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ここはどこ、俺は誰?
暗に、逃げ足だけは速いってこと?
しおりを挟むカムイさんと一緒に、あの場所へ戻って、また目の前で今度は逆再生のように小さくなっていく姿を見守る。
「あーぁ……元に戻っちゃった」
さっきまでは、うさぎの姿じゃないカムイさんの姿にガッカリもしたのに、兄弟設定が頭の中に出来た途端これだもんな。
俺って人間も、自分が思っていたよりチョロい? …いや、違うな。単純? これも違うか? とにもかくにも、カムイさんの見た目が変わるたびに一喜一憂しはすれども、中身がカムイさんだってわかってるからイイなって思う気持ちは変わるはずがない。なんにせよ、好きなこと言ってんなぁー…っても思えた。
「そんなに残念かよ、この姿は」
とか言いながら、カムイさんはモフモフの手で顔をこする。まるで毛づくろいみたいに。
(…クッ……ソ、可愛い!)
ガクンとひざを折り、床に手をついてうなだれる。そして、盗み見るようにカムイさんのうさぎ姿をもう一度確かめてから。
「どっちも…イイッ」
なんて、押し出すように素直に気持ちを吐き出した。
結局はそういう答えになるのにね、俺。バカすぎる。
「きっとこれでさっきの姿に戻ったら戻ったで、また残念がるんだと思うよ」
そうなんだよな。ホント、それ。
語彙力なさすぎていい言葉が見つからないけど、”そういう”こと。
「はいはい、好きに言ってろ」
それを知ってか知らずか、カムイさんは俺のその反応にもまるで子どもへの返しみたいに軽く返してきた。
「怒ってるの? カムイ」
あのカムイさんもいいけど、こっちのカムイさんもいいっていうことだからね。失礼っちゃ失礼。
しゃがんで、視線をなるべく近くして話しかけた俺に、カムイさんがまばたき二回分くらい黙ってから呆れたように呟いた。
「好きに言ってろって言ったろ? 言葉まんまだ。お前がいいと思ってんのは、どっちかだけの俺じゃねえんだろうが」
とかいう質問に「もちろん」と即答した。
すると、わずかあった距離分…近づく音がして、気づけばすぐ目の前にカムイさんが来てた。
「なら、いいじゃねえか」
って、頭を撫でようとして距離が微妙に足りなくて眉間を撫でたようになった俺とカムイさん。
「くすぐったいよ、カムイ」
クスクス笑いながらそう言えば、ワザとだって言うんだよ。…絶対に違うでしょ。
「で、これから武器屋か。行く前にスキルだなんだって、ちょっと確認しとくか。適正なきゃ、買いに行っても…ってなるしな。それか、ただ護身用に持たせてそれ用の扱い方だけ教えるか」
二人で花壇っぽいとこの段差がある場所に腰かけて、俺のステータスを一緒にのぞきこむ。
体力は普通。筋力は、脚力はあるみたいだけど、腕力はなさそう。あの三頭身のに矢印つきで数字が書かれていた。
っていうか、この書き方っていうか表示がよくわかんない。
『脚力:見た目よりもかなり速い、持久力もアリ』
見た目の評価は、誰目安? 誰の評価? 見た目よりって失礼だな。
武器を使う場合のスキルは特別ないみたいだって、カムイさんが考え込んでいる。何を使わせようって。
せいぜいあっても、身体強化を一時的にかけられるくらい。…でもこれも、回復魔法と一緒で自分以外が対象って書かれている。
「こうなると、お前が望んでいたようなことは無理っぽいな。自分を回復するのも強化するのも出来ないのか。お前以外には使えるってのに。……なら、魔法が使えない場合の戦い方や防御の方法は、別で考えるとするか」
そうなっちゃうのか、うーん。
「あのさ、カムイ」
「んー?」
「例えばなんだけど、錬金術でアイテムに魔法とか魔力とか仕込んでおいても、その手の無効化の場所や魔法をかけられたら、それも防がれちゃう?」
直接的なものじゃなきゃいいのかどうかを、俺は知らない。なんせ、こっちでの知識は今やっとつきはじめたばかりだもん。
「そうだなー。……防げるけど、防がれない」
またもや、あいまいな返しがきた。
「え? 言ってる意味、よくわかんないんだけど」
「なんつーかな…。場所や相手次第? それと、お前次第」
「は? もっとわかんなくなった」
