俺と妖怪の筒ましい生活(否定)

ぽぬん

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西の一族

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東雲が言っていた通り転校生は力を利用されていただけらしい。ただ単純にそれだけではなかったけどな。

夜兄が乗り込んだ先は西の元締めとされている『あや』の総本家。その『絢』っていうのは西の本家の苗字の筆頭文字ひっとうもじっていう意味らしくて、例えば『絢瀬あやせ』『絢森あやもり』『絢瀬川あやせがわ』など筆頭文字が入っている一族のことを指すのだそうだ。
むかーしは統一していたってことだけど、力の強い者、実力のある者が増えるにつれて内部で派閥が出来上がり、独立して本家から離れていったのだが、『絢』の姓の恩恵は捨てることは出来ず派生した苗字を名乗るようになっていったと。生業自体は本家とさほど差はないとのことだが少しずつ家ごとに変わっているらしい。
それで、こういう派閥ってのができるってことはその中にはもちろん過激派はいるわけだ。近年…といっても数年単位の話ではなく、数十年から数百年かけ今に至るまでに一族のほとんどが大昔にできたわだかまりや確執等は無くしまとまってきている、が…

「今の本家当主はね、一族がバラバラになった代からもう一度やり直そうと働いた当主の意志をついでまとめ上げることに重きを置いている優しく優秀で寛大な人ではあるのだけど、なかなか首を縦に振ってくれない人たちはまだ残っていて手を焼いているんだって。」

西の当主がどれくらい寛大な人物かはわからんが。だとしてもバチバチにキレた夜兄が家の前でほほ笑んで「お邪魔します」なんて来たんだったらさぞ怖かったことだろうな。でもちゃんと話し合いは出来たってことだし、西の『本家』自体は無関係だったってことになるな。そうなると、対象になるのは首を横に振ってる奴らということになる。

「どのような恨みが本家にあるのかは今はどうでもよいことじゃ。その話の内容が真実だとすれば、秋緋を狙ってきた相手はわかったようなものじゃの。」

「直接話を聞いてきたのは良い方に転んだね。だんだんと見えてきた感じがしないかい?わたしに手を出した時は真砂の秩序を乱して混乱させてやろうかと思った程度だったのかもしれないけれど『事情が変わった』からね。ぜひ技術諸共己のものとできたらと考えているだろうね。」

真砂と絢は東と西で分かれてはいるが妖怪を使役して様々なことを執り行うのは同じ。方法自体は似て非なる方法らしいが。
絢の派閥問題が起こったことで西の本家が本来の生業よりも一族統一に注力する方向にかわり、独立したことにより技術が割れ、バラバラになってしまったこともあり、一族としての発展は少しばかり真砂より劣ることになってしまった。真砂の一族は妖怪を使役しながらも独自の技術を展開し発展をしている。代表的なものといえば『鬼門』と『鬼道』と『妖怪の魂の輪廻』に関連するところ、ここで格差が生まれた。界隈で噂にならないはずがない。

まったく自分勝手なことだ。自分たちが勝手に離れて、自分たちの一族を勝手に下げてきたくせに。俺のこともあるだろうが結局むかつくから奪ってやろうってか?派閥ができた理由がわかる人間性の奴らだな。根深い何かがあるんかね?絢の一族ってのは。

「どこも…うちみたいにみんな仲良くできるわけじゃないんだなぁ…」

「みんな?」

「なかよくじゃとー?」

夜兄と結緋さんが俺の大きなひとり言を聞き逃すわけもなく。ふたりしてにんまりと口角をあげ、今度は俺を挟む形で近づいてきた。さすが兄妹、そっくりなお顔。

「なんじゃなんじゃ秋緋!甘えんぼしたくなったのか?仕方ないのー!」

「そういうことなら、遠慮なく…」

「「よしよしよしよし…」」

ぐりぐりと頬ずりをされ、髪がボサボサになるまで撫でくり回される。悪い気はしない。悪い気はしないのだが…!

「あっっつくるしい!離れよっ!」

恥ずかしさが勝ってしまうわけで。愛情に飢えていたわけではないがここまで家族というものの愛情を受けるのはなれていない。徐々に慣らしていくので今は許してくだ…く、くすぐるなぁ!

「こみゅにけーしょんじゃぞ~!」

「ふふふ。たのしいね秋緋。」

楽しいのはふたりだけだってば!し、しむっ…!呪いで死ぬよりは数倍増しだけどぉ!

「尊いなぁ…この光景はずーっとみてられるわぁ…」

「…あなたと同じ気持ちなのはしゃくですが尊いことには同意します。」

ロリショタ妖怪ズが部屋の隅でこっちを観察しながらなにか言っているが無視してふたりを引きはがす。残念そうにしていたが話を進ませねば。

その過激派が手を出してきたのは確実になったわけだ。転校生の名前から割り出せば所在も明らかになるだろう、そこは夜兄や親父が調べればすぐ足がつきそう。ただ一番目の前にある問題はその転校生がこのままだと命を落とすということだ。こっちに引っ越してきた不安定な時の俺と同じような状態になっていて危ないっていう理解でいいだろう。

「秋緋の場合は周りに気づいてくれる人物がいたから対処できていたと思うのだけど、その子の場合はいない。いてもわたし達くらいだろうし、こちらからしたら敵になるわけだから助けるわけもない。そもそも理由を付けてこさせられたわけでもないだろうから…簡単に言えば捨て駒になり爆弾にもなるだけ。その結果どうなるかは、ね。送り出した人物は相当な下衆ゲスだね。」

たとえ敵だとしても俺のせいで命がなくなるのは納得がいかない。許せない。

「厄介なのが真砂の流れに引き込めぬかもしれぬことじゃ。東の土地で発展させてきたことが逆に裏目に出てしまう可能性がある。こちらの封じ込める力がまともに効けばよいのじゃが…。」

結緋さんにも難しいことなのだろうか?さっきは試験管に閉じ込めていたからやれないことじゃないと思うのは俺だけか?

「秋緋はまだ学ぶ前だからのう。妖怪は多少雑でも封印されるような事をする奴じゃ、ろくな奴じゃないし問題ないのじゃがの。人に施すことができる術には少し違う部分があっての。まずはその転校生とやらに問題なく接触して状態を把握しなければ力を抑え込むとい…そうじゃ!夜よ!一緒に秋緋に防呪を学ばせぬか!?」

「おや、それは紅司郎がはりきっていたことだけど、いいのかな?」

よいよい!と親父がさぞ喜んで夜兄に報告したであろう術の指導の機会を簡単にさらっていこうとする結緋さん。
俺としてもプロフェッショナルの結緋さんと我が家の当主の夜兄から直々に指導受けられるのであればそちらの方が心強いが…ごめん、親父。俺こっちがいい。

「あ!これはさぷらいずというやつじゃから紅司郎には言うてはならんぞ?」

「そうなのかい?ふふ、楽しそうだね。」

ふたりともやる気満々の様子で大変結構なのだが。夜兄はまだ幾分か常識の範囲内で動いてくれそうな部分はありそうだけど結緋さんはどうだろう。ちょっとずれちゃってるから心配なんだけど。

「さて、秋緋。善は急げと言うし、さっそくはじめようか。」

立ち上がったふたりの顔は悪だくみをする子供そのままなのだが、年季が入っている分可愛らしさよりも怖さが。

もしかしなくてもこれは、徹夜コースに違いない。
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