それが恋だっていうなら…××××

ハル*

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愛してるって、どんな風に? 1

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~水無瀬side~


悠有のリクエストで、スープ系。っていうか、シチューだな。

スーパーで買い物をして、車で待っている悠有の後頭部を袋詰めしながらぼんやり見ていた俺。

不意に悠有がこっちに振り向いたのが、まるでガキみたいに嬉しくなって自分が笑顔になってるってわかる。

たったそれだけのことなのに、こんなにも嬉しい。

俺が勝手に喜んでるだけの話なんだけどさ、悠有にも笑っててほしいって本当に思う。

シチューを作って、食わせて。それっぽっちで悠有が笑ってくれるなら、結構テキトーだった料理も本腰を入れるってもんだろ?

体の関係があったら恋人ってことでいいんじゃない? みたいなことばかりの俺だけど、体だけじゃなくて相手の生活の一部になってこそ恋人だったんじゃないのかな。

俺が求められていたことって、そういう部分もあったんじゃないのか?

相手が欲しがっていた愛情ってカタチは、それも求められていたんじゃ?

ズシリと重みのあるレジ袋を手に、入口へと急ぐ俺。

悠有がうつむきがちに、助手席に座っているのが見えた。

(悠有の過去も現在も未来も、憂いも喜びも一緒に受け入れていくのがそういう関係へと近づけるような気がして俺は)

手をこぶしにして、軽く車の窓をノックして。

「悠ぅー有ぅー」

明るい声と笑顔で戻ったよと伝えてから、運転席へと戻る。

荷物を後部座席の足元に置き、エンジンをかけて。

「さ、帰って美味しいシチュー作るからね?」

車を走らせた。

悠有は少しだけ手伝いたいとか言い出して、ソファーの方でピーラーで人参の皮むきをやってもらうことでよしとして。

「あとは、味見って仕事が一番重要なんだから、そっちでゆっくりしてて?」

ソファーの方を指して、そっちと言ったはずなんだけどな。俺。

(おーい、どこ行くんだよ)

店で体調を崩した時より時間が経ったからか、なんだかうろちょろしはじめる悠有。

(あー…もう)

悠有の体調が大丈夫そうなら、料理の方が優先だ。

内心ちょっと文句を言いたくなりそうになりつつも、悠有がいつもの様子なのが嬉しくて遠巻きに眺めながらシチューを作る。

「出来上がるまで、本読んでるから」

まるで子どもみたいな言い回しで、俺に事後報告。

なんだかカタコトみたいな抑揚だったのがおかしくて、声を殺して肩を震わせながらその様子を見ていた俺。

(何の本だ? あれ)

少し距離があると、よほど表紙に特徴でもなきゃ何の本かわからない。

シンプルな表紙に何やらタイトルか、漢字が書かれていたっぽい。

あれ、多分だけど日本文学とかの系統のやつじゃないか? 正確にはわからないけど。

何冊かその手の本は本棚にある。

俺のそばでは、鍋の中で具材が煮えていく音。悠有の方では静かな中に、紙をめくる音。

(ああ、いいな。こういうの)

勝手に顔がだらしなくなっていくのを自覚しながら、鍋の中で灰汁を掬いとっていた。

「もうちょっと煮てから、ルーを入れて、牛乳…っと」

冷蔵庫から牛乳パックを取り出して、調理台に置いてから悠有の元へ。

「ご飯はもうすぐ炊ける。シチューはもうちょっとかな」

ソファーの悠有の横へと場所を取れば、本から目を離さずに「ん」とだけ返す彼。

「なーに読んでんの」

本の下に潜り込むように顔を傾ければ、意外なタイトルを読んでいて。

『山月記』

すっごい詩人になるという夢に破れ、トラに化けてしまった男が、その業というか話を友人に語るって感じの話だった気がする。

「なんでまた、その本を」

ガッツリ文学的な本を読む印象はあまりなく、俺は思わず読書の邪魔をしてでも答えが欲しくなった。

「ね、悠有」

肩をポンと軽く叩き、答えてくれるまで「ねえ」と呼び続けたんだ。

本を読んでいる時の悠有は、話の中に没頭していることが多く、しかも結構深く入り込むからなかなか戻ってきてくれない。

今回も時間がかかるんだろうなと予想していたのに、その予想はいい意味で覆される。

ほんのり頬を染め、両手で本を持ったままでその本で自分の顔を隠すようにしてしまう。

(え? 今、こんな風な反応する要素なんてあったか?)