「俺の個人的な意見を言えば、アイテムは創っておいてもいいと思う。相手やお前次第っていうのは、双方の魔力の強さの差がモノをいうからだ」
「強さの、差…」
カムイさんが口にしたことを繰り返し、首をかしげる。
「現段階で、お前がこの世界でどの程度強いのかはハッキリしていない。相当だなとは思ってても、それ以上がいるかいないかは俺もお前もまだ何も知らないだろ」
とか問われて、調べようもないし、そんな暇もなく過ごしてきたなとこれまでを振り返った。
「やりあってみるとか、その場所に行ってみて…じゃなきゃ、有効か無効かが判断できない。だから、防げるけど防がれないって言い方になった」
「あー……なるほどね」
やっとスッキリ出来て、すこしホッとした。理解が出来ないままは嫌だなって思っていたからね。
「これも俺個人の意見だけどよ」
また前置きして、俺をチラッと見てから「多分イケると思う」と告げたカムイさん。
「……なんで?」
さっきまではあいまいな情報と感想だけだったのに、急だ。
「お前と従魔契約してみて、俺なりにお前の強さを肌で感じて…相当な強さだって思ってる。身内みたいな関係になったからっていう、ひいき目とかじゃなく…な?」
数値化されていても、この世界でどういう数値だと強いとかが見えない。つかめない。
たとえ平均以上だよと言われたとしても、それ以上の人がどこにもいない保障がない。なら、絶対じゃない。
「とりあえず、雑魚処理用に創っといてもいいんじゃないか」
「雑魚…」
どの程度をつかまえて雑魚って言っていいのか、謎だ。
(あの二人はさすがに雑魚って扱いにならなさそうな気がするけど)
イチさんとナナさんを思い出して、ほんのちょっとだけ懐かしむ。
アイテムを創るとして、また素材が少し足りないなという話になり。
「素材だったら、さっきのギルドに在庫があれば買えるし、なきゃどの辺で採れるかを教えてくれるはずだ」
「そっか。じゃあ、足りないものの在庫があるか、聞いてこようか」
「だな。それと、このあたりでよさげな武器屋も教えてもらわなきゃな」
とか話をしていて、はた…と気づく。
「ちょっと待って、カムイ」
「ん? どうした急に」
そうだ。そういうことだよね、これは。
「その聞き込みも交渉も、俺がやるんだよね」
さっきまでのうさ耳つけた人型のカムイさんならいざ知らず、この姿=省エネモードのカムイさんにはそういった交渉とかは頼みにくい。
「嫌かよ。自分のことなんだから、ちったあ…やってみろよ」
「…うっ」
アイテム創りに、あのオブシディアンが有効なのはツイてる。足りないのは、黄色い魔石だ。それと、オレンジの魔石。
黄色というか、黄土色? 属性自体は土属性を持つ魔石。オレンジ色の方は、雷属性。
在庫を聞くだけなら、俺だけでもいけるかもしれない。というか、腕にはカムイさんを抱いていくから、不安はいくらか少なめにはなるんだけどね。
本日三度目のギルドへ赴き、さっきとは違う窓口へと顔を出す。
「この二つの魔石ですか? 珍しいものをお使いなんですね。…ちょっとお待ちくださいね、確認してきます」
いくつ必要かをメモしたのを持って、奥の部屋へと消えていった受付嬢。
数分すると、大きさと数をメモしたものを持ってきた。
「多分、間に合うと思う。問題は値段なんだけど…いくらかな」
黄色い魔石はあまり在庫していることがなく、今回あったのは珍しいようで。オレンジの方は、在庫が余ってて結構安いみたい。
「こちらの方はこの大きさのもので、10万エールですかね」
今までぼんやりと聞いていたけど、初めて聞いた単位。エール。
「ちょっとだけ待っててもらっていいですか?」
「はい、お待ちしてます」
こそこそとカムイと囁きあう。
魔石を売って手に入れたお金の価値も単位も、正直そこまで頭に入っていない。換金後にカムイさんが、ミスリル銀を売るまでじゃないって言ってたから、あの魔石だけで十分なお金があるんだって漠然と思ってた。
もうちょっといろんな方向に興味と知識を持たなきゃ、生きるのに大事なお金に困ることになりかねない。
「ステータスに手持ちの金、表示されるはずだぞ。それで確かめてみろ。さっき飯を食ったが、それぽっちじゃ全然減ってないはずだ」
「…え、そんなに換金で高く買い取ってくれたんだっけ」
なんて驚きを素直に伝えると「結構なもんだぞ」とカムイさん。
