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聖女は、誰が為に在る? 4
しおりを挟む腕を組み、傍観していたアレックスが長い脚で一気にすぐそばまで、それこそと飛ぶような勢いで近づいてきた。
ギョッとした次の瞬間には、「やりすぎ」と言いながらジークの襟を引っ張ってあたしと離してくれる。
いきなりのことに、ジークが静かに怒っている。
「……なに? アレク。何様?」
そう言いながら、笑っているのに笑っていないのが傍から見てもわかるほど。
アレックスは、きっとさっきあたしが言ったことを実行してくれただけだ。
助けてと言ったから、方法はさておき助けてくれた。
「ケンカしないで!」
仲がいい二人が、あたしみたいな子のことで揉めるのは避けたい。
「あたし、ああいうの慣れていないから困った顔見て、それで助けてくれただけでしょ? ね、アレックス」
視線で「ね?」と念押しするように見つめる。
二人が同時にあたしを見ていて、イケメンの視線のまぶしさに目がもたない。
耐えきれずに視線を逸らすと、ジークから盛大なため息が聞こえてきた。
「あのさ。俺のこういう行動って、ちゃあんと理由があるわけ。今は他の話が先だから言わないけど、俺はひなとの距離は今以上に詰めさせてもらうからね」
ため息の後に、どこか責められているような言葉に聞こえるジークのそれに、なんとなく視線をそらしてしまったのは許してほしい。
「……いいけどさ。警戒してねって言ったしね、俺自身が」
自分で言っておきながら、子どものように口を尖らせてふてくされているみたいに見えるジーク。
(ふふ。可愛いな、こんな顔もするんだ)
あまり見せてくれなかった表情に、こっそり頬をゆるめた。
「もう、いいや。先に話を進めなきゃいけないから、話を進めるからね。いい? アレックスも」
若干オコなジークが、アレックスに指差しをしてカルナークの近くに立たせた。
「さぁて、カル。俺のひなにいろいろやってくれたこと、俺は知ってるんだけどね。この場所に呼ぶ時に、なんで呼ばれたのかって考えていたかい?」
あたしの横にしゃがみ、さっきのようにまたあたしの手を取るジーク。
手の甲にキスをされた感触が、すぐさま蘇ってしまいそう。
思い出しただけで真っ赤になってしまう。
「あぁ、もう。そんなに可愛い反応されちゃうと、話をするのやめたくなっちゃうじゃない」
困ったように話しているくせに、表情はどこか嬉しそうに見える。
首をかしげて、ジークを見つめるとふんわりと微笑まれてしまう。
イケメンの笑顔。怖い。目がやられそうです。
「いいかい、カル。今から俺が指さす場所に心当たりがあるよね」
そう言ってから、あたしの体にギリギリ触れない位置で、何か所も指さされる。
最後に、左手の小指を示した。
「カルナーク? ジークが指した場所って……?」
左を向くと、あたしの顔を見て今にも泣きだしそうなカルナークが震えていて。
「ダメだよ? カル。ひなには、全部を教えてないんでしょ? どうせ」
みるみるうちに、顔色が抜け落ちていく。
「カ、カルナーク!」
左手でカルナークの肩を揺する。
「大丈夫? ねぇ、カルナーク」
あたしと一瞬だけ目が合ったものの、「…あ」と声を漏らしてすぐに逸らされてしまった。
「ひなは、盗撮と盗聴については知っていたでしょ。っていうか、あの日教えたしね。俺が」
カルナークからは、盗聴についてしか聞いていなかったけど、知ってはいた。だから、うなずく。
「……嘘だろ」
カルナークがショックを受けたように、ぽつりと呟く。
「ごめんね。知ってて、黙ってたの」
黙ってはいたけど、たまにそれを逆手にとって行動していたこともある。
カルナークだけが悪いわけじゃない。
「いや……、俺が悪い…から、陽向は謝るなんて…」
どんどん声が小さくなっていってしまうカルナーク。
「カルナーク。これに関しては、俺たちで陽向に口止めをしていた。それは理由があってのことだ」
アレックスが落ち着いた口調で、カルナークに説明をする。
実はあたしも詳しくは知らないんだよね。
あたしの魔力のコントロールにかかわることだという程度でしか、二人からは説明がないままでここに来ている。
「ジーク。二人にちゃんと説明してやれ」
アレックスが口火を切って、本題に入りだす。
話はこんなことだった。
あたしが聖女として召喚されたものの、力がどの程度か不確かだったことと、成長速度が大器晩成型だったこと。
スロースターターで、育てば大物に大成するよというあれだ。
最初はショボいっていうのは、ぶっちゃけ言いたくなかった。
それと、一番困ったのが、あたし本人が魔力を感知できない見られないので、コントロールさておき成長させにくいということだった。
そこで、偶然の産物とはいえ、カルナークがあたしの魔力に興味を持ち、自分の魔力を幾度となく混ぜ込んでいた。
幾度となくってのが、ちょっとアレなんだけど……。
最初の時のしか、把握していなかったのに。
風呂上がりのあたしの魔力が、一番心地いいっていう理由で、その日の最後に一緒にいるのがカルナークっていうのは多かった。
「もしかして、お風呂あがりに何かやってたの?」
一番濃厚なタイミングが、そこしか浮かばない。
横目で見れば「……ごめん」とだけ返されてしまう。
数日前の、あの夜のことだ。
「カルナークが水分補給させてくれるのはいいんだけど! いいんだけど……こっちの世界の下着って、布の面積少なすぎて恥ずかしいの。だから……来てほしい時は呼ぶから、それから来てほしいな」
思い出しただけで真っ赤になってしまう。
紐パンなんて、控えめな感じで大事な場所が隠されているだけで、ほぼお尻は見えちゃってるんだもの。
「え、なに、それ」
「なん…だと? 陽向のそんな姿をお前は……」
ジークとアレックスの威圧感が一気に高まる。
「なにもしてない! 特別なことはしてない!」
涙目で弁解をするカルナークを、二人が威圧し続ける。
「これからは、呼んでからきてくれるもんね? ね? カルナーク」
どうにか収拾つけたくて、カルナークの返事を待つけど、カルナークはコクコクと数回うなずくのが精いっぱい。
「ほ、ほら。話の続きをしようよ」
自分が余計なことを言ってしまったことに気づけないまま、あたしが話を無理に戻そうとした。
「……陽向。後で、個別で話がある。……いいか」
とアレックスが言うと、ジークも「俺にも時間取ってね」と目の奥が笑っていないのがわかる笑みを向けられてしまう。
カルナークと同じく、コクコクとうなずき、意味なくへらりと笑ってみせたら。
「ほんと、それ、卑怯なこと、わかってやってるでしょ?」
ジークにそんな言い方をされたものの、あたしは早く話を進めたくて笑ったまま固まっていた。
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