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聖女の色持ちではないんですがね 5

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案の定とでもいうようなタイミングで。

「俺のこと、指さしたくせに」

不満げに横目で見てくるアレックスの顔が目に入る。

「あー、まあ…そう、なんだけど」

その空気に耐えられなくて、薄紫色をしたマカロンっぽいものを口に放る。

「あむ……ん、んん? おいふぃー」

なんだろう、ベリーかな? すこし酸味がある気がする。香りもいい。

顔が勝手にほころんでしまう。

「んと、これって、なんだろ。…クン。匂いじゃわかんないなぁ。あむ……もぐ、むぐ……ん? わかんないなぁ」

指先は次の甘味を求めてしまっている。

ああ、美味しい。癒される。

「……ん? みんな、こっちばっかり見て、食べないの? 美味しいよ?」

食べては飲んで、絶対太っちゃうイケナイループなのに止められない。

「え、あれ、もしかして、甘いもの苦手な人いたりする? それとも、あたしばっかり食べてるから」

さっきとは違う理由で、手をつけにくくなっていたのかもしれない。

「ご、ごめんなふぁい。…むぐ………ゴクン。どうぞ、みんなで仲良く食べてください」

そういってから、イスに深く座りなおしてテーブルからすこしだけ距離を空けた。

なんていっていいかわからない表情で、あたしが食べるところを黙ってみていただけだった。みんな。

こんなに食べる女の子がいないのかもしれない。

「お貴族さまだったら、こんな風に食べっぷりがいい女の子見たことがなくて、きっとびっくりさせちゃったよね。……ごめんなさい。気をつけます」

紅茶を飲みながら、自分なり考えた言葉をゆっくりと伝える。

中学校卒業までのあたしは、ちゃんと言葉を伝えることが上手じゃなかった。多分。

頭の中にある言葉と、口から出せる言葉の量が合わなくて、どこかどもったり慌てるだけで終わってしまったり。

春休み中に、お兄ちゃんとお兄ちゃんの友達に手伝ってもらって、伝える時の練習をいっぱいした。

慌てないこと。自分が言いたいことは、心の中でブレないこと。嚙みそうになったら、一旦深呼吸すること。あと、相手を信じること。

お兄ちゃんの友達は、あたしも保育園からの知り合いばかりだったのもあって話しやすかった。

こっちの事情もわかってくれていたし、バカにする人もいなかった。

そうして、高校入学までの時間を準備に費やして、高校入学を待って。

(こんなんじゃ、せっかく練習したのを一番使いたい場所で使えないじゃない。……でも)

予想外の場所で、ちゃんと自分の言葉を伝えられている。

同性じゃないから尚更なんだろうけど、そこまで緊張しないでいられている。

(同性は、どこかこっちのミスを待たれているみたいで、ぎらついてて怖かったんだよね)

にしても、だ。

初めて会った人たちに囲まれていて、本当だったらまともに話せないと思っていたのに。

こっちの世界に来て、何かの作用があったのか普通に話せている感じがする。

すこしホッとする。

知らない場所でのコミュニケーションは大事だろうから。

言葉がわかるのが、本当にありがたいや。

そんなことをぼんやり思いながら、みんなの様子を見守る。

あたしがテーブルから距離を空けたすぐには、誰もなにもしなくって。

間違っていたのかなと一瞬思って、ジークムントって人に視線を向けたら、みんなに声をかけて一気に動き始めた。

男の子も甘いものが好きなんだな。

「甘いものは、美味しいよね」

一番笑顔で食べている人に声をかける。

赤髪の前髪パッツン君。

大きな口を開けて、チョコケーキを食べようとした瞬間に声をかけたら、隠すように背中を向けてから口に入れていた。

お皿には、食べかけのチョコケーキを残して、手をつけるのをやめてしまう。

「もう、お腹いっぱい?」

あたしに背中を向けるような格好の彼に、声をかける。

「そういうんじゃ、ないけど」

小さな声で呟くのが聞こえて、すこし考えてからイスから立ち上がった。

彼の右横にしゃがんで、彼の食べかけのケーキがのったお皿を手にする。

「じゃないんだったら、食べちゃおうよ。……はい、あーん」

フォークで切り分けて、突き刺し。

彼の口元にケーキを近づけたら、彼の顔が首まで一気に真っ赤になっていく。

「え、どうしたの? 真っ赤だよ? 熱? 熱でも出ちゃった? どうしよう」

そういうと同時に、お皿をテーブルに戻してキョロキョロする。

「熱ってこの世界はどうやって測るの? 体温計は? いや、そんなこと言っても通じるかすらわからないよね。……ごめんなさい。先に謝らせてね!」

彼に一歩近づいて、自分の前髪を上げて、彼の前髪も上げたら顔を彼に。

自分の世界で親からよくされた熱の測り方をしようとしただけだったのに。

「キ、キスはまだダメだ!」

とか言われながら、思いきり突き飛ばされた。

「……へ」

なんて間抜けな声をあげて、あたしは後ろにむかって転がっていった。

結構な勢いで。





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