「さっきの飯の時の支払いのあたりから、金について勉強させときゃよかったかもな。…悪い」
なんだかカムイさんにしては珍しく、本気で申し訳なさそうにしている。
「違うよ、カムイ。俺が自分から知ろうとしなかったのが一番よくなかったんだから。…だからさ、これから教えてね? 先生」
えへへと笑いながら、少し軽めに話題を振れば「当然だ」とうさぎの格好をしたカムイさんがふんぞり返る。
だから、そういうのも可愛いんだってば。もう。
残金を確認してみれば、思わず声が出そうになったほどのゼロがついてて驚いた。
カードに入れっぱなしていると、いよいよお金のことに無頓着になりそうだから、ちゃんと把握するようにしよう。
元の場所じゃ、一日に一食なんて時が普通になりつつあったから、そこまでお金を使うってことがなかったせいか、支払いできりゃそれでいいって範囲での把握だったもんな。
そう思えば、俺の口座がそのままなら意外と残っていたりするのかもさ。
いくらあるのか知ることは出来ないけど、叔母さんに今までのお礼に全額振り込めたらいいのにな。
あっちの金は、もう…使うことも出来ないんだから。きっと。
魔石を買って、人気のない場所でインベントリに入れて、それから移動開始。
武器は、無難なあたりのものでいいとカムイさん。ショートソード? っていうの? それを太ももに固定する革製のバンドを一緒に買って、装着。
使い方については、あとでご教授いただきますともさ。カムイ先生に。
街はずれ。錬成陣を描いてても目立たなさそうな場所を、カムイさんが探してくれた。
今回創るのは、二つの指輪だ。
一つは防御特化の、土属性の魔石を使ったもの。もう一つが、元の場所でいうところのスタンガンみたいな、雷属性の魔石を使ったものだ。
基本的に戦いは好まない俺だから、逃げる時間稼ぎができるようなアイテムを創る。
オブシディアンと魔石と……ちょっとだけミスリルも入れちゃおっか。アレンジだ、アレンジ。カムイさんの角も入れたら阻害もかけやすくなる。
何かを身に着けていると見た目でわかれば警戒されてしまうかもしれない、って単純に思ったんだ。
なら見えないようにしておくのが、安パイかな? って。
二つの錬成陣を描きあげて、二つの錬成陣からまた導火線のような線を引き、その先に発動の陣を描いて…っと。
しっかり食事を摂った影響があるのか、なんだか体が軽い。だから、二つ同時に発動させてみようと思った。
「……よっし。…んんんっ…錬成…っっ」
違う属性同士の錬成陣だったからか、先に錬成した時とは感覚が少し違っていた。一瞬、体が熱くなった。
張っておいた結界を、徐々に解除していく。二つの錬成陣の中心には、黒く光る怪しい色合いの指輪があった。
それぞれに、小さな魔石が埋め込まれていて、魔石が埋め込まれた場所から六方向に線が引かれている。
まるでそれは光を表しているようにも見える、すこし洒落っ気のあるデザインだ。
てっきり何の柄も捻りもないものが出来上がるものだと思っていただけに、少し驚いた。
二つの指輪を手にして、どの手に嵌めようかなと指先で摘まんで掲げたその時だ。
キン…ッと金属と金属をぶつけたような高い音がしたと思ったら、黄色の方は左手の親指に、オレンジの方は右の中指に嵌っていた。
特別サイズを合わせたはずじゃなかったのに、自動で調整されたかのようにゆるくもキツくもない状態で指輪がそこにあった。
「洒落てんな、アペル」
そう言ってから、俺の手を持ち上げてプラプラと振ってみせるカムイさん。
「…あ」
ふ、と思ったのが、カムイさんは自己申告とはいえそこそこ強いはずだけど、今までのお礼とこれからの安全祈願で何か創ったら、着けてくれないかなって思った。
「カムイ! 指輪と…えーっと、ああ! ピアスだったら、どっちがいい?」
まだ材料はある。俺が創ったもので、カムイさんを守れるんだとすれば。
(創らないという選択肢は…ないな)
「あぁ? 何考えてっかは、なんとなーくわかったが…そこまでしなくてもいいぞ?」
その言葉に、遠慮が美徳みたいになっている日本人を思い出した。
「カムイが強いって信じてるけど、でも…それでも……俺の力でも守りたいんだよ。それに、いろいろお礼もしたかったし」
なんとかもらってほしくて、俺にしては珍しくグイグイいく。
