配信者と行く TSエルフのダンジョン探索記

とまと屋

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第7話

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 エルフと会話ができるようになったと聞いて、お偉いさんたちは期待に震えたことだろう。
 そりゃあ、ダンジョンで遭遇するのは魔物か動物くらいで、エルフなんて初めて遭遇する異世界の住人だ。なにかしらダンジョンの情報を得られるのではないか、と期待が高まっていたに違いない。
 すぐに探索者エクスプローラーギルドのお偉いさんたちから呼び出しを受けた。
 その席には探索者エクスプローラーギルドの関係者じゃない────多分、国から派遣された────者もいて、質問攻めが始まった。
 まあ、彼らの期待がことごとく打ち砕かれるのに時間はかからなかったんだけどね。
 当然だよね。エルフとはガワだけの、中身は100%日本人なボクなんだもの。ダンジョンとか異世界の情報なんて持ってないよ。
 記憶喪失ってことで押し通したけれど、思い出せないフリは大変だったな。
 ひょっとしたら外見がエルフっぽく変化しただけで、中身は呪いでもかけられた探索者エクスプローラーなんじゃないかって意見も出た。
 実はボクもそれは疑った。だって異世界の記憶なんてまったく無いんだもの。
 だけど予想外のところから、この肉体は異世界と無関係ではないってわかってしまった。それはダンジョンで見つかった未知の言語で書かれた書物の一部だ。

『君があのダンジョンと繋がっているであろう異世界の住人ならば、これが読めるのではないかね?』

 そう言って渡された書物が、なんと読めてしまったのだ。まるで最初から知っている文字であるかのように。
 どうやら、この肉体は本当にエルフと関係があるようだった。なんとも複雑だ。
 書物、いや正確にはダンジョンに挑んだ何者かの手記は、どうやら死ぬ間際に書かれたものらしかった。


【────とは思わなかった。どうやら自分はここまでのようだ。
 だが無駄死にではないはずだ。私と仲間が稼いだ時間で、このダンジョンを封印する準備は整うはずだから。
 このダンジョンを逃がしてはいけな────】


 ダンジョンを逃がすという文が意味不明だけど、どうやら封印されるはずだった、もしくは封印されたがゆえにダンジョンが地球と繋がってしまったと考えられる。
 他にもダンジョンで見つかった未知の言語で書かれたものはいくつか見つかっており、それらを翻訳して断片的な情報をまとめると、どうやらこのダンジョンで少なくとも二つの勢力が争っていたことが判明した。その事実がわかっただけでも探索者エクスプローラーギルドの士気は上がった。
 ちなみに翻訳料は結構な額になって、ボクの懐は温かくなった。ありがたや。
 ああ、念の為ボクの存在は公にしないことが探索者エクスプローラーギルドと国のお偉いさんの間で決まった。探索者エクスプローラーには箝口令が敷かれたけれど、人の口に戸は立てられないと思うよ。

         ◆  ◆  ◆

「よし、これより教育課程修了式を行う」
 教官の前に駆け出し探索者エクスプローラーが並ぶ。その数二十人。
 男女混合。装備もまちまち。割と重装備な戦士風の者もいれば、軽装で軽い武器を持つ者もいる。
 ひとつだけ彼らに共通していることは、全員の顔に興奮と緊張が窺えることだ。
 その末席にボクはいる。ちらちらと全員の視線が飛んできて居心地が悪いったらありゃしない。
 とはいえ、これはボクが望んだことでもある。少なくともこのダンジョンにボクをエルフに変えたなにかがあるはずで、それを突き止めたくてしょうがないのだ。
 そして……よくわからないんだけど、ダンジョンに潜らないといけないという使命感があって、ボクを探索に駆り立てるんだ。

