【本編完結】「聖女に丸投げ、いい加減やめません?」というと、それが発動条件でした。

ハル*

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閑話 カルナークは、シファルの存在を忘れている。

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~カルナーク視点~


――――これ、どんな地獄? というか天国? 俺、どんな顔していたらいい?

魔力の感知や操作の訓練のため、初回の今日は俺の魔力を馴染ませ……じゃなく、陽向の体に巡らせていくことになった。

あらかじめ話してあったとはいえ、実際向き合って膝がつくほどの距離で座ると緊張する。

顔が強張らないようにと思えば思うほど、逆ににやけそうになる。

(……なんでだよ)

「まずは、魔力の感覚を知ることから。魔力は、血液と同じように体中をめぐっている。それぞれに属性は違えど、量の差があっても、必ず流れている。それがこの世界の常識の一つだ。本来、幼児期に魔力の感知について訓練をするんだ。数年かけてやる子もいたし、そこにも差はあった」

と、早口にならないように、経験談を交えて話していく。

大人しく俺の話を聞いている陽向の姿が、名前の中にある“ヒナ”みたいで可愛い。

ピヨピヨ鳴いていそうなんだもんよ。

脳内じゃ、陽向に向かって「可愛い」しか言ってないのを隠しつつ、手を差し出した。

「いいか? 目を閉じて、俺の手から感じるあたたかさを追うんだ。目で見られるものじゃないから、目を閉じて肌で感じるものに集中しろ」

そう言えば、まっすぐ俺を見ていた瞳が閉じられる。

互いの手を重ねて、そこから俺の魔力を指先から始めて今日は首あたりまで巡らせていくんだ。

いつものように一瞬で馴染ませてごまかすように陽向の魔力をかぶせる……なんてことはしない。

陽向の血管に流れる血液のように、陽向の魔力の管というか線というかその中を通す。

俺の魔力が違和感なく寄り添うように、それこそ支えながら魔力を体内に巡らせるつもり。

ただ、陽向の体に負担がかかりすぎないようにと、ものすごく細くして流すのが、結構大変。

(まあ、それでもコントロールには自信があるから、俺じゃなきゃ出来ない訓練だと思ってる)

やがて、何か感じ始めたのか、困ったことが目の前で展開される。

陽向は目を閉じているけれど、俺は陽向の状態を見ながら流していく関係で目を開けたままだ。

「……気持ちいい」だの「ふふ…っ」だの、笑みを浮かべながら俺の魔力を追っていく陽向。

ほんのり頬が赤らんでいて、いつもより幼く見えてしまう。

熱も下がって食事もとれるようになって、顔色がすっかり良くなった。

だから、陽向の唇もぷるんとして美味しそうなピンクに色づいてて。

(……って、ダメダメ! 今日はそんなことに意識を奪われてる余裕ないだろ)

何度となく心がくじけそうになり、ブレブレになりそうな魔力の操作をなんとか続けていく。

オレ、ガンバッテイル!

首まで行った魔力をちょっとずつ引き戻す作業をするけれど、そっちの方はさっきまでの魔力の余韻で追いにくいみたいだ。

「ちゃんと追えない。……むず…かしぃ」

目を閉じているのに、どんな表情をしているのかわかってしまう。

可愛い。

「もうちょっとだけ頑張れ」

とエールを送れば、すこし疲れたのか掠れ気味の声で「……ん」とだけ返してきた。ちょっと色っぽくて、集中が切れそうになる。

お互い、いろんな意味でそろそろ限界かもしれないな。

負担がかからないように、慌てず焦らずゆっくりとその痕跡を教えるように引き戻していく。

陽向がすこしでも俺の魔力を感じられますようにと願いながら。

不意に、首をかしげて難しい顔になる陽向。

「魔力って色はないものなの?」

なんだろう? と思った途端に投げかけられた質問に驚いた。

どうして聞いてきたのか不思議に思いつつも、俺の魔力へ興味を持ってくれたようで嬉しくもなる。

「俺の色を感じようとしてくれているのか? 陽向は」

俺はきっと、満面の笑みで聞いている。

シファルはずっと書き物をしているだろうから、見てもいない……はず。

「色がわかれば」

俺の魔力を追いつつ、まるで確かめるように。

「うん」

「自分のと、カルナークのと」

どうなりたいのか、どうしたいのかを。

「…うん」

「識別しつつ感じていけたら、自分の魔力を理解しやすくなるかもって思った」

陽向なりに向き合ってくれているのを感じられる。

「……ふぅん」

想いとは逆に、浮かれすぎた返事にならないようにしたら、ものすごくそっけない返事になった。

失敗したかも。

「おかしい?」

なんてさ、明らかに不安そうな陽向の声がして、焦って修正する。

「いや? 陽向なりに工夫しようと思ってくれているのが、素直に嬉しい」

最初からこういえばよかったな。

「俺の魔力の色は見えてるのか? 何色だと思う?」

いくらかでも感じられたんだろうか。

でも、今日は訓練初日だし、今まで司祭のじいさん相手に勉強してきても何も変わらなかったのに。

(さすがに今日はわからないだろ)

期待半分、諦め半分で聞いたんだ。

長い……長い間の後に、まっすぐな声で。

「………無色透明」

って答えたのが聞こえて、俺の心臓がどうしようもなく震え出したのが分かった。

ああ、ヤバイ。ダメだって、こんなの。

透明の魔力は、見えにくい。だから誰にも気づかれない魔力だって思い込んでいた。

――気づいてくれる人が、ここにいた! その事実がこんなにも嬉しいなんて。

無色透明だと告げた陽向の顔は、どこか穏やかで、例えるなら女神のようでいて。

(女神よりも、天使かもしれない)

魔力を心地いいと思い、好きだと思ったのが最初だったはずなのに。

(魔力も、顔も、声も、あれもこれも全部全部……愛おしい)

魔力を引き戻し、手を離す。

一瞬ためらってしまう。ずっと触れていたかったから……。

「目を開けて」と告げると、ゆっくりと目を開ける陽向。

まぶしそうに一瞬顔をしかめてから、俺と見つめ合う。

(俺。今、どんな顔してるんだよ)

俺の顔を見た陽向が、真っ赤な顔をしてうつむいた。

「……陽向?」

うつむいた顔を追うように、体を沈めて陽向の顔を下から覗きこもうとするけれど。

「カルナークのエッチ!」

とか言われてしまうとか……どういうこと?

覗きこもうとすればするほど、陽向が顔を手で隠しながら反対の手で俺を押し返そうとする。

背中に視線を感じて、上半身をねじってシファルの方へと向けば。

「なにやってんだよ」

シファルが呆れた顔をして、俺を見ていた。



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