「その耳にピアスもかっこいいなー…なんて。ピアスだったら、その姿でもあの姿でも変わらず着けられるんじゃない? ……なーんて思うんだけどぉ…」
グイグイいった割には、最後の方が徐々に小声になってたあたりが俺らしいっちゃ俺らしい。
ジーッとカムイさんを見つめ……てたんだけど、小さい目ですっごく睨んでくるもんだから先に目をそらしちゃったのは俺の方。
「そんなに…睨まなくてもいいじゃん……」
ボソボソと愚痴をいいながら、背中を向ける。完全に負けてしまった。
「…あーあ」
自分に出来ることあるかもと思いもしたから、なおのことでキタ! とか思ったのになぁ。
「わかった、わかった。わかりやすくいじけんな、アペル」
その俺の背中に、押し殺したようないつもの笑い声が聞こえてきて、背中にあの小さな手がトントンとまるで子どもをなだめるみたいに何度も繰り返し触れてくる。
「あんまりにも必死すぎてな? 面白すぎて笑いをかみ殺すの…大変だったんだぞ? これでも」
顔だけ振り返れば、背中の方から顔の方へと近づいてきて今度は頭を撫でる。
「ピアス、創れよ。どうせ同じようになんか付与すんだろ? 魔石使うんなら」
って、確認してきた。
「……するよ、付与。ピアス一個だけなら、俺と同じのが効くようにってどっちの魔石もつけるし。なんなら、先に創ったのに付与したのも付けたっていいし。…カムイを俺の力でも守らせてほしいだけ」
いじけたように、ごもごもとした話し方で呟いた俺の言葉を、カムイさんはちゃんと聞いてくれてて。
「そこまではいらねえよ。…そうだな、さっき話していた雷の魔法のやつ。そっちだけでいい。相手が痺れている間に、逃げるなりなんなりできるのが利点だな」
たったそれっぽっちでいいの? と思って、小さくうなってから俺はカムイには内緒で出力大きめで創ろうと決めていた。
新しい錬成陣を描き、同じ手順で連なるものも描いていく。文字の配列を少し変えて、書き加えたのはさっき決めたばかりの最大出力の項目。
雑魚ってのがどの程度かわからないけど、それくらいなら殺れるくらいのにはしておこう。気絶程度にしたい場合は、カムイさんがそう念じたらそうなるように経路を変えてもう一本引いて…っと。
小さな小さなピアスの中に収めるには、結構な情報量だ。
魔力の自動調整が可能な俺じゃなきゃ、きっと…(以下略)
とにかく、俺が創りたいと思ったものが創れるのならそれでいい。
「じゃ……上手くいきますように……っと…錬…成っ」
さっきよりも高めの金属音が鳴って、結界を徐々に解除していけば小さなリングみたいなピアスが出来た。
こういうの、何ピアスっていうんだっけな。
艶やかな黒の中に控えめなオレンジの魔石が三つ連なって埋め込まれている。
「…こういう感じになったのか」
念のためで鑑定をすれば、三つを埋め込まなきゃ最大出力にはカムイさんの体への反動があったぽい。
(うわぁ……、なんとか無事に創れてよかった。危うくカムイさんに電撃が返ってきちゃうかもしれなかったんだよね?)
ホッとしつつ、カムイさんにそれを手渡す。
「あのね、着ける前に…ここに契約の時みたいに血に魔力を纏わせて、カムイのだって認識させたいんだよね。他の誰にも使えないように」
ちなみにだけど、誰かが盗ったとか使ったって時点で、動けなくなるくらいの電流が体に流れる設定。これも、カムイさんに内緒だな。
内緒ごとを抱えつつ創った、一つのピアスを目の前にして。
「…まーた…厄介なものを」
小声でカムイさんが何かつぶやいたけど、よく聞こえなくって。
「ん? なに?」
聞き返したけど、「別にー」と教えてもらえず。
認識させてから、カムイさんの左耳につけることにして。風魔法を纏わせてから、その魔法で挿すようにすると同時に回復魔法をかける。痛みがないように、って。
「過保護にも、ほどがある。これっぽっち、ツバでもつけてりゃ治るっての」
ピアスを着けたあたりを、毛づくろいみたいにグイグイ手で撫でているんだけど。
(やっぱ、この姿の方が好きかも)
ただただ可愛いだけのカムイさんの姿に、この可愛いのが守れるんだったら多少の魔法の出力大きめなピアスも無駄じゃない気がした。
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