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第8話
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「トイレに行きたい者は今のうちに行っておけよ。探索が始まったら自由にトイレには行けないからな」
ダンジョン1階に下りるや否や、教官のこの言葉。
戸惑う駆け出し探索者の姿に笑いを堪えるのが大変だ。
このダンジョン、入ってすぐにトイレがあるのだ。ご丁寧に男女別々に。
もちろん、最初からあるものじゃない。ダンジョン探索最初期に、わざわざ作られたものなのだ。
世界各地にダンジョンはあるけれど、トイレが設置されたのは日本だけだ。世界中が驚いたと聞いている。
残念ながら水洗じゃなくてボットン便所。だけどトイレの設置は探索者たちに喜ばれている。誰だってそこらで排泄したくないもんね。
一応、臭い対策として好気性発酵させた植物性堆肥が置いてあって、用を足したらその堆肥を投入して臭いを抑える。
トイレは各階に設置されていて、定期的に堆肥の追加、肥え汲みが行われ、排泄物は肥料として再利用されている。
ある意味、循環型社会が実現しているとも言えるか。
「あたしは入るー。ミヤコちゃんもどうです?」
「……行っておこうかな」
女の子って連れだってトイレ行きたがるよね。コミュニケーションの一環なのかな。よくわかんないけど。
わからないといえば、性別が変わってトイレが我慢できなくなったように思う。身体が小さくなったことも関係してるんだろうけど、もう少し我慢できると思っていたら……なんてこともあったしな。
「黒歴史だ……」
「なにか言ったっすか?」
「いや、なにも」
トイレタイムが終われば、いよいよダンジョン探索の始まりだ。
1~2階は天然の洞窟に近い。ゲームと違って通路の幅も天井の高さも一定じゃなくて、人ひとりが通れる程度の通路もあれば、コンサートができそうなくらいに広い空洞もあったりする。通路も曲がっているものだから、実にマッパー泣かせだ。
まずはメイン通路を歩き、2階に続く階段を確認。それから1階を訓練も兼ねて回る。2階は明日以降だ。
すでに地図が作られ、ある程度安全が確保されている1~2階を歩くことに意味があるのかと問われれば、ある。
駆け出しの最初の仕事は素材集めがほとんどで、掘り尽くされた鉱物資源以外なら、1~2階で多くの物が確保できるからだ。
地下だというのに陽光石のお陰で植物が育っている場所もある。意外と植生が豊かなのだ。
と、先頭がつまずいた。メイン通路を外れると、途端に歩きにくくなる。整地されていないからだ。
「ダンジョンは人間の都合に合わせていない。メイン通路を外れたら足元に注意だ、地上での訓練を思い出せ」
障害物をばらまいた場所での戦闘訓練があったなあ。足場の悪い場所での戦闘は本当に大変なんだ。
「なぜ、メイン通路は整地されているのか。……答えてみろ」
「え、えっと……トロッコが走っていたからです」
「正解だ。1~2階は採掘が終わっているからメイン通路の線路は撤去された。だが、使われなくなった坑道には残されているところもある。ダンジョンが広がれば、またトロッコが走ることもあるだろうからな。だから坑道に入るなら線路につまずくなよ」
そう、地上でダンジョンの領域が広がるのに合わせてダンジョンそのものも広がっていくのだ。過去3回、ダンジョンは広がったそうだ。その結果、新しい鉱脈が現れることもあるし、新しい魔物が出現することもあるという。地下1~2階の危険度が上がる日も遠くないのかもしれない。
重要な場所を回りながら、教官の抜き打ちテストもたまに始まる。
「ここは湧き水が出ている。量は多くないが貴重な水場だ、場所は覚えておけ。……そこで問題だ。ここで気をつけるべきことはなにがある?」
「え、えっと……。人間以外も飲みに来る、ですか」
「そうだ。この階には小鬼くらいしか魔物はいないが、奴らは群れる。十分警戒して訪れるように。……他にはないか?」
いきなり指名された一人が迷いながらも答える。満足そうに頷いた教官はしかし、他の危険はないかと問いかけてくる。
顔を見合わせる仲間たち。
まあ、教官がわざわざ水場に案内してきて、ある可能性に触れないことに気づいていないんだろう。
