28 / 44
抱えられるもの、抱えられないこと 1
しおりを挟む熱を出して五日間寝こんで、回復に三日かけて。
「ごめんね! 待ったでしょ」
朝食の後に着替えをしてから、あたしはカルナークの部屋を訪れた。
回復期間の間に、ジークとアレックス二人から、同じ話をされるということが起きた。
別々に来て話し相手になってくれるのはいいんだけど、同じ話をするくらいなら一緒に来てほしいと思ったのは二人に悪いかな?
された話は、たった一つ。
誰かと二人きりにならないように、というもの。
一応異性だからねと二人から釘を刺された。お父さんか!
自分たちだって異性で、かつ二人きりで話をしていったくせに。矛盾してるよ。
(異性だからって言われても、あたしみたいなのを異性と思ってくれる人なんて)
とか考えてから、この世界に来てから告白されたっけねと失笑。
そこまで意識していないのかな、あたし。それはそれで失礼な話だ。
「シファルくんも、忙しいところ時間を取ってくれて、本当にありがとう」
深く頭を下げると、あの日のように眉間にしわを寄せて黙られてしまう。
「シファルはいつもこんな感じだから、気にしなくていいからな」
とカルナークが一言そえてくれると、シファルくんが目を泳がせていて様子がおかしい。
「……シファルくん?」
おかしな様子の理由がわからなくて首をかしげてみても、シファルくんは何も答えてはくれない。
会話らしいものがなかなか出来ない。難しい。
でも、自分も会話は苦手な方だから、いつかシファルくんが話しかけてくれたらと待つことにしている。
ちなみにさっきの話が絡んでいるので、カルナークと二人きりにならないようにとシファルくんが来てくれているわけで。
シファルくんには、カルナークがあたしの魔力に自分の魔力を混ぜ込んでいるのは伝えていない。
必要最低限の情報だけを教えて、拡散するものを取捨選択していく。
魔力のコントロールが巧いというだけの理由で、カルナークが先生役になったという説明のみ。
「それじゃ、始めようか」
「はい!」
緊張しつつ、カルナークが用意してくれた二脚のイスに向かいあうように腰かける。
「まずは、魔力の感覚を知ることから。魔力は、血液と同じように体中をめぐっている。それぞれに属性は違えど、量の差があっても、必ず流れている。それがこの世界の常識の一つだ。本来、幼児期に魔力の感知について訓練をするんだ。数年かけてやる子もいたし、そこにも差はあった」
そう話してから、あたしへと手を差し出した。
「俺の手のひらに、手を重ねて軽く握ってみて」
言われるがままに、そっと手を重ねる。
そういえばと、回復期間に聞いたみんなの年齢は思ったよりも近くて。
手をつないでいるカルナークは、同い年の15才。でも、多分あたしが先に16になる。きっと同級生。冬生まれって言ってたもん。
そこにいて書き物をしているシファルくんは、19だという。
ほとんど会うことがない、あたしが聖女なのを嫌がっていそうなナーヴくんは18になったばかり。
アレックスが21で、ジークが23。
ジークの方が年上だって聞いて、ビックリした。
アレックスの方が落ち着きがあって、お兄さんって気がしていたのにな。これって、ジークに失礼?
夏が来たら16になるあたしに近い人が結構多くて嬉しい。
「いいか? 目を閉じて、俺の手から感じるあたたかさを追うんだ。目で見られるものじゃないから、目を閉じて肌で感じるものに集中しろ」
「うん、わかった。よろしくね」
目を閉じて、カルナークと重なっている肌の感覚を追う。
カルナークの手はすこしヒンヤリしている。
その手がじんわりとあたたかさを纏いはじめる。
あたたかさが移るかのように、あたしの手もあたたかくなっていく。
「……気持ちいい」
このあたたかさは好きだ。優しい温度。包みこまれていくようで、頬がゆるんでしまう。
「ふふ…っ」
ほわりとゆるやかに手の先から腕を伝い、肩まであたたかいものが上がってくる。
「どうだ? 陽向」
カルナークに問われて「肩の方まで来ている気がする」と返しつつ、感覚を追い続けていく。
「一気には流さないから、まずはその感覚に慣れてくれ」
声に従うように、小さく「うん」とうなずいた。
首の方まで来たあたたかさが、今度は指先の方へと巡るように戻ってくる。
「首…肩…………ん? まだ肘まで来てない?」
「うん、まだだ」
「さっきの余韻が残りすぎてて、ちゃんと追えない。……むず…かしぃ」
ただそれだけの作業なのに、汗が浮かんできているのがわかる。
「もうちょっとだけ頑張れ」
「……ん」
自分の体なのに、自分の体じゃなくなっていくような不思議な感覚。
これがカルナークの魔力なんでしょ?
この魔力の本流はあたしの魔力で、そこに混ざりあって体を巡っていくカルナークの魔力。
「魔力って色はないものなの?」
元いた世界で読んだことがある本では、風だと緑とか、炎だと赤とかだって書いてあった。
「俺の色を感じようとしてくれているのか? 陽向は」
そう質問されて、自分なりに考えていたことを伝えてみる。
「色がわかれば」
「うん」
「自分のと、カルナークのと」
「…うん」
「識別しつつ感じていけたら、自分の魔力を理解しやすくなるかもって思った」
「……ふぅん」
「おかしい?」
と、不安に思って聞き返すと。
「いや? 陽向なりに工夫しようと思ってくれているのが、素直に嬉しい」
なんて、すこし弾んだ声がした。
「俺の魔力の色は見えてるのか? 何色だと思う?」
あたたかさが手首から指先へと動いていく気がする。
それを追いながら、頭に浮かんだ色を口にした。
「………無色透明」
色なき色。まるで水のような透明さ。なんにでも混じれそうとでもいうのかもしれない。
あたしの色らしきものは感じられていない。何色なのかな。
ふ……と手が軽くなる。
カルナークの手が離れて「目を開けて」の声に目を開ける。
まぶしさに一瞬顔をしかめてから、カルナークと見つめ合う。
あたしを見つめるカルナークは、真っ赤になって照れくさそうに笑っていた。
0
あなたにおすすめの小説
追放された聖女は旅をする
織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。
その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。
国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる