人間の俺は狼に抱かれている。

レイエンダ

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序章 転生

本当に落とされました

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 人魚さんと話をしていた空間は、何も感じなかった。

 音。
 匂い。
 風。
 温度。
 湿度。

 これかの概念が存在しないかのような、本当に無の空間。
 人魚さんと俺がいる。
 ただそれだけだった。

 まばゆい光に包まれた刹那。
 人魚さんの髪色に似たような色が目に入った。
 視界いっぱいに広がる水色。

 死後何時間後に目を覚ましたのかはわからない。
 すぐかもしれないしいい、肉体が燃やされてからかもしれない。
 生前梅雨の時期だった日本は、雨続きで薄暗い日が続いていた。

 だからかな。


(……綺麗だ)


 こんなにも晴れた空が美しく感じるのは。

 異世界転生っていいな。
 主人公がモテるストーリーが羨ましいな。
 圧倒的な力を使うのはどんな気分なのかな。

 異世界転生を題材にした小説を数多く読んでいた俺は、“もしも自分がそうなったら”という夢物語のような事を考えながら仕事のストレスを発散していた。

 火属性の魔法で話の通じない上司の髪の毛を燃やして楽しい嬉しいハゲライフをプレゼント。
 水属性の魔法でてプールの水をどこかに移動させて営業停止。
 風属性の魔法で理不尽なクレームを言ってくるお客さんを強制退館。

 そんな事を考えていたわけだよ。
 生前の俺は。

 しかし、いざ“異世界に転生させます”と言われると、嬉しい反面、やっていけるのだろうか?と不安な気持ちがあった。
 寧ろ不安しかない。
 安心安全のチート設定は無いし、暖かい家庭の子供として生まれ変わるわけでもない。

 生まれたての赤子としてただ落とされるだけ。
 拾って育ててもらえるかもわからない。
 もしかしたら拾われずに餓死するかもしれない。
 モンスターに食われてしまうかもしれない。
 一瞬の間にそこまで考えたのだ。


(このまま拾われずに死んでもいいかもしれない)


 そう思ってしまうほどこの世界の空は、美しく清んだ水色をしていた。
 もうすこし日が登れば、人魚さんのサファイアのような青になるのだろうか。
 そんな期待を抱いていた。


(人魚さーん。ありがとーう)


 声に出して聞こえもしない人魚さんにお礼の言葉を伝えようとした。
 鳥の音や、風によって草木が揺れる音が聞こえるというのに、俺の言葉は耳に届いてこなかった。
 言葉の代わりに聞こえたのは「あー!あー!」というなんとも可愛らしい声で。

 どうやら赤子の状態では喋ることができないらしい。
 団子のように小さな手を上下に動かしながら、一人パニックに陥っていた。

 そして更に悲しいお知らせがある。
 空に夢中で気づかなかったが、俺はどうやら、スカイダイビングの真っ最中のようだ。

 パラシュートなどあるわけもなく、地面が近づいているというのにスピードが落ちる気配がない。


ーーー……まぁ、大丈夫でしょう。死にはしませんので。


 人魚さんの言葉を信じて、慌てながらも叫ばずに待っていたのだが、地面まであと数メートルとなった今、


「オギャア!オギャア!オギャア!」


俺は全力で叫んでいる。

 はたから見れば泣き叫んでいるように見えるだろうが、そのまま捉えてもらって構わない。
 なぜならば、非常に恐ろしく怖い状況だからだ!
 パラシュート無しでスカイダイビングだぞ!?
 泣き叫ばない大人なんているはずがない!

 言葉として口から出てこない分、心の中で喋り続ける。
 そんな事をしているうちに地面との距離は数十センチ。
 布に包まれただけの身体は風を受け回転し、背中から落ちるという優しい状況ではなく。
 運悪く頭が真下の状態で数センチの距離になってしまった。

 これ、死亡フラグ立ってるよな?

 この時の俺は、きっと白目を向いていたと思う。

 衝撃に耐える為、きつく目を閉じる。
 しかし、いつまで経っても痛みは無かった。
 頭、背中、足という順に冷たい何かに触れる。
 落ちたとうより、誰かの手によって横にさせて貰っているような、そんな感じだった。

 地面に触れる直前で魔法が発動するよう、この布にインプットしていたのだろうか?

 なんの説明もなかった為、ただの憶測に過ぎないが、きっとそうだろうと思い込むことにした。
 体を包む布は青色で。
 人魚さんは水色と青が好きなのかな?と、個人的な見解を述べてみる。
 とはいっても、「あー。あー」という声しか出ないんだけどな。

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