自分も駆け出しの頃は、おいおいって思ったもんなあ。
「んー、わかんないっすね。……ミヤコちゃんはわかるです?」
「まあ、予想はついてる」
「えっ、なんなんです?」
美桜の大声で注目が集まってしまったじゃないか。
教官に視線で問いかけると、頷かれたので答える。
「毒物が混入していないかどうか」
ええっ! と驚くみんな。うん、わかる。
わざわざ水場だ、と案内されたら、普通は飲めると思うはず。
だけど動物の糞尿が混入する可能性はゼロではないし、小鬼は簡単な毒物を扱うぐらいの知恵はある。人間を殺すために水に毒物を投げ込むくらいはやっても不思議じゃない。
まあ、貴重な水場を汚染したら、自分たちも困ることに気づいてくれていればいいんだけどね。
……いや、気づくかなあ? ……気づかないだろうなあ。
「その通りだ。不純物が混ざるくらいなら可愛いものだが、毒物を投げ込まれては命に関わる。まずは色や匂いを確認しろ。余裕があれば濾過、毒物が疑われるなら、毒物を吸着する茸を使用しろ」
幸い、毒物は含まれていなかったので水を補給。小さいながらも水は川になっているけれど、やはり湧き水の方が衛生的にも安全だし。
そして探索は続く。
「先頭を行く物は足跡を常に探せ。真新しい魔物や動物の足跡があれば注意が必要だ」
「1~2階には罠は確認されていないが、小鬼が簡単な罠を作ることが確認されている。罠の基本型を忘れるな」
「床だけでなく天井、壁も注意しろ。特に照明の影になる部分だ」
教官の指導がバシバシ飛ぶ。
二十人もいるし、先頭には交代で立つけれど、仲間たちは必要以上に神経をすり減らしていく。どこまで警戒すればいいのか、程度がわからないから。
懐かしいな、この感じ。ボクの時も人数はいるのに、とても疲れたのをよく覚えている。
……おっと。ボクが先頭の時に出たか。
「全員、止まれ」
ボクの指示に戸惑う仲間たち。ボクは黙って先の天井に光を当てる。ごく普通の岩天井に見えるが……。
「あ、なにかいるっすね」
最初に美桜が気づいた。天井の微妙な膨らみに。
「よく気づいたな、洞窟蜘蛛だ」
教官の言葉に全員が青くなる。
洞窟蜘蛛。地下1~2階に生息する巨大な蜘蛛で、天井に張りついて獲物を待ち、下を通りかかった獲物に糸を浴びせながら襲い掛かる難敵だ。じっとしていると体色もあって岩と間違いやすい。
今回のように大人数で行動していると襲われにくいけれど、最後尾の者が襲われることがたまにある。素早く口を糸で塞がれてしまうので助けも呼べず、気がついたら仲間がひとりいなくなっていた、なんてことがよくあったらしい。
もっとも、奇襲に全振りしているだけあって、見つけてしまえば怖くはない。今も仲間の矢の集中砲火を浴びてあっさりと死んだ。体は柔らかいからなあ、洞窟蜘蛛。
警戒感も新たに進むも、そのあとは大きな危険もなく。やがて天井一面に陽光石が点在する広場に到着した。光があるお陰で弱々しいながらも草木が茂る地下のオアシスだ。
広場の片隅で岩が動いたように見える。1~2階に生息する巨大な亀、岩亀だ。大きさは小さい個体でも体高3メートルはあり、甲羅は当然、皮膚も岩のように硬い。
人間を襲うようなことはないが、攻撃を仕掛けた探索者が踏み潰された例もある。刺激しないのが一番だ。
その手前で草を食んでいるのは鹿によく似た動物、爆音鹿たち。肉が美味いので定期的に狩られている。また、その角は弓の材料にも使われる。
温厚で、こっちから手を出さない限りは安全なんだけど、襲われると口から爆音をともなった衝撃波を放ってくるので注意が必要。それに群れで行動することが多いので、なにも考えずに狩ろうとしたら返り討ち必至だ。
他にも草の中を小動物が走り回っているが、脅威になるようなものはいなさそうだ。
「よし、今日はここで野営する。動物に注意しつつ、各自準備にかかれ」
草木と水。それらがあればダンジョンに生息する動物が集まってくる。この階に肉食獣は確認されていないけれど、草食動物だからって油断しているとひどい目に遭う。
疲れた体に鞭打って皆が手分けして動き出す。
薪を集める者、料理の準備を始める者、寝所の準備をする者。
陽光石の光が弱くなってきた。ダンジョンの夜がそこまで来ている。急がないと。
「ミヤコちゃん、なに作ってるんです?」