「ダンジョンに潜れば、なにか思い出すかもしれない」

 ボクのその言葉に、探索者エクスプローラーギルドのお偉いさんたちが反対する理由はなかった。
 とはいえ、手綱は握っておきたかったんだろう。探索者エクスプローラーギルドのやり方に従うよう求められ、駆け出し探索者エクスプローラーとして教育を受けることになってしまった。
 だけど、そこは元5級探索者エクスプローラーのボクだ。さくさく~っと課題と試験をクリアして、一ヶ月後の教育課程修了式に間に合ってしまった。
  すでに10級のギルドカードは貰っているけれど、最後の実習を終えなければ依頼を受けることができない。みんな気合が入ろうというものだ。
 まあ、年単位で訓練してきた駆け出し探索者エクスプローラーたちにしてみれば、わずか一ヶ月で自分たちに並んだチビエルフは面白くないだろう。
 非友好的な、だけど異世界の住人と仲良くしたいという気持ちが入り交じった、複雑な視線が突き刺さってくる。
 やれやれ、やっぱり地上は居心地が悪いったらないね。さっさと教育課程修了式────教官同行のダンジョン探索実地研修────を終わらせてフリーになりたいよ。
 あ、いや、10級じゃソロは無理だな。むう……組める相手いるかなあ。
「今一度、装備を確認する。全員、背嚢バックパックの中身を点検!」
 教官の号令に、全員が背負っていた背嚢バックパックを下ろして口を開ける。
 今更ながら、魔法鞄マジックバッグを失ったのが辛いな。あれがあれば、こんなに重い背嚢バックパックを背負わなくてもいいのに。
「まずはロープ!」
 教官の声に合わせて中身を取り出していく。ロープ、火口箱、楔、松明、包帯……。
「えーっと……どっちが油でどっちが水でしたっけね」
 隣からマヌケな声がする。
 見なくてもわかるけれど一応確認。……ああ、やっぱり。美桜みおか。
 御蔵美桜みくら みおは髪の短い童顔の少女だ。年齢は確か十六歳だったか。
 男子顔負けに背が高く、話をする時には見上げないといけないので首が痛くなる。
 パッと見、ヒョロガリに見えなくもないんだけど、無駄のない引き締まった肉体を持っているのは訓練生なら全員が知っている。なにせ得物が背中に背負った、ボクより大きな戦鎚ウォーハンマーなのだから。
 肉体はものすごいけれど、頭は少し弱い感じの彼女は、また簡単なミスをしているようだ。
 しかたない。
「貸して」
「おおっ?」
 彼女が持っている水袋をぶん取る。口を開けて匂いを嗅げば中身は一発だ。
「こっちが水。こっちが油」
「おーっ、さすがミヤコちゃん」
「そもそも水と予備の油を同じ入れ物に入れるのが間違い。しょうがないから油の方に印つけておいてあげるよ」
「いやーっ、いつも助かるっすー」
 まったく申し訳なさそうではない、いい笑顔で美桜は笑う。ずっとこんな感じだ。
(手がかかるけど、不思議と憎めないんだよねえ)
 ちなみに美桜が呼ぶ「ミヤコ」というのはボクの名前だ。
 思い出したわけじゃない。ただ、名前がないと不便だからと探索者エクスプローラーギルドのお偉いさんが勝手に名付けようとしたので、自分で考えたのだ。
 ミヤコ・スプリング。それがボクの今の名前。男だった時の名前、春都をもじっただけだけどね。
 それから一ヶ月。この名前で呼ばれるのも慣れてきた。
「みんなも見ておけ。御蔵みたいな凡ミスでも最悪の事態はあり得るからな」
 晒し者にされるが、これは仕方ない。ちょっとしたミスがダンジョンでは命とりだしね。
 まあ、当の美桜はといえば。
「いやあ、恥ずかしいっす」
 そう言って頭を掻いている。
 本当に恥ずかしいのか、強がっているのか判断に迷うな。普段から飄々としてるからな、美桜は。
 そういえば、訓練所に入った時、真っ先に声をかけてきたのも美桜だったな。

『御蔵美桜っすー。いやー、生エルフちゃん、可愛いっすねー』

 他の訓練生が異種族のボクにどう接しようか迷っていたのに、まったくためらうことなく挨拶してきたんだ。
 距離感が近いんだよね、美桜は。
 その後、どんどん課題をクリアして同期を置き去りにしてしまったボクは、半ば訓練所で孤立していたと言えるだろう。
 最初こそエルフのボクと仲良くなりたそうだった同期たちも、嫉妬からか距離をとるようになってしまった。

『エルフだから』
『見た目通りの年齢じゃないんだろ』
『所詮は異種族』

 まあ、ボクの対応がマズかった部分もあるとは思う。早くダンジョンに潜りたくてコミュニケーションをおろそかにしていたのは事実だ。
 だけど、そんな陰口がちらほら耳に入るようになっても、美桜の態度は変わらなかった。
 ……ああ。だから、美桜の世話を焼いてたのかな、ボクは。知らず救われていたのかもしれない。
「武具も確認しておけ。熟練の鍛冶職人が作ってくれた業物ばかりだが、不具合がないとも限らない。予備もちゃんとあるか? 足りなくなったからと買いに戻ることは簡単じゃないぞ」
 時代に取り残され、静かに消えていくと思われた昔ながらの鍛冶師たちは、ここダンジョンでその腕を振るう機会を得られた。
 最初期はやはり年老いた人が多かったようだけど、今では若い世代も育ってきて武具の供給も安定している。
 もちろん、業物や魔法の武具もある。ラエン銀は軽くて魔力や気の伝導率が高いため、武具にも最適だ。製造にかなりの時間と労力が必要なため、駆け出しに買えるような値段じゃないけどね。
 他にも様々な職人たちが、ここでその腕を振るっている。紙漉き、革職人、研ぎ師……。彼らがいなければ探索もままならないと思うと感謝しかないね。
 ちなみにボクは身体が小さいので重い武器は持てない。だから短剣ダガーをメインに、短刀ナイフを数本持つことにした。防具が革鎧レザーなのは、やはり重い鎧が着れないから。
 うーん、さすが幼女体型、貧弱だ。素早さはあるんだけどなあ。
 ちなみに美桜は巨大な戦鎚ウォーハンマーをメインに、予備に片手で持てるハンマー。鎧は鎖帷子チェインメイルの上に胸甲ブレストを着けている。
 いいなあ、力があって。
「よし、足りない物はないな? では、これからダンジョン探索実地研修を始める。すでに探索された2階までを回るが、それでも危険はある。全員、心してかかるように」
 教官の合図とともに、ボクたちはダンジョンへと下りるゴンドラに乗り込んだ。
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