで一安心だ。
なんて考えてる間に、ちょっと遠くから聞き覚えのある愛らしい声が聞こえてくる。いや、早過ぎ。

「あーーーきーーーひーーーー!!」

はー…見えてきたのは一生懸命駆けてくるかわいい女の子。

「秋緋!無事かの?いたくしておらんか?」

「うん、大丈夫。ちょっと疲れたけどな。結緋さんこそ忙しいのに、ごめんな。」

「大事な弟ためじゃ~そんなこと気にするでない~もふっ。」

飛び込むように抱きついてきた結緋さんの頭を撫でながら久々の再会を喜んでいる。と、でっかい舌打ちと共に俺の後ろに立っている茨木が悪態をつく。

「そう簡単にくたばりませんよ、無駄にトラブルに対しての適応能力は高いんですから腹立たしい。」

言い方よ。まぁな?散々意味わからない状態のまま数年過ごしてきましたけどもね?なんで腹立ってるんだよお前は!っと、そんなことより目の前のこれよ。電話である程度の状況は伝わっているだろうけど、しばらく抱きついたまま離れないだろう結緋さんにそのまま現状の説明し、結緋さんは俺の腹にうずめていた顔を上げてしぶしぶ俺から離れて転がっている牢をじっくり観察する。

「ふむふむ。一応抑え込んだが不完全…なるほどのう。術自体は正確にかかっておるんじゃが単純に力不足といったとこかのう。」

「しゃあないやん~俺これ苦手やし正しく施すに全振りしとったんもんー。」

「やはり胡散臭いだけのショタ狐だったわけですね、それは仕方ないです。ふふふ。」

一方東雲と茨木はいつもの口喧嘩をする。このふたりをマブダチって思ってるのは俺だけかもしれない。

「流石に触れないから移動もできないしここに放置するわけにもいかなくてさ。結緋さんお願いできるかな?」

「もちろんじゃ!秋緋に頼りにされるなんてうれしいのう!」

もう、にっこにこでルンルンで飛び跳ねている。そんなにうれしいのかな?こんなに溺愛されるとちょっと照れるな。

「さて…ちょっといいとこ見せちゃおうってやつじゃの!…茨木。」

「はい、姫子様。」

東雲とわちゃわちゃとしていた茨木だが結緋さんの呼びかけに直ぐ応え顔つきが変わる。もちろんそれは結緋さんも同様に、だ。

「私はまじないが得意での、それゆえ妖怪たちと【筒師】たちを魂源で『縛る』役割を担っておる。…簡単に言うと閉じ込めてしまうことと同義、封印の術もまさにそれよ。」

結緋さん【筒師】ではあるけど、真砂の家の役割もあって単純に妖怪を使役するだけじゃないんだっけ。家業について俺はほとんど勉強はしてきていない。すべて理解しているわけではないが、複雑で残酷で難しい事情があるんだろうことが結緋さんの表情から見て取れる。

茨木は結緋さんの隣に跪き、懐から袋を取り出しキラキラと輝く粒を牢に振りかける。かけられた粒に反応するように湯気のような煙が立ち上っていた。

「こやつは秋緋を狙っておる奴の刺客かなにかなのであろう?うーむ…単純にこのまま封印しきってしまうのも手なのじゃが、ある程度触れられるようにして紅司郎に調べてもらった方がこの先有用じゃろう。」

「秋くんのお姉ちゃん、有能すぎやん…俺の活躍かすむんちゃう…?」

「そんなことはないぞキツネ。ここまで抑え込めてるのはなかなかのものじゃ、落ち込むでない。」

と、にっこりと笑顔を見せる。不意に褒められた東雲は珍しく真面目に照れている。その様子を隣の茨木は殺意に満ちた顔をしてるのに気づいてるかな?

「『のぞむは【しゅうれるは【なぞ】見えるは【まことすは【とう】形は【筒】』」

小さく呟くように結緋さんがまじないの言葉を口にすると、ふりかけられた粒が牢を包むように溶け出す。どういう原理かはよくわからないがグニャグニャとスライムのように形が変わり、徐々に細長い形に変わりカランと軽い音を立て転がった。

「どうじゃどうじゃー!栓はキツネの牢を流用して強化して再利用してみたぞ?最適な形に仕上がったと思わんかー?」

学生の俺には見覚えありまくりなじみありまくりの形に変わったそれは…試験管。
禍々しい気はもう溢れておらず、中には赤黒いなにかぐにょっとしてる変な生き物のような物が浮いたり沈んだりしていた。結緋さんが言うには学校にあっても変に思われないだろう形にしたとのことだが。化学の先生だっけ親父…ギリ保健室にあっても違和感ない…のか?

「ん-…名付けて【しけんかんべびー】じゃ!」

「ぶっ!あ、あきく、ん、お姉ちゃ、ん、おもろすぎ、やろ!だはははっ!」

笑ってくれるな東雲。このちょっとずれちゃってるところも結緋さんのかわいいところなんだ。
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