「んー……ベッドみたいなもの、かな」
ボクは木の枝を落とし、組み合わせて蔓草で縛って簡易ベッドのようなものを作る。ベッドほど頑丈でもないし、快適でもない。ただ、地面から少し浮く程度の物。
でも、それが重要。ここみたいに草木がある場所には虫がいる。寝袋だろうが毛布だろうが、下生えの上に直に寝ると服の中に虫が入ってくることがある。それを避けるためだ。
もちろん100%ではないけれど、少しの高さで虫を避けられるのだから、材料があれば作るしかないね。
美桜に説明していると教官が苦笑した。
「一度経験させてから教えようと思っていたんだがなあ」
失敗から学ばせるつもりだったのか。しまったな。
周りを見れば、仲間たちが見よう見まねで枝を組み合わせ始めていた。うん、もう遅いね。
隣では美桜が枝と悪戦苦闘している。
「ミヤコちゃん、どうやればいいんすか?」
「……美桜って戦闘以外では不器用だよね」
仕方ないので美桜のも手伝ってあげた。
「人間、火を見ると落ち着くって言うっすねー」
「見るのは薪をくべる時だけだよ」
「わかってるっすよ」
保存食を利用した鍋を皆で囲み、舌鼓を打ったら、明日に備えて就寝だ。
四人一組、交代で見張りに立つ。ボクは二番手の見張り番になった。美桜も一緒だ。
焚き火を囲んでお話しを、なんて考えそうだけど、見張りは火を見ちゃいけない。焚き火に背を向け、ダンジョンの暗闇に目を慣らしておかないと異変に気づくのが遅れるからだ。
「……ダンジョンって不思議だよな。この煙はどこに行くんだろう」
「そういえば常に空気が循環してるよね」
同じく見張りに立つ仲間が話題を振ってくる。彼らの疑問は当然だよね。
どこで吸換気してるのかは不明だけど、ダンジョンは常に空気が循環している。お陰で酸欠にならずに済んでいるし、こうやって火も使える。いやはや、ファンタジーだね。
そして空気の流れは臭いも運んでくるわけで。
「……みんなを起こして」
「え? なんかあったか?」
「覚えておくといいよ。この酸っぱい独特の臭いは……小鬼だよ!」
広場に通じる左右の通路。そこに赤い光が無数に現れる。小鬼の目だ。数は……こっちより多いな。
「おらああっ、起きるっすーっ!」
美桜が眠っている仲間たちを片っ端からひっくり返していく。
同時に、気づかれたことを察した小鬼たちが、奇声を発して押し寄せてきた。
ダンジョン1階に下りるや否や、教官のこの言葉。
戸惑う駆け出し探索者の姿に笑いを堪えるのが大変だ。
このダンジョン、入ってすぐにトイレがあるのだ。ご丁寧に男女別々に。
もちろん、最初からあるものじゃない。ダンジョン探索最初期に、わざわざ作られたものなのだ。
世界各地にダンジョンはあるけれど、トイレが設置されたのは日本だけだ。世界中が驚いたと聞いている。
残念ながら水洗じゃなくてボットン便所。だけどトイレの設置は探索者たちに喜ばれている。誰だってそこらで排泄したくないもんね。
一応、臭い対策として好気性発酵させた植物性堆肥が置いてあって、用を足したらその堆肥を投入して臭いを抑える。
トイレは各階に設置されていて、定期的に堆肥の追加、肥え汲みが行われ、排泄物は肥料として再利用されている。
ある意味、循環型社会が実現しているとも言えるか。
「あたしは入るー。ミヤコちゃんもどうです?」
「……行っておこうかな」
女の子って連れだってトイレ行きたがるよね。コミュニケーションの一環なのかな。よくわかんないけど。
わからないといえば、性別が変わってトイレが我慢できなくなったように思う。身体が小さくなったことも関係してるんだろうけど、もう少し我慢できると思っていたら……なんてこともあったしな。
「黒歴史だ……」
「なにか言ったっすか?」
「いや、なにも」
トイレタイムが終われば、いよいよダンジョン探索の始まりだ。
1~2階は天然の洞窟に近い。ゲームと違って通路の幅も天井の高さも一定じゃなくて、人ひとりが通れる程度の通路もあれば、コンサートができそうなくらいに広い空洞もあったりする。通路も曲がっているものだから、実にマッパー泣かせだ。
まずはメイン通路を歩き、2階に続く階段を確認。それから1階を訓練も兼ねて回る。2階は明日以降だ。
すでに地図が作られ、ある程度安全が確保されている1~2階を歩くことに意味があるのかと問われれば、ある。