コッチが戸惑うほどに、照れくさそうなんだ。

「……悠有?」

改めて彼の名を呼ぶと、「あのさ」と呟いてから本を膝の上に閉じて置いてから短く息を吐き。

「この本は……瑞との思い出の本…だったりする。まさかあると思わなかったから、思わず手にしちゃって」

あっさりと明かしてくれた本を選んだ理由だが、まさかの展開に驚きを隠せない。

「え? 山月記が? え、ちょ…待って。って、うちの書店に入ってから、この手の本について仕事の中で何かを一緒にした記憶ないんだけど」

若干の混乱の中、なんとか言葉を紡ぐ。

「あー……まあ、そう…だろうな。就職するよりももっと前だから、その話。俺の見た目も、今みたいに小ぎれいじゃなかったし」

「え」

「俺、もっと髪を伸ばし放題にしていた時に、あの書店に行ってるんだ。で、瑞にちょっとした相談をしたことがある」

髪が長い悠有が想像できない上に、お客さんとして来ていた悠有に何かを相談されていた?

「俺が入院ばっかしてて、大学には入れたの同級生より遅くて。入院中に入院仲間からすすめられてBLを読むようになったんだけどね」

「あー。そこの話は聞いてるよね、たしか」

すこしずつ自分の話を聞かせてくれた中に、BLを読むキッカケをくれた人の話を聞いた。それからちょっとずつハマっていき、今は普通に読むし買うようになったって。

「まだBLを買うのに抵抗があった時期に、うちの店に行ったんだけどね」

どれくらい前の話だろう。悠有がした相談の内容って、一体?

あ、と気づき、悠有と話をしながらキッチンの方へと誘う。場所を変えて、話の続きを聞くことにする。

「ん、と。いろんなタイトルの本を教えてもらったけど、結構初手から初心者には厳しいなって物の方が割合が高くてさ。しかもBLコーナーってなんだか行きにくいんだよ」

まあ、わからなくはないな。

話を聞きつつ、お玉に人参をのせて、爪楊枝で固さを確かめる。

(うん。次は、ルーを入れよう)

パッケージを開き、ルーが入った容器の上からチョコを割るようにルーを割っていく。ピリリとフィルムを開ければ、白い塊が見えた。

煮立つ鍋の中に割り入れてはかき混ぜて、すこしだけ火を弱めた。

「あ、牛乳入れとく?」

「じゃ、頼もうかな。箱に書かれている容量だよ? 間違わないでね?」

前に容量よりも濃い方が美味しいんじゃないかとか思い込んで、勝手に濃い目の味にされたことがあるので、念のために釘を刺す。

「わ、わかってる」

悠有が牛乳パックを手に、計量カップとにらめっこをしながら量り入れる。

「で。話の続きなんだけど、その時にさ、瑞がBLコーナーのPOPを担当していたのかな。当時は気づかなかったけど、就職してからバックヤードにあるものとか見てみたら、あの時のものには瑞が描いただろう文字やイラストがあったと思う。でも、それを知らなくても、BLコーナーのとこにお店の人がいて、いたって普通の顔をして本を整えてたんだよ。もしかして、聞いてみても? って思ったんだ。というか…今考えたらさ、バカだったなと思うよ」

「ん? 今の話のどこにバカだっていう要素が?」

鍋をかき混ぜながら思わず聞き返せば、どこか照れくさそうに笑ってからこう言った。

「いや、さ。男性客にBLについて質問されるって図式が、なんていうか…どっちもなんとも言えない空気になるじゃない? なんとなくだけどさ。……そう、なんだけど、俺がした質問に、なんてこともないよって笑顔で瑞が答えてくれたんだ」

「BLについて聞いたんだ」

(いつだ? そんなことあったっけ? それって本当に、俺?)

悠有だけが知っている俺との思い出の話を共有したくて、なんとか思い出そうとするけれど。

(……うぁあああっっ! まったく記憶にない!)

思い出せないもんだから、モヤッとする俺。

「『友人に面白いジャンルだから、よかったら読んでみてって言われたんですけど』…って、友達からのラインナップが書かれたメールを見せて、『思ったよりも初心者には厳しいんですけど…なにか男性から見てこれだったらっていうBLないですか?』 って」

(んん? ちょっと待て。ボンヤリだけど、思い出せそうだ)

「そうしたら、別のコーナーにあったマンガを持ってきて、『この中にあるオススメは趣深い。特に山月記というのがBLに変換出来るかどうかは、本人次第かなーと。とりあえず、普通の文芸本読むつもりで読んでみたらいいんじゃないかな? それにその本だと、人前でも読めそうでしょ?』っていってから、『私もよくはまだわかってないんですけど、うちの社員が言うことには、BLも所詮人と人の恋愛なだけであって、それに性別ってものを意識するか否か。性別が付随するから恋愛上の越えられない壁があって、越えようとする過程が愛おしく思えるかどうか…とも。なので、BLを読むのにこういうのはおかしいかもしれませんが、普通の恋愛モノと捉えることにして、最初は小説からというのがいいような。コミックスの方から入ると、絵からの情報過多で、照れの方が先行して読まなくなってしまう方も。すこしずつ慣れていけば、やがてちょっとハードなものでも受け入れられる耐性がつくかも…ですよ?』って、本を片づけながら話してくれた。初手からBLってBLじゃなく、そう考えられるかってものからでも許されるのかな? って思って山月記さがして買ってった」

