【本編完結】「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。

ハル*

文字の大きさ
22 / 44

聖女は、誰が為に在る? 6

しおりを挟む





~カルナーク視点~

ジークから今後のことについて、さっきよりも細かく指示が入る。

何から始めて、どう展開させていくか。どうすれば、陽向が魔力を感覚だけでもいいから認識できるかの可能性について。

ジークが俺が仕掛けておいた魔力に気づいたということも明かしてきた。

本当だったらしばらく起き上がれないくらいにボッコボコにするつもりだったとか、笑い話のように言われた。

あっぶねえ。

これから俺が陽向に対してどう準備を進めるか考えるのを課題として、今日は解散となった。

陽向をあんなに近い部屋に連れていくだけなのになかなか戻ってこなかったアレクに、ジークと二人で焦れていた。

戻ってきたアレクは平静を装っていたつもりだろうけど、俺たちは気づいていた。

陽向といいことでもあったんだな、絶対!

感情を乱せば、魔力が揺らいでしまう。

思うことがあっても、なるべく……な・る・べ・く・だ・け・ど! 感情を爆発させないようにしている。

シファルが魔力を枯渇させたのって、まだまだ幼く、子どもらしく心赴くままにまわりを振り回していたころだったと思う。

正確に原因を知っているわけじゃないけど、シファルの心が揺さぶられるような何かがあったんじゃないかと俺は思っている。

ただ、本人がかなり気にしているのも本当なので、話題にすらあげないようにしている。

シファルのことを考えながら、自室へ向かう廊下を歩いていた俺。

ピピピ……と警告音が小さく脳内に流れる。

(……陽向?)

俺のマーキングは、同時に仕掛けられるのは三人まで。

今のところ、陽向にしか仕掛けていない。

目の前に、廊下の景色に混じって赤の背景色が現れた。

「陽向……!!」

踵を返し、陽向の部屋へと急ぐ。

この警告は、マーキングされた対象者の体調に異常があった時に知らされるものだ。

ドアを勢いよく開けて、その気配のなさに背中に冷たいものが走る。

「ひ…な……た?」

ほんのちょっと歩を進めれば、ぐしゃぐしゃになっている布団の陰に陽向の姿があった。

(いた!…よかった)

ホッとしてベッドを半周して、陽向のそばに近づいた。

仰向けから半身をひねってうつ伏せになりかかったような、中途半端な格好。

顔は伏せ気味で見えない。

「陽向? どうし…た……?」

小声で声をかけ、ねじられたようなその体を仰向けに戻そうとして触れたその体が。

「熱っっ!!!」

酷く熱を持っていて、陽向は浅くて早い呼吸を繰り返すばかりだ。

後から聞いた陽向の国の熱の測り方を試す。

俺の額と陽向の額をくっつけて……。

「ありえん。いつからこんな状態に? アレクがいた時からなら、きっと気づいていたはず」

でも、アレクにしては浮かれていたよな。気づいていなかった可能性はないか?

「いや。そんなことより、早いとこどうにかしてやらなきゃ」

呼び鈴でメイドを呼び、医者の手配と着替えの準備をさせる。

「他のやつらには、俺から報告をしてくる。悪いが、ひとまず陽向のことを頼む。医者が来るまでには戻る」

とだけ告げて、行儀悪く廊下を走っていった。

予想通りといえば予想通りなんだが、ナーヴは「また倒れたのか」とこっちを見もしないで本をめくっていた。

俺からすれば、聖女だろうとしても人間なんだから具合が悪くなったって責める理由にはならないということで。

ナーヴは他の誰よりも瘴気に耐性がなく、現段階で森の中までの瘴気が村はずれまで来てしまえば一人だけ隔離されて過ごさなければ生きられない。

聖女の召喚によって、さっさと瘴気を浄化してもらわなければ、常に生きるか死ぬかの日々に放り込まれてしまう。

わからなくはない。すべての思いを共有は出来ずとも、死の恐怖が常にあるのは誰だって怖いさ。

陽向の成長=ナーヴが普段通りに過ごせることにつながる。

「苦しいことは嫌だって、一番知っているナーヴにこそ、見知らぬ世界で慣れない生活環境の中で過ごす陽向のキツさを理解してやってほしいのにな。っていうか、一番の理解者になれそうなのに」

と、そこまで口にしてみて、チリッと胸の中が痛んだ。

最初とか一番とかは、俺がもらいたい。出来ればだけど。

今のところは、陽向に生まれて初めて告白した相手は俺。

他の称号だって欲しいに決まっている。

ジークとアレクは一緒にいて、俺からの報告を聞いてすぐに部屋へと向かっていく。

最後に、「シファル、いるか」と勢いよくドアを開けたら。

いつものようにけだるげに本棚の前にいて。

「陽向がすごい熱を出してて」

「そうか」

「医者を呼んでいるけど、在庫があるならいつものアレ、出せないか?」

「アレは、こっちの世界の人間用の薬だろうが。彼女の体に合うものか、副作用は出ないか。何も確かめもせずに出すことは賛成できないな」

と言い切った。

シファルは魔力が少なくなって以降、他にやれることを探すまでに時間がかかりはしたけど、薬学を学んで俺たちのサポートに回るようになった。

独学で研究をし、薬草を掛け合わせて、新しい薬をいくつも作ってきたシファル。

「だったら、医者と一緒に陽向を診ることは可能か?」

俺には出来ない、してやれないこと。埋められない知識量。

今回に限っていえば、他力にすがることを躊躇っている暇はない。俺の矜持より、優先順位は高い。

シファルは手にしていた本を閉じて、机の上にある別の本を手にする。

「一応、診るだけね。診てみなきゃ、どうするかは答えられない。無責任な発言は、この場では控えておくよ」

そう言いながら、俺と並んで部屋を出る。

――――陽向は、聖女だ。

でも、俺たちと同じ人間でもあるはずだ。

「俺が出来ることがあれば言ってくれ」

速足で駆けていく中でシファルに声をかけると、何も言わずにまっすぐ遠くを見つめていた。

陽向の味方がもう一人増えてくれと願いながら、廊下の角を曲がった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...