駆け出しの最初の仕事は素材集めがほとんどで、掘り尽くされた鉱物資源以外なら、1~2階で多くの物が確保できるからだ。
地下だというのに陽光石のお陰で植物が育っている場所もある。意外と植生が豊かなのだ。
と、先頭がつまずいた。メイン通路を外れると、途端に歩きにくくなる。整地されていないからだ。
「ダンジョンは人間の都合に合わせていない。メイン通路を外れたら足元に注意だ、地上での訓練を思い出せ」
障害物をばらまいた場所での戦闘訓練があったなあ。足場の悪い場所での戦闘は本当に大変なんだ。
「なぜ、メイン通路は整地されているのか。……答えてみろ」
「え、えっと……トロッコが走っていたからです」
「正解だ。1~2階は採掘が終わっているからメイン通路の線路は撤去された。だが、使われなくなった坑道には残されているところもある。ダンジョンが広がれば、またトロッコが走ることもあるだろうからな。だから坑道に入るなら線路につまずくなよ」
そう、地上でダンジョンの領域が広がるのに合わせてダンジョンそのものも広がっていくのだ。過去3回、ダンジョンは広がったそうだ。その結果、新しい鉱脈が現れることもあるし、新しい魔物が出現することもあるという。地下1~2階の危険度が上がる日も遠くないのかもしれない。
重要な場所を回りながら、教官の抜き打ちテストもたまに始まる。
「ここは湧き水が出ている。量は多くないが貴重な水場だ、場所は覚えておけ。……そこで問題だ。ここで気をつけるべきことはなにがある?」
「え、えっと……。人間以外も飲みに来る、ですか」
「そうだ。この階には小鬼くらいしか魔物はいないが、奴らは群れる。十分警戒して訪れるように。……他にはないか?」
いきなり指名された一人が迷いながらも答える。満足そうに頷いた教官はしかし、他の危険はないかと問いかけてくる。
顔を見合わせる仲間たち。
まあ、教官がわざわざ水場に案内してきて、ある可能性に触れないことに気づいていないんだろう。
自分も駆け出しの頃は、おいおいって思ったもんなあ。
「んー、わかんないっすね。……ミヤコちゃんはわかるです?」
「まあ、予想はついてる」
「えっ、なんなんです?」
美桜の大声で注目が集まってしまったじゃないか。
教官に視線で問いかけると、頷かれたので答える。
「毒物が混入していないかどうか」
ええっ! と驚くみんな。うん、わかる。
わざわざ水場だ、と案内されたら、普通は飲めると思うはず。
だけど動物の糞尿が混入する可能性はゼロではないし、小鬼は簡単な毒物を扱うぐらいの知恵はある。人間を殺すために水に毒物を投げ込むくらいはやっても不思議じゃない。
まあ、貴重な水場を汚染したら、自分たちも困ることに気づいてくれていればいいんだけどね。
……いや、気づくかなあ? ……気づかないだろうなあ。
「その通りだ。不純物が混ざるくらいなら可愛いものだが、毒物を投げ込まれては命に関わる。まずは色や匂いを確認しろ。余裕があれば濾過、毒物が疑われるなら、毒物を吸着する茸を使用しろ」
幸い、毒物は含まれていなかったので水を補給。小さいながらも水は川になっているけれど、やはり湧き水の方が衛生的にも安全だし。
そして探索は続く。
「先頭を行く物は足跡を常に探せ。真新しい魔物や動物の足跡があれば注意が必要だ」
「1~2階には罠は確認されていないが、小鬼が簡単な罠を作ることが確認されている。罠の基本型を忘れるな」
「床だけでなく天井、壁も注意しろ。特に照明の影になる部分だ」
教官の指導がバシバシ飛ぶ。
二十人もいるし、先頭には交代で立つけれど、仲間たちは必要以上に神経をすり減らしていく。どこまで警戒すればいいのか、程度がわからないから。
懐かしいな、この感じ。ボクの時も人数はいるのに、とても疲れたのをよく覚えている。
……おっと。ボクが先頭の時に出たか。
「全員、止まれ」
ボクの指示に戸惑う仲間たち。ボクは黙って先の天井に光を当てる。ごく普通の岩天井に見えるが……。
「あ、なにかいるっすね」
最初に美桜が気づいた。天井の微妙な膨らみに。
「よく気づいたな、洞窟蜘蛛だ」
教官の言葉に全員が青くなる。
洞窟蜘蛛。地下1~2階に生息する巨大な蜘蛛で、天井に張りついて獲物を待ち、下を通りかかった獲物に糸を浴びせながら襲い掛かる難敵だ。じっとしていると体色もあって岩と間違いやすい。