火を更に弱めて、牛乳を入れながら静かにかき混ぜる。

あとはとろみが出ればいい。出なきゃ、すこしの水溶き片栗粉を入れよう。

「……それって、BLの本をすすめてくれる、ソムリエっぽいお兄さんのマンガじゃない? もしかして」

「そう! それ! もしかして思い出したの?」

とか言われたものの、全部は思い出せていない。

「…ごめん。すこししか、ね」

苦笑いを浮かべて、小首をかしげる。

「でも、話の内容に出たものは、確かにあるし、すすめたことがある。…っていうか、BLのおすすめってお勧めしにくいんだよね。冗談抜きで」

正直に打ち明ければ「やっぱりね」と今度は悠有が苦笑いを浮かべる。

「なんていうの? 性癖っていうか、趣味とか嗜好とかいろんな言い方があるだろうけど、いわゆる地雷ってのがあるんでしょ? カップリングだなんだとかもだし。範囲外のものを安易にすすめて、それがあとから悪夢でしたとか言われた日にゃ…かなり凹むよ」

なんて話しながら、かなり前に同じようにされた質問に本を数冊すすめて、後日痛い目に遭ったことを思い出していた。

「もしかして、実体験あり?」

「ん、正解。恋愛モノは難しいなって思ったね」

だから、それ以降は参考文献になりそうなものに逃げつつあったんだけど、その中でその手のマンガに出会って有効活用させてもらっていたっけな。

もしくは、そっちの方に詳しいバイトの女の子がいたから、その子に任せたりしたり。

当時を思い出しながら、鍋をぐるぐるかき混ぜていく。

「そろそろトースト焼こうかな。…お願いしてもいい? 悠有」

「いーよ。一枚でいいの?」

「うん」

会話をしながら、今度は食事の準備を進めていく俺たち。

「じゃあ、トースト用の皿も出しておくね」

「ん。スプーンはこのかごにいれて、持って行って」

「りょーかい」

クツクツコトコトと鍋が鳴り、いい匂いが部屋を満たしていく。

隣でしまい忘れていた牛乳を手に、悠有が冷蔵庫のドアに手をかけた時。

「…あっっ」

くぅうー…と、犬の鳴き声みたいな腹の音がきこえ、悠有が真っ赤になりながら牛乳をしまっていた。

「もうすぐ出来るよ?」

「知ってる!」

真っ赤な顔をそのままに、ペッパーミルをテーブルへと持って逃げる彼が可愛い。

自分の腹からも、似たような鳴き声がしてクスッと笑えてしまう。

ピッピッピッとトーストが焼けた音がしたのと同時に、ガスの火を消す。

カレー皿にゴロッとした野菜たっぷりのシチューをよそって、テーブルへ。

その間に悠有が自分のご飯と、俺のトーストをキッチンバサミで6分割にして持ってきた。

「おまたせ。じゃあ…「いただきまーす」」

いただきますだけ一緒に声をあわせてから、手をあわせ。

スプーンでひと掬い。それから6つに切ったトーストで、シチューを掬うようにして大きな口でかぶりつく。

「は…ぁ。我ながら、美味いシチュー作れるなー」

自画自賛している俺の横では、無言で黙々とシチューを食らう悠有の姿が視界に入る。

「…あ。ご飯、お代わり持ってこようか」

「あー…じゃあ、甘えてもいい?」

「それっくらいいいよ。俺が疲れてる時は、悠有がいろいろやってくれるじゃない? お互いさまってね」

と言いながら、悠有の茶碗を受け取ってキッチンへ。

温かいものを食べているのもあってか、悠有の顔色が思ったよりもよくなって見える。

「シチューもお代わりしたくなったら、言っていいよ?」

茶碗を置きながらそう言えば、はにかんだ顔がこっちを向いていた。

夕食を終え、洗い物をひとまずお湯につけて置いて、いつものようにコーヒーを淹れる。

悠有は今日は砂糖多めで、俺はブラックで。

「瑞?」

コーヒーを半分ほど飲んだ頃、悠有がマグカップをテーブルに置いてからこっちを向かずに俺を呼ぶ。

「ん? なあに?」

悠有がやけに緊張しているように見えて、俺はあえてのんびりとした口調で返してみた。

「――――話、ある」

息を詰めたようなセリフを吐き、今度は俺の方を振り向いてから。

「うまく言える自信なんか、何一つ…ないんだけど。聞いてくれる?」

今にも泣き出しそうな表情かおで、俺の太ももの上にそっと手を置いた。

その手は少しだけ震えていて、その手に自分の手を重ねて呟く。

「…うん。聞かせて? どんな話でも、話がつながっていなくても、悠有が話せることを、話したいことを…聞かせてよ」

と。



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