人間の俺は狼に抱かれている。

レイエンダ

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第二章 日常のようで非日常

止まらぬ想い

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 涙で滲んだ視界の端に、見慣れた銀髪が映った。
 消えた音たちが俺の元へ帰ってくる。
 手、首、胸、股関節、足。
 男と俺を繋いでいた全ての触手が、「グシャッ」という音を立てる。
 同時に、大量の血潮が波のように押し寄せてきた。


「ぐあぁぁあぁぁぁ!!!」


 男が叫ぶ。
 苦痛に顔を歪め、自分の体を抱いて後退する。
 繋がっていたもう一つの場所も、ようやく解放された。

 数分振りに両足が地を踏む。
 壁に寄りかかりながら、力なく崩れ落ちる。
 体に残った物体は熱を失っていた。


「く、そがあぁあぁ!!!」


 落としていた視線を男に向ける。
 背からは相変わらず数本の触手がうごめいていた。
 先程見ていた時と違うのは、長さが半分以下ということと、出血しているということ。

 切断面から止めどなく流れ落ちる血液。
 鋭い刃物で切られたような、綺麗な切り口。


「ネロちゃん!」


 聞き慣れた声。
 爪と地面が擦れる、「カリッ、カリッ」という音。
 荒い息遣い。
 視界いっぱいに広がる大好きな顔。


「タキ……トゥスっ、さ…ま」


 そこでようやく、助けられたのだと悟った。


「怖かったね。もう大丈夫」


 柔らかくて、包み込むような声。
 視線を合わせるために下げられた頭に、躊躇することなく抱きついた。
 自分が血だらけなのも、タキトゥスが汚れてしまうのもわかっている。

 わかっているけど、


「こわ、かったぁ……」


それ以上に怖かった。
 後で謝るから、と泣きながら腕に力を込めた。
 

「……っ」


 触手とは違う何かが頰に触れた。
 銀色で、風になびく柔らかいもの。
 少しだけ、こそばゆい。
 タキトゥスの尻尾だと気付くのに、然程時間はかからなかった。


「あー、もう。抱きしめたいのにできないなんて……もどかし過ぎる」


 浮かせていた腰を下ろし、空いている二本の尻尾で自分の体ごと包み込む。

 密着する体。
 触れる熱。
 伝わる優しさ。


「……タキトゥス、様」
「うん」


 名前を呼べば、前足を膝の上に置いて返事をしてくれた。
 まだ涙は止まらない。


 でも、


「……っ、好き」
「え?」
「好き、っです……」


この気持ちも止まらないんだ。


「……二人が、好き」


 好き。
 大好き。

 同じ色の瞳も、
透き通った銀の毛並みも、
もどかしく置かれた前足も、
遠慮がちに頰を撫でる尻尾も、
匂いも、
声も、
心も、


「……ネロちゃん」


困ったように笑う表情さえも、全部。

 全てが愛おしい。


「好きっ……好きぃ…」
「わかったから。わかったから泣くな」


“可愛い!好き!”


 事あるごとに言ってくるのに、


「泣くなってばー……。どうしたらいいのかわかんなくなる」


こんな時だけ言わないなんてずるい。

 ずるいよ。


「……うぇっ、ぅ」


 こんなに好きなのに、伝わらない。
 独りよがりの“好き”なんて、ただ切ないだけだ。
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