今回のように大人数で行動していると襲われにくいけれど、最後尾の者が襲われることがたまにある。素早く口を糸で塞がれてしまうので助けも呼べず、気がついたら仲間がひとりいなくなっていた、なんてことがよくあったらしい。
もっとも、奇襲に全振りしているだけあって、見つけてしまえば怖くはない。今も仲間の矢の集中砲火を浴びてあっさりと死んだ。体は柔らかいからなあ、洞窟蜘蛛。
警戒感も新たに進むも、そのあとは大きな危険もなく。やがて天井一面に陽光石が点在する広場に到着した。光があるお陰で弱々しいながらも草木が茂る地下のオアシスだ。
広場の片隅で岩が動いたように見える。1~2階に生息する巨大な亀、岩亀だ。大きさは小さい個体でも体高3メートルはあり、甲羅は当然、皮膚も岩のように硬い。
人間を襲うようなことはないが、攻撃を仕掛けた探索者が踏み潰された例もある。刺激しないのが一番だ。
その手前で草を食んでいるのは鹿によく似た動物、爆音鹿たち。肉が美味いので定期的に狩られている。また、その角は弓の材料にも使われる。
温厚で、こっちから手を出さない限りは安全なんだけど、襲われると口から爆音をともなった衝撃波を放ってくるので注意が必要。それに群れで行動することが多いので、なにも考えずに狩ろうとしたら返り討ち必至だ。
他にも草の中を小動物が走り回っているが、脅威になるようなものはいなさそうだ。
「よし、今日はここで野営する。動物に注意しつつ、各自準備にかかれ」
草木と水。それらがあればダンジョンに生息する動物が集まってくる。この階に肉食獣は確認されていないけれど、草食動物だからって油断しているとひどい目に遭う。
疲れた体に鞭打って皆が手分けして動き出す。
薪を集める者、料理の準備を始める者、寝所の準備をする者。
陽光石の光が弱くなってきた。ダンジョンの夜がそこまで来ている。急がないと。
「ミヤコちゃん、なに作ってるんです?」
「んー……ベッドみたいなもの、かな」
ボクは木の枝を落とし、組み合わせて蔓草で縛って簡易ベッドのようなものを作る。ベッドほど頑丈でもないし、快適でもない。ただ、地面から少し浮く程度の物。
でも、それが重要。ここみたいに草木がある場所には虫がいる。寝袋だろうが毛布だろうが、下生えの上に直に寝ると服の中に虫が入ってくることがある。それを避けるためだ。
もちろん100%ではないけれど、少しの高さで虫を避けられるのだから、材料があれば作るしかないね。
美桜に説明していると教官が苦笑した。
「一度経験させてから教えようと思っていたんだがなあ」
失敗から学ばせるつもりだったのか。しまったな。
周りを見れば、仲間たちが見よう見まねで枝を組み合わせ始めていた。うん、もう遅いね。
隣では美桜が枝と悪戦苦闘している。
「ミヤコちゃん、どうやればいいんすか?」
「……美桜って戦闘以外では不器用だよね」
仕方ないので美桜のも手伝ってあげた。
「人間、火を見ると落ち着くって言うっすねー」
「見るのは薪をくべる時だけだよ」
「わかってるっすよ」
保存食を利用した鍋を皆で囲み、舌鼓を打ったら、明日に備えて就寝だ。
四人一組、交代で見張りに立つ。ボクは二番手の見張り番になった。美桜も一緒だ。
焚き火を囲んでお話しを、なんて考えそうだけど、見張りは火を見ちゃいけない。焚き火に背を向け、ダンジョンの暗闇に目を慣らしておかないと異変に気づくのが遅れるからだ。
「……ダンジョンって不思議だよな。この煙はどこに行くんだろう」
「そういえば常に空気が循環してるよね」
同じく見張りに立つ仲間が話題を振ってくる。彼らの疑問は当然だよね。
どこで吸換気してるのかは不明だけど、ダンジョンは常に空気が循環している。お陰で酸欠にならずに済んでいるし、こうやって火も使える。いやはや、ファンタジーだね。
そして空気の流れは臭いも運んでくるわけで。
「……みんなを起こして」
「え? なんかあったか?」
「覚えておくといいよ。この酸っぱい独特の臭いは……小鬼だよ!」
広場に通じる左右の通路。そこに赤い光が無数に現れる。小鬼の目だ。数は……こっちより